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第四話【寂しがりや】

伝説――その言葉を聞いて俺は心の震えを感じた。


何せこれだけ強大な存在だ。きっと俺が信じられないくらいの壮大な大きさなのだろう。


俺の頭の中には、巡るめく百鬼夜行の大軍を率いて王国に攻め入った話だろうか。


昔の文献で確かそれっぽいことが書いてある書物を見たことがある。


まだ幼かったころにはたくさんの本を読んだ。誰が読むんだって言うくらいの色々な言語や、魔術も学んでいた。


あいつに肩を並べたかったのと、俺自身の知的好奇心のために。


頭に語り掛けられる念話は、俺の思う壮大を遥かに凌駕していた。




百夜物語と名付けられたそれは、如何にして王国の英雄たちと戦い続けたかを。


百万の魑魅魍魎を従えて、英雄を倒すあと一歩までたどり着いたこと。


最後は和解して、自分は赦すつもりだったが、奸計に討ち取られた結果がこれだと。


細々とため息をつく。自分はただ力を見せつけたかっただけで、滅ぼすつもりもなにもないことを。



だが、それは人間たちには理解不能な行いだ。仮に最初から許すつもりと言われても、統率の取れない者が一人いるだけで、死傷者は出てしまう。


その時点で災厄と認定され、討伐対象になるのは仕方がないことだった。



「なら、お前はどうして今生きているんだ……?」


『私を殺せなかった。強大すぎる私を倒してもレベルが上がりすぎてさらに強大な存在を生むだろう?』


確かにな。S級というには足りなすぎるEXランク認定でも構わないくらいのこいつを倒せば、どれくらい強くなれるかわかったもんじゃない。


協定という意味合いで、殺せなかったのかもしれないな。



「俺に話しかけてきた……いや誘導したのはどうしてだ?」


魔力の風を浴びせてきて、ここまで案内したのは間違いなくこいつ。


何らかの代償……いや死すら覚悟しなければならない相手。


『…………たまには誰かと話たかったからだ』


数瞬の静寂の後に言われた言葉を、俺の耳が拒否している。え、なんだって。


「悪い、俺の語彙力が狂ってるみたいだ。もう一度頼む」


『寂しかったからだ』


なんだこいつは……おどろおどろしいイメージが抜けていく。


最強クラスのドラゴンがこんな寂しいとかいうイメージがあってたまるか。


勇猛、豪胆、英傑、孤高。どれもが似合いそうな伝説の存在が、寂しがりやだって? 信じられるかそんなもん。



『では、聞こう。誰とも喋らないまま……意思疎通が取れないまま永遠に近い時間を生き続けること虚しさを』


「どれくらい喋ってないんだ……?」


『1000年を超えてからは数えていない』


ギルドを追放された俺ですら、少しは寂しさを覚えているっていうのに、こいつは1000年以上もか。


だったら、俺の力で解除をしてやれば――いや、そんなことをしたら。


『その通りだ。私を解放すれば間違いなく国が動く。お前どころかお前の家族も親戚もすべて滅ぼされるだろう』


やっぱりか。そりゃあそうだよな、こんなすげぇやつを解放したら格好いいかもしれないけど、それだけが理由で解放なんて出来るわけないよな。


「……やっぱりこのダンジョン生成って、新米冒険者を育てるだけじゃなく、お前の管理も?」


『そのようだ。時間も空間も固定されていることも相まってやりやすいのであろう。私の気配を感ずることもないだろうしな』


そうだな。当たり前のことだ。こんなやつの魔力を受けたら、ビビってこのダンジョンなんて入れなくなっちまう。


『行くが良い。もうじきこのダンジョンは次の場所に移すだろう。その時まで次元に幽閉されてしまう』


「それは勘弁だな。それじゃあ……」


敵意はない。背を向けても殺されることはないだろう。


他言もできねぇのが辛いな。この話なんて武勇伝も良いところなのに、言ったら俺自身の身も危ないしな。


外に出ようと階段を上がる。魔力の風も俺の背中を押してくる。ただ、それは温かく、単純に楽しかったことを雄弁に語っている。


このまま出れば、何もない。普段通りに過ごせる。それなのに、あいつの声が、固まっていたけど顔が、離れない。



あぁ、わかってる。理解している。俺はあいつの力に魅了されている。何か理不尽なものと、俺の境遇を重ねている。自己満足。


ここに居るままじゃ、俺はきっと生涯立ち上がれない、浮かび上がれない。


あいつと出会えたのが最後のチャンス。足は自然と階段を降りる。


「名もなきドラゴンよ! 俺はお前を解放してやる!」


『――ばっ』


「うるせぇ! お前の都合なんて知ったことか!」


石化されているドラゴンに触れる。その瞬間に電撃が身体中に迸る。


耐雷呪文アースを展開しても命が焼きついちまいそうだ。


全身が焼けた匂いがしていく。それでも、俺は力が欲しい。こいつが、空を巡る姿を見てみたい。


「ぐあああああああああああっ!」


なんて厳重に施された石化だよ。きっと俺みたいな半端もんじゃなくて、ちゃんとした魔術師が作り上げた結界なんだろうな。


格の違いを自覚した瞬間に、弾き飛ばされる。当然だけど、解呪なんて出来てないどころか何も変わっちゃいない。


『汝――何を求むか?』


「へへ、なんもだよ。お前が空を飛ぶとこ……見てみたかっただけだ」




強がりを精一杯してこと切れる。意識が、飛んだ。



『話してくれた、礼だ――それとお前さえよければ――――』

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