第四十五話【鳥人の名は】
山の中にもかかわらず、拓けた場所。
気付けば辺りの魔力の霧も吹き飛び、視界も良くなっている。
なるほど、ついに門番らしい門番が来たか。
この展開は予想の一つに入っていた。
いかに、この山が険しくともこの程度の魔物たちの集まりでは簡単に踏破できるだろう。
それが、踏破したという話を聞かない以上は強力な力を持った魔物の一人や二人……いやそれ以上いてもおかしくはない。
『アポロ』
「わかっている」
風斧を構える。いつでも戦闘に入れるように態勢をしっかりと整える。
「貴殿に邪気はなし。野心のためにこの山を登るか?」
張りのある透き通った声。俺の耳にストンと入りこむ。
「俺のため……そして友のために!」
風斧を握る手に力が入る。気合が入るのはいい――だが。
「なるほど、貴殿の覚悟受け取った。いざ尋常に」
目の前の鳥人の闘気が迸っている。
俺に邪気が無いと言ったように、こいつにも邪気が無い。
あるのは清廉なる鍛え上げられた気。こういうタイプはきっと強い。
じりじりと、間合いを詰める。風斧の衝撃波や真空波がいくら威力があっても当たらなければ意味が無い。
あの軽い身のこなしは、少なくとも鈍重とは思えない。
筋力強化はすでに済ませている。
口の中が乾く。真牛人の時はクネスがいた。
俺は蚊帳の外だったし、クネスが圧倒的に強かったし命のやり取りとは程遠かった。
研ぎ澄ませ――全身全霊にて迎え撃て。
「力が入り過ぎですね」
突然後ろから聞こえてくる声。自然に反転をして風斧で迎え撃つ。
軽くバックステップを踏まれて、俺の攻撃は空振った。
だが風斧の魔力により、第二の攻撃――真空波が両断せんと向かっていく。
「はっ!」
杖を一回しすれば、空気の刃は跡形もなく消え去った。
「杖術に長けている……」
あまり相手にした事は無い。殺傷力でいえば杖を使うなら、槍や剣。
射程の長さから言っても棒を使う者が圧倒的に多いからだ。
速度を殺さぬよう、杖を持って戦っているのだろうか。
懐に入られると相当厳しい戦いに持ち込まれるかもしれない。
「なら、ここはっ!」
跳躍し鳥人相手に距離をとる。とりあえず、最初の動きがフロックかどうかを見極める方が先だ。
連続して真空波を放つ。この攻撃への対応を見て、動き方を考えなければいけない。
高速で動いて避けるか、それとも先の杖を使って相殺してくるか。
どちらにせよ、技量もそれで図れる。できれば予想の範囲内に収まってくれればいいが――
得てして、こういう時は最悪の結果に終わるものだ。
避けていない。いや、真空波が逸れているのか?
そう思わされるような流麗な動き。必要最小限の動きしかしていない。
間違いない。こいつは全ての真空波の軌道が見えている。
収穫の一つとして、相当目が良いことがわかった。
誤算の一つとして、相当分が悪くなることがわかった。
ふぅ、と一息つく。これはあっさり突破というわけにはいかないだろうな。
「名前を聞いてもいいか? 俺はアポロだ!」
これだけの動きを見せるものが雑魚なわけがない。
「名前は……プレイ。鳥人プレイだ」
名乗り上げてくれて助かる。
『……私は知らない名だな』
なら、大丈夫だな。古代からいるという線は抜けた。
出し惜しみをして負けるなんて格好悪いことは出来ない。
絶対に勝つ――
さぁ、全力でぶつかってやる……!!




