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第三十三話【本の魔術師】

「はい、まずは汗を流してきなさい」


「「はぁい」」


勇んでご飯を食べる気満々だった俺たちは、まずは身体を洗え、風呂に入れということで食卓から追い出される。


父さんと裸の付き合いってのは性に合わないから、先に父さんに入るように勧めた。


「ま、今後もたくさん話すことはあるだろうしな」


そもそも、そんなに家の風呂は大きくない。ただ、父さんが色々な技術を駆使して作り上げた風呂だから、気持ちよさは他の家とは段違いだ。


あれほどの力作は他では見たことがない。


俺はその間に、自分が寝るべきであろう自分の部屋に入ろうとする。


可能性として一番あり得るのは書庫になっていることだ。


母さんがやはりどこからか持ってくる本を読み次第、俺の部屋に積んでいっている……ことは絶対にありうる。


呪文書や魔法の本であれば、嬉しくはあるのだけどトラップ本とかで死にかけたことも何度もあった。


まず第一に入る前に警戒をしなくてはならない。タチが悪いのは本を開けるまで魔力感知に引っかからないことである。


最初から歯をむき出しにして、俺に襲い掛かってくる本なんて可愛いものよ。


魔力感知に引っかからず、開いた瞬間に麻痺や眠りガスと言った高度な罠を敷いてくる魔物もいる。


……俺の力では見抜けないものも、強引にドラの力なら暴けるのか?


些末な疑問ではあるが、試してみたいと思う。


「生命探知……」


範囲を自身の部屋に絞る。これでプライベートがどうだとかこうだとかは父さんにはばれまい。もちろん母さんにも。


「ん?」


4,50冊の本が積まれているだけで、思ったよりは積まれていない。


ひょっとして母さんに何か虫の知らせがあって、片付けておいてくれたのかもしれない。


この数年は本が面白くなかったなんてことはないだろうし、恐らくは俺のために……


そう思うと少し目頭が熱くなる。


さて肝心の魔力感知の件だが一切合切、中に気配はない。


このまま入っても、きっと問題はないと思われる。


だけど、先程のドラの魔力なら強引に暴ける論を証明するために、魔力を身体に通し始める。


「ドラ、力を借りるぞ――――生命探知!」


視神経を伝って魔力が奔る。魔力を引き出すのに若干漏れていて、まだまだ未熟なことを思わせる。


でも、今はそうじゃない。俺の部屋に何者かはいるのだろうか。


――――いた。一冊の魔物が。即座に臨戦態勢を取る。こちらの魔力にも完璧に気づかれているはずだ。


本系なら、燃やしてしまえばいいのだろうか。それだと俺の家も燃えるか?


父さんもいるし、最悪の事態にはならないだろう。ならば母さんに被害が出る前に速攻で片付ける。


扉を勢いよく開ける。一瞬で仕留めるんだ。


「紅蓮の炎よ、悪しき魔物を燃やし尽くせ! 炎弾フレイムバレット!」


火炎爆発エクスプロージョンも考えたが、流石に被害が大きすぎる。ならば、指先に一点集中した炎で貫けば問題はない。


そう考えての行動だった。半分はその考えが的中する。


本の魔物か……なら貫ける。向かっていく炎弾は間違いなく貫き燃やし尽くす。


しかし――半分は最悪の方向で外れることになる。


「ほ……炎を食べたぁ!?」


本から歯が剝き出しになり、口を開けたこと思いきや、属性相性最悪のはずの炎もむしゃむしゃ食べている。


「いきなり、危ないじゃないカ」


「……本体が居たのか」


本だけじゃなかった。むしろ、本が囮で奴が本物……!


手の平サイズのそいつは、本の上に乗って本を撫で始めた。


「本に乱暴する奴には容赦しないヨ」


「へっ、盗人のくせに何を言ってやがる……!」


未だに戦闘態勢は崩せない。こいつは書物で、いや母さんが好きだった本に幾度となく出てきた。


「本の魔術師ブックソーサラー……だな」


「博識だネ。でも君は許せなイ」


どっちがだ、という言葉を心で吐き捨てる。


こいつは出来る相手だ。一瞬でも隙を見せたら飲み込まれてもおかしくはない存在感。



冷汗が、背中を一筋伝った。

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