第二十九話【我が故郷、サンドラ】
故郷に帰る道に進んでから思うことはたくさんあった。
お土産を買っていけばよかったなとか。何か父母には良いものを食べさせてやりたかったなとか。
勇者セインが出立した地域だ。そこまで寂れているわけでもない。
だが、あいつはまだAランクだ。いずれ頭角をめきめきと現していくだろうが、今はそうはいかない。
そっちの方が俺は都合がいいのだけどな。
あいつがSランク冒険者とギルドマスターにでもなれば、城下町や王国が騒ぎ出すことになるだろう。
才能が埋もれている村の一つとして、俺の故郷サンドラがピックアップされてしまう。
有名になって村が賑わうのはいいことなんだろうけど、俺の居場所的な問題を考えると迎合するのも難しい。
どこまでうわさが広まっているのかもわからないし、俺が理想郷を脱退しているのはバレていないでほしいな。
かといってだ、そのギルドに居るように振舞うのも精神的にはきつい。
精神を読み取ることもドラの力を使えば可能だけど……そんなことには使いたくねぇよなぁ。
そんなことを考えながら山に登っていく。
自然に囲まれたとても美しい場所と言えば聞こえはいいが、開発部署から外された場所ということなのだろう。
王国も管理をそこそこにしているとはいえ、手の行き届いていないところもある。
かと言ってだ、治外法権というわけでもない。一応監視の目はあるんだよな。
あまり考えてはいなかったけど、小さな村に税を納めさせているのだろうか。
子どもの頃はそういうところまで目を向けたことはなかったな。知識だけはあったけど。
帰ったら父さんに聞いてみようかな。
獣道になってはいるものの、人が通っている形跡もある。草木をかき分けながら、我が故郷サンドラに向かっていく。
『……アポロ。迷ったか?』
「いや、この道であっているはずだ」
多分な、と心の中で付け加える。魔よけの呪いでもかかってるんじゃないかと思うくらい辿り着きにくい村だ。
さっき思ったことは間違いなく杞憂だな。こんなところに来るわけもない。
それでも村が栄えているって言うのは不思議だよなぁ。
ようやく拓けた場所に着く。間違いない。ここはサンドラだ。
村々が協力し合っていて、畑を耕しているものも居れば、家畜を育てているものもいる。
小さな子供たちは、剣や棒を振り回しながら遊び、教師のような人に怒られながら笑っている。
――戻ってきたことを実感する。つい数年前までは俺もここの一員だったことに。
「アポロ! 戻ってきたのか?」
「村長……! 不肖ながらこのアポロ、ただいまこの地に戻りました」