第二十八話【故郷、そして】
――故郷。それは俺が一旗を上げるまでは帰らない場所と決めていた。
武功的な意味では、理想郷から抜けた段階で、下落しているのは聴くまでもないだろう。
ただ本当の力という点では、遥かに常人を凌駕していると言っても、決して過言ではない。
実力をひけらかしたりは決してしないし、粛々と静かに故郷を訪ね、ゆっくりと腰を落ち着けて、今後を考えていきたい。
それに、戦闘や暗殺。色々と背負ってしまったものについても一旦きちんと考えるべきだ。
……本当のことを言えば、ドラに俺の住んでいた場所を見てほしかったのかな、なんてな。
戦闘に明け暮れていたであろう、ドラ。こんなに静かで時の流れが止まっているかと思うくらい穏やかな場所を案内したい。
俺は、ドラのことは伝承と聞いたことしかわかっていない。真実の意味でドラを完全に知ったとは思っていない。
あの時は寂しさとやるせなさが共感して出来た絆だった。
ドラからすれば、あの時は俺じゃなくても良かったのではないか、というよりも俺で良かったのかという思いもある。
まだまだ俺自身の力は弱い。俺がもっともっと強ければ、ドラは十全にこの世界を跋扈することが出来たのではないか。
そう思うと、どんどんと自分の矮小さに心が落ち込んでいく。
『嘆くなアポロ。私にはお前しかいなかった。最強の私に選ばれたのだから誇ればいい』
もし何かを言ってくるものが居れば、その際には力を見せつけてやればいいと。
そうやってフォローしてくれるのは、ドラなりの優しさだろう。
その優しさに応えるためにも、俺は強くならなければいけない。
そして、その一環として故郷に戻らなければならない。
健全な精神は健全な肉体に宿るという。
だが、頑強で力強い精神だけが、貧弱な体に宿ればどうなるだろうか。
当然のように持て余し、その精神は腐り果ててしまう。
決して、そんな経験をドラにさせてはいけないのだ。
うんうんと、唸りながらスケジュールを決めていく。ドラの力を使って、さっさと故郷に帰ることは可能だが、先日のようにドラの力を回収できるところがあるかもしれない。
それを考えると、遠回りをしながら世界を観光する延長で見つければいい。
「ドラ、俺の故郷に帰ろう。そして、もう一度俺と考えようぜ」
『わかった。郷土料理はあるか?』
……こいつ、すっかり味覚を共有できることに味を占めやがったな。
嘆息一つ。なればこそ仕方ない。ドラにとって料理は未知なる美味いものなんだからな。
「あるぜ、だから行こう!」
足取りの一歩目は軽やかに、そして力強く踏みしめた。




