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第四十三話【絶対の自信】

「うわ、これはすごいな……」


砂漠の荒野を越え王なる山の麓に辿り着いたが、惨憺さんたんたるものだった。


風がそれなりに強いせいか、ひどい腐臭に満ちているわけではないが、見渡す限り人や獣の死体が――いや骨がまばらに転がっている。


「ここに挑もうとした者の末路ってことか……?」


生存者がいないか、眼で視てみる。生命探知はそこまで広い範囲で視なくてもいい。


今、見えている状態がどのようなものだけを知りたかった。


『……視えないな』


生命力の残滓すら、ただの一欠片ですら視えはしない。


長い間放置されていて、生命力すら風化されてしまったのだろう。


普通なら、生命力というか死体にも力は一応宿っているのだからな。


それを不完全な形で固定し、使役する職業があるのは知識としては知っている。


尤も、出会ったことはあるわけがないし独立しているゾンビやグールなんかは大抵弱い。


俺の炎で焼けるくらいだから、相当耐性が低いと言っても過言ではない。


焼き尽くすことができなかった辺りが、俺の魔力の低さを物語っている。


弱点を的確に突くことができれば、ある程度の技量や力の差をカバーできる。


そう思ってずっと戦ってきた。それはある一定レベルでは間違いなく正答である。


Cランク程度の冒険者が、Bランクの大型モンスターを倒す時に良く用いられている。


あくまでこれは格下が格上に挑む際の、知恵に他ならない。


でも、これが真実でない事も知った。


ドラの力を身に宿して――いや引き出せるようになってから、圧倒的な力の前には相性の差など些末事でしかないことも知る。


例えばだ、雷が無効な敵がいる。吸収することだってしてくる怪物が居てもいい。


しかし、本当に無効なのだろうか。同程度の格の相手だからこそ無効や吸収をされるのではないだろうか。



ドラの攻撃を、ドラの雷を受けて立っていられる怪物が居るのだろうか。


そんなやつがいれば、100%有害な怪物に決まっているし、倒すのも手を焼く。


耐えられるわけがない。もし倒せないのであればそれは俺の――――



『アポロ。その想像は必要なものではあるが、今では無いぞ』


「っと、確かにそうだな。すまない虹の根元を見に来たんだからな」


上を見上げる。厚い雲群に遮られて空が見えない。魔力探知も試みるが、これはこれで特定できなさそうだった。


この地はすでにおかしい。雲群は魔力を持っていのに、麓には生命力が感じられない代わりに地面が生き生きと脈動している。


「……命は地に還る。だから、死体に残存するものが何もないのか……?」


一つの仮定。王なる山の正体は、無限に挑戦を繰り返す冒険者たちの血肉の姿なのではないかと。


冒険者が優秀であればあるほど、肥沃ひよくな大地が生まれてくるのではないだろうか。


それが死という終焉をもたらしているのは、皮肉以外の何物でもないが。


「ダメだな。どうにもこの山々の雰囲気に圧倒されているのかもしれない」


『様々なダンジョンを潜っていたようだが、アポロたち人間の言うランクの重圧というのとはまた別次元の圧力だからな』


対峙して初めて気付くものがある。これなら不特定魔法の重圧を受けていた方がまだマシに感じられる。


なぜなら、術者さえ倒してしまえば開放されるからだ。


だが、ここは術者などいない。あえて言うならば山々が術者か。


身体がぶるりと震える。この先で戦う相手は砂狼デザートウルフ達とは一線を画す強さがあるはずだ。


『恐怖は身体を鈍らせる。もしこのままなら――いやその心配は必要なかったな』


俺のこの震えは、武者震いだ。


ここでなら最大限に発揮したとしても、観測されることは少ないだろう。


むしろ周囲の魔力のせいで、特定するのは厳しいはずだ。


ましてや、ここは王国の管轄外。管轄の中でならまだしも、辺境とまでは言わないがそこまで常に監視するほど暇も人数もいないと思う。


他の勢力をしっかりと確認していた方が有意義である。


少なくとも効率を重視する王国なら魔力反応が著しくブレた時しか見ないと思う。


まぁ、あくまで自分中心的な考え方をしているのは分かっているがな。


それでもやるべきことは決まっている。


この山を登り、虹の根元の真実を見つける。


ドラにとって有用であれば最高だが、もし違ったとしても効力のあるアイテムに違いない。


「ドラ、力を貸してくれ」


『……無論だ。断る理由がない』



ドラが微笑を浮かべたような気がした。


それだけで、俺は絶対の自信が漲ってくるようだった。



――王なる山の頂点よ、俺が必ず踏破してやるぜ!

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