第四十一話【砂狼の群れ】
起きた時間が多少遅かったのか、すでに父母はこの家からはいなくなっていた。
そういえば父さんは何か美味しいものを狩ってくるとか言っていたし、母さんはまた本を探しているのだろうなと思う。
日没までには帰ると書き置きを残して、荒野へと向かった。
荒野では四足歩行の敵が多い。
恐らく生態系的には、そちらの方が移動速度が速いのだろう。
山から下りるのも一苦労ではあるものの、下りればすぐに荒野が広がっているのはありがたい。
俺の村が見えなくなるくらいに歩けば、早速狼の群れのお出ましだ。
「砂狼か……数十匹は大層なお出迎えだな」
俺一人にこの数は居すぎだとは思うが、多勢に無勢が野生の掟。
こいつらを軒並み焼き払うのも悪くはないが、中に必ずボスがいるはずだ。
群れを統括しているのはそいつに違いがないから、そいつをボス狼を倒せれば散開していくはずだ。
臨戦態勢を取る前に、持ち前の敏捷性を活かして砂狼達が攻撃を仕掛けてくる。
1対1なら間違いなくDクラス辺りが適正レベル。だが、これだけの数が居ればC上位ないし、Bクラスくらいまでは跳ね上がるだろう。
前後左右と、中々に揺さぶってくる攻撃を仕掛けてくる。決して直線一辺倒じゃないところが、群れのボスの知能がそれなりに高いことを教えてくれている。
ならば、隠れているだろうか?
それは野生のルールにはないだろう。
主が逃げてしまっては、子分に示しがつかなくなる。指示を出せる立場に居ながら安全を確保し、それでも見える位置にはいる。
今向かってくる獰猛な牙が俺に襲い掛かってくる。
まだ魔力を何も使っていないにもかかわらず、全ての攻撃が見えている。
『そろそろ使うか?』
「そうだな、時間は食っていられない」
自分の力を試したいと思っているのは間違いないが、試すべき場所はここではない。
もっともっと上の世界を目指しているのだから、こんなところで止まっているわけにはいかない。
「行くぞ!」
合図と同時にドラの魔力を身体に引き出す。だが、D相当の敵は最低出力で十分だ。
「立ちはだかれ! 炎壁!」
右腕を払い、周りに扇状の炎の壁を敷く。突撃してきた頭の悪い狼は燃え盛る炎に包まれ消えていく。
数匹が突っ込んだところで、無駄だと察し遠巻きに眺めている。
そして、一つ咆哮が上がり壁の上からアタックを仕掛けてきた。
なるほどな、3m程度の低い壁とはいえ軽々に超えてくるとは侮れないな。
……試運転と行くか?
真牛人との戦闘で手に入れた小型の風斧を取り出し、腕を振るう。
無数の風の刃が上空に群がる砂狼を気持ちのいいくらいに分割していった。
「おぉ、すごい切れ味だな……」
仮にもAランク以上のドロップ品ということか。
『ふ、アポロ。斧の部分を団扇のように仰いでみるといい』
ドラの戦闘面での貴重なアドバイスだ。素直に聞き入れて、言われた通りに振るってみる。
「なっ、なんだぁ!?」
風が、いやそんな生易しいものじゃない。突風が吹き荒れる。
そしてすでに発動していた炎壁をすごい勢いで押し上げていく。
突如迫りくる炎の壁になす術のない砂狼達は、あっさりと黒焦げになる。
「これじゃあ、食うことは出来ないだろうな」
完全に炭素化した砂狼達を見て残念だなと思ってしまった。
『まだ残っているようだな』
「お前がボスだな?」
群れていて見えなかったが、一回り体躯が大きい。そして狂暴な牙と爪。
砂狼の頂点、殺狼だ。
CランクかBランクだったはずだな。だが、ここは王国の管轄外の場所だ。
決して手は出してこない。だからこそ、こいつのランクが本当にそのランクかはわからない。
「グルルルルルル……」
口元からのぞかせる牙は、俺を殺したくて仕方ないみたいだ。
「面白い……かかってこい!」
「がぁぁぁぁぁっ!」
猛る狂う叫びをあげ、俺にとびかかってきた――――