第三十六話【温かい料理】
「お前も居んのかよ……」
「私は、あなたよりもずっと前から居るのでネ」
まさか食卓を本の魔術師と共にするとは思っていなかった。
「どうなってるんだ、母さん?」
「この子便利なのよねー」
そう言って母さんがこいつの説明をするんだが、確かに納得がいくくらいの利便性だった。
まず、大前提として母さんは本の虫だ。本をたくさん集めて、収納に困るくらいで、本を暗記しては他人に譲渡したり寄付をしたり……
兎にも角にも本が好きすぎる母親だった。
そして、俺には当然のごとく本を読ませてきた。
そのおかげで色々な分野の知識を手に入れることは出来たのだけど、俺が街に出てからは俺の部屋を書物庫扱いをしていたらしい。
そこに突如現れたこいつ。確かに色々危ない面はあるかもしれないが、父さんが最初は対処したらしい。
ここに来た理由は、本の匂いに釣られてというなんとも本の魔物ということだけはある。
特技を最初に見せられて、一冊食べさせたらしい。そしてすぐに復元させることもできたこともあって、母さんはえらく気に入ったと……
こいつは、いったいどれくらいの本を蓄えているのだろうか。
「お前、いや、ブックちゃんはどれくらい本を食べさせられた?」
「軽く万は超えてるでしょうネ」
母さんの蒐集能力には舌を巻くな。正直驚きを隠せない。
職業は盗賊とか泥棒とかもしくはトレジャーハンターの職業かもしれない。
母さんと父さんの職業とか能力とか見たことはないしな。さっき見ようとしたら怒られたし。
今この場でドラの力を引き出すのは危険だろう。間違いなく母さんや父さんに何か言われる。
ブックちゃんを出し抜くのも厳しそうだしな。
っと、余計なことばかり考えていて食事に集中していなかったな。
母さんも父さんもブックちゃんもやいのやいの話している。
「ふた……三人とも、改めてだけどしばらくの間、いさせてもらうよ」
「何言っているんだ。息子が帰ってくるのに嫌がる親がどこにいる」
「アポロ、改めておかえりなさい」
「オススメの本を紹介しますネ」
グッとくる。やっぱ、俺、色々あったから疲れてたのかな。
母さんのご飯、めちゃくちゃ美味しいはずなのに、なんだかしょっぱいよ。
それでも俺はたくさん食べた。おかわりを三回もするほどに。
人の温かさを再確認する食卓。
そして、ドラは母さんの料理に舌鼓を打っていた。