第二十六話【戻らぬ理由】
「くっ、苦しい……」
「大丈夫なの、あんた」
ルナが呆れた顔でこっちを見てくる。そりゃあそうか、見せにあるものを片っ端から注文していたらそうなるよな。
だけどな、めちゃくちゃドラが喜んでくれてたからな。
『済まない、アポロ。だがリザードの肉は絶品だった。肉を引き裂きそのまま喰らうことしかしていなかった時代があったがまさかこれほど美味いとはな』
古代の食糧事情は流石に知らない。だけど、人間側は間違いなく調理をしていたと思う。だからこそ、文化で料理なんてものがあるんだし。
「ルバートの腕を見れたのが嬉しくてな」
「あんたさ、理想郷のメンバーだったんでしょ?」
新進気鋭のギルドとして紹介されている元俺の居たギルドは少しずつだが規模を大きくしているようだった。
セインがいるなら当然のことだとは思っていた。あいつが居れば多少の困難くらいなら乗り越えることが出来る。
そもそも、欲望に負けて道を踏み外すような奴じゃないし、完全なる正義の道、すなわち王道を進んでいるのだろう。
「元……な」
「あんた、今それだけ強いんだから戻ってみたらどうなの?」
……戻る。そんな道を考えたこともなかった。一度放り出されればそれまでの世界。
同じギルドに出戻りの形が残されているのだろうか。
答えはNOだ。俺が戻ったところで、王国に近くなった彼らのギルドに近づくのは危うい。
ドラの存在がバレるのは当然避けたいことだし、何よりセインはともかく他のメンバーが俺を認めてくれる気がしない。
俺自身、ドラの力を借りているのは言えないことだし、あいつらの見立てが外れたことの証明を自分たち自身ではできないだろう。
「それはないよ。そもそも俺にもプライドってもんがあるしな」
そうだ、俺にだって誇りがある。強くなったから戻らせてくださいお願いしますになるわけがない。
「まぁ、そのおかげであんたと出会うことが出来たから文句はないよ」
「ただ飯の縁ってか?」
意地悪く笑いながら言ってみるけど、意にも介していない感じで笑みを浮かべてくる。
「一宿一飯の恩は決して忘れないよ」
「忘れていいさ。別に大したことはしていない」
さて、宿に泊めるとなると、中々に大変なことにはなるのだが。
「私は帰るよ、あんたが困りそうだしさ」
「いいのか? 銀貨はあるから別室を取ろうと思えば取れるが――」
「そこまで恩の押し売りはいいよ、んじゃまたね」
言うや否や、ルナは姿を消した。高速移動と隠密の組み合わせか。
本当に暗殺者向きだよな……性格以外は。
性格だけ見ると遊撃が似合うアタッカー。隠密というよりは俊敏性を活かして戦う職業の方がいい。
忍ばないアサシンみたいなタイプか。ってこれは矛盾してるよな。
「行っちまったな。ドラ、お前はどうだった?」
『素晴らしく美味であった。できることなら酸いも甘いも知りたいものだ』
相当ご満悦のようで。なら俺は今後もドラと共有を続けようかな。
ドラが喜んでくれるならさ。




