第三十二話【人間の神秘】
身体を軽く動かすとか、食材を調達するとかなら理解は出来る。
だが、どうして俺は父さんとこんなに汗だくになってまで山を駆けずり回らないとといけないのか。
心当たりがあるとすれば、父さんに能力解析を使ってしまったことか。
昔は魔力不足や、修練不足で見えない部分と勘違いしていた。単に俺の習熟度が低いだけなんだなと。
今はそれが俺の勘違いで会ったことに気付かされた。
見えないように魔力で防御をしていただけだった。それほどまでに父さんは優秀だったということだ。
もちろん、ドラの魔力を使えば絶対に魔力防御を突破できる自信はある。
そもそも、視ようとして魔力を十全に注ぎ込めば自力でも可能かもしれない。
ただ、そうすれば魔力感知され100%の確率で先に攻撃を叩きこまれるの未来が見える。
「アポロ、お前は強くなった。俺が今戦っても勝つのは難しいだろう」
そこは勝てないとは言ってくれないんだな。ってことは完全に敗北を認めているわけではないってことね。
「ふ、勝気なのはいいことだが逸るな。だがな、それだけ強気になれるってことは隠し玉を何か持っていることになる」
「そりゃあ、まだ見せてない手札は山ほどあるからな」
山ほどというのは嘘だ。それもほとんどがドラの魔力経由ということになる。
ドラの魔力があれば、ほぼほぼなんでもできるというのには間違いはない。
「その言葉、嘘でないのはわかるが……まぁいい。とにかく体術でも剣術でも無駄が多い。力が入りすぎている」
山を駆けまわっているのは、俺にそのことを教えるために――
「崇高なことは何も考えなくてもいい。ただ俺は身体を一緒に動かせることが出来て楽しいだけだ」
昔は、父さんの体力にも追いつけなかったなそういえば。泣きべそをかきながら頑張って着いて行った思い出がある。
最終的には父さんの背中で眠りについていたような。
「訳アリなのもわかっている。セイン君が居ないのはそういうことだろう?」
「まぁね、セインとは袂を分かつことになったよ」
そうか、と一言。一瞬考えこむような素振りを見せたけど、すぐに朗らかな笑みを浮かべる。
「そうやって語れるってことは、セイン君とは仲違いをしたわけではなさそうで安心したよ」
ちっ、敵わないな。父さんには何年修行を積んでも勝てる気がしない。まるで心を完全に透視されてるみたいだよ。
『視られてはいないぞ』
あぁ、わかっている。とドラには心の声で答える。
そんなことをしなくても、父さんは俺のことは分かってくれている。母さんもきっとそうだろう。
家族って言うのはそういうものだ。そしてだ、俺はドラの気持ちも、もっともっと理解したいと思う。
『私は、随分とアポロに助けられている』
ばぁか、お互い様なんだよ。むしろ俺の方が利用させてもらってる。
「これだけ動けば、母さんの料理は絶品になってるだろうな!」
「アポロ、母さんの料理はどんな状態でも一級品だ!」
ノロケかよ!
それでも父さんらしい。そしてドラはどうして疲れると美味しいのかっていうのを悩んでいる。
色々と説明できるけどさ、こういうところは人間の神秘だよって伝えておいた。




