第四十八話【踏み込んだ一撃】
――やれることをすべて試してやろうじゃないか!
これは俺の研鑽の日々が問われる闘い。
こうやって何かが優れた相手を俺はずっとずっと見てきた。
それは敵であったり、味方であったり。
自分に力があれば、こうして、ああしてとシミュレーションはしてきたつもりだ。
終ぞ、一人では力を付けることはできなかったが、今は二人だ。
だから、俺はこいつに勝って証明する。自分の力の強さを信じるために。
「さぁ、仕掛けてくるといい」
鳥人様もお待ちかねのようだ。そして俺ももう心の準備は整っている。
「言われなくてもそうするよ!」
まずは牽制の攻撃を入れておく。大まかに外してもいい気持ちで左手の指先から炎弾を乱射する。
「先と同じ攻撃ではな」
当然あたりもしなければ、カスらせることも難しそうだ。
「さっきと同じと思うなよ!」
その場にしゃがみ込み、右手を地面に触れさせる。
意識を軽く集中して、プレイが避けている直下に地震を――いや揺れを起こす。
本当は地割れくらい使えれば効果は高いんだが、この山そのものに防護壁が張られていて、崩すことは不可能とされている。
いや、きっとドラの力を最大限使えばできるだろうが、そんなことをしている間に殺されてしまう。
わずかでもあいつの動きさえ止めることができれば、ありったけの魔力を叩きこんでやる。
今はそれの下準備だ……想定より速度が速すぎるのが問題だがな。
鳥人なんて名を冠しているのだから、空中に飛ぶ。翼を広げ空は我がものだと言わんばかりに、地の振動を気にしたりはしない。
「空では貴様の地震も効きはしないな」
そう来ると思っていた。まだこちらは明確な攻撃をしていないから攻勢に移ることはない。
「唸れ! 十字風!!!」
風斧のような武器を介したものじゃない。
ドラの力も借りて、純然たる魔力による風の刃をぶつけに行く。
物理的な真空波と違って、魔力がそのまま威力になる。
それだけじゃなく、大気すら歪めるほどの魔力は、目の良い相手ほど避けにくくなる。
空間を捻じ曲げるほどの強引な魔力。避けてみろと言わんばかりの挑発的にでかい攻撃。
大きく避けるのは、矜持が許してはくれないだろう。
俺の心を折りに来るのであれば、間違いなくこれだけのことをやっても当てるどころか、ギリギリで避けて見えていることをアピールしてくるはずだ。
心を折る戦術としては、間違いはない。だが、それは驕りに過ぎないということを教えてやる。
十字風を見極めれば見極めるほど、視覚が疲れ、視野が避けることに精一杯になってくる。
幻惑まではいかないが、十字風で巻き起こる風に些末ほどの魔力を混ぜている。
感覚のズレとしてはほんの数ミリ。しかし、精密な動作をする相手であれば、それが致命的なものになる。
「そのような大振りの攻撃が――むっ!?」
そう、見た目は大振りだ。それに間違いはない。
だが、貴様は俺の攻撃を最小限の動きで避けることに注力を注いでいる。
だからこそ、当たる可能性がある。仮に当たらずとも、動揺させることはできるはず。
予想通り十字風が魔力を孕んだ突風を、避け切られた。
しかし、先ほどのような余裕はない、それどころかバランスを崩している。
ここで、手を緩めてしまっては逃げられる。生半な遠距離攻撃では致命傷を与えきれない。
――踏み込め。
ドラの声ではない。でも確実に頭の中で鳴り響いた。
その声に従って――というよりも、身体が勝手に反応して、接近戦を仕掛けていた。
「喰らえ! 鳥人!」
体勢の崩した鳥人に対して、思い切り踏み込み、右ストレートを打ち込んだ。




