第三十一話【父は強し】
そんな冗談のような家族だったが、俺は帰った初日に速攻で洞窟に連れて行かれた。
「さぁ、我が息子アポロよ! 都で培った力を見せてくれ!」
記憶の奥底に封印していたものの、過酷だった少年時代が否応なしに思い出される。
間違いなく充実はしていたんだけど、様々なものを持たされ技術がスペシャリストまで到達することはなかった。
ひょっとすれば、父も俺と同じ思いをしていたから、俺に必殺の一を持たせたかったのかもしれない。
「父さん、父さんの得意な得物ってある?」
これは初めて聞いたこと。
セインと色々するようになってからスパルタでしごかれることも少なくなり、俺の報告くらいしか聞かせていなかった。
俺は父さんに、しっかりと何かを学んだことはない。
大体は感覚で色々なことをさせてもらい、扱いきれないものや、倒せない敵の最後はとどめを刺してくれた。
「得意な得物か……強いて言うなら自分自身かな」
昔なら、何を言っているんだと一笑したであろう言葉。
だが、今の俺には身に沁みる。なぜなら知識や技術を全て駆使していないとこの言葉は出ないからだ。
「父さんはな、一流の冒険者ではなかった。だけど、守るべき人を守る力を身につけたかったんだ」
現に、俺が子どもの頃魔物に襲われて瀕死……になることはなかったな。
それに村が襲われて壊滅したという話も聞いたことはない。壊滅していたらここにはいないだろうけど。
周りの低級スライムたちを焼き払いながら話を聞く。お、このマンドラゴラは活きが良くて新鮮だなとか、物騒なことを父さんは言っているが。
父さんの力を解析してみようと思い、目に力を籠める。だが、父さんの技術習熟度が見えない。
「アポロ、能力解析は見えないところでやった方がいい。魔力でどこから見ているかがわかってしまうぞ」
即座に魔力をストップさせる。誰にも気づかれたことがなかったのに、父さんはあっさり気づいちまった。
「ちなみに、私もできるがやめておこう。そして母さんにだけは絶対するなよ」
やったんだな、と心に思う。そしてその結果がどうなったか探るのもやめておこう。
『相当な熟練者だな、お前の父親は』
「あぁ、今になってようやくわかる。父さんの力がこれほどだなんてな」
ただ、俺と同じように都落ちをしていたのか。それはわからない。これだけの実力があれば取り立ててもらえそうではあるんだが。
ますます、父さんへの疑問は深まっていく。そもそもだ、数年前にこの村を出ていき、ギルドを立ち上げたから情勢がわかっていない。
間違いのないことを言えば、この村が滅びるというのは現状考えにくいことくらいか。
山林の奥深くでもあるし、村長然り、父さん然り、実力者も多いはずだ。
スライムやマンドラゴラ、そして小動物のラビィも狩れたことだし、飯の心配はもうない。
自慢ではあるが、母さんの料理は美味い。ちょっと楽しみだな、と思いつつも家に帰ることにする。