第三十七話【王なる山】
美味いの夜飯の後は、腹ごなしに運動をすると言いたいところだが、今日は体力をそこそこに使っている。
出来ないことはないだろうけど、それは効率的に良くはない。
だからこそ、俺は各地を巡るために情報を集めたい。
ここに来た理由の一つとしては、膨大な知識を持っている母さんからそういう書物を借りようとしていたこともあった。
もちろん、直接は聴けない。なぜなら、何かがあったときは……万一の可能性が起こってしまった場合は俺が勝手にやったことにしなければならないからだ。
助力をしたとか、助言をしたとかそういうことで最高の家族を巻き込みたくはなかった。
ただ僥倖だったことがあった。膨大な積み本から、一冊を探す予定だったけどブックちゃんが居てくれるから検索はしてくれそうだ。
「ブックちゃん、本読みたいんだけどおすすめの本はある?」
部屋二人きり。ふよふよと浮いているブックちゃんは何を考えているかはわからなかった。
しかし、双眸の瞳で俺のことをジッと見つめてくる。まさか、俺の心を読み切っている可能性もなくはない。
「どんな本が読みたいんですかネ?」
中々好意的な返答だったと思う。無視されるという最悪の展開もないし、しっかりと言えば読ませてくれそうな雰囲気だ。
ならば、どうするか。ブックちゃんも家族とはいえ魔物だから排除対象にはなるだろう。
とはいえ、全てを明かすにはまだまだ信頼は出来ない。何よりも重荷を背負わせたくはない。
「……各地のパワースポットの本とかあるかな?」
若干怪訝な瞳で見られるも、数冊の本を大きい本の中から出してくれた。
パワースポットの定義を示さなかったから、各地の秘湯や美味しい飯処の地図も載っている。
普通に旨そうだなと思いつつも、それには目を滑らせる。
そういうものが目に移る中で、一冊の本にくぎ付けになった。
「虹の降りる山……?」
パラパラとページをめくると虹の根元を掴んだという筆者の言葉があった。
そんなことは出来るのだろうか。何かが歪曲されていて掴むことが出来たのか、それともそういうスキル?
様々に考えられることもある。ただ、魔法が使える以上あり得ないとは言い切れない。
「ロマンですネ。でも掴むことは可能でしょうネ」
ブックちゃんも言っている。
『虹の根元か……私でも掴めるだろうな』
ドラも言っている。ま、ドラは飛んでいるから空そのものから引っこ抜ける気もするけど。
山頂にて掴める場所がある、それは険しく高く、人の肉眼では上を捉えることは出来ないだろう。
そのように高らかに書かれている理由は、筆者そのものの力を誇示したいがためだ。
場所は明確には書かれていない。されど、場所は分かっている。
太陽に一番近く、一番高い山。そびえたつその山は、挑むものをすべて退けたという。
「キングマウンテンか……」
王なる山へ、挑むかどうかは迷いどころだ。
ただ、行くべき場所がないなら、俺は挑戦すべきかもしれない。