第二十五話【感覚共有】
「はい、お待ち!」
勢いよく料理の乗った皿が出てくる。
素材としては良くてCクラスのモンスター。大体はDクラスのモンスターが調理されて出てくる。
純粋な素材の話でいけば、AやBといった上位モンスターの方が質は上とされている。
でも、そういうのはさっきのお店のように素材を活かして――というよりも高級すぎて味がわからなくなっちまう方が多い。
その点、ルバートの腕は確かで、Eクラスモンスターでも華麗に調理をして別次元の味にしてしまう。
掛け合わせがとてもうまく、例えば草系のモンスターと牛や豚のようなモンスターを組み合わせてしっかりとした料理を作る。
素材に重きを置く場所だと、単体の料理が多く味も美味しいながらもシンプルなものが好まれる傾向にある。
もちろん、その味わい方も美味しいのだが、ルバートは複雑な……重厚な味わいを持たせてくる。
その一つ一つの料理からは、はっきりとした料理人としての意思を感じるんだ。
「ちったぁサービスすっからオレも座っていいか? それとも……オレはお邪魔さんか?」
「そんなことはないけどよ……」
チラリとルナに目をやると、ルナは楽しそうに頷いている。どうやらルバートのことは受け入れたようだ。
そうだよな、こんないいやつは滅多に居ないからな。俺がまだCランクぎりぎりくらいの時から……いや冒険を始めたての頃から、こいつは俺を馬鹿にしなかった。
「今日はキラービーの卵が入ってなー! 中を割ってソースに加えているんだ。それにな――」
俺は料理をあまりつくらないから、ルバートの言っていることが半分もわからない。
だけど、こいつが情熱をかけて作ったのはわかることと、美味そうな料理が目の前で並んでいるってことだ。
「食ってもいいか?」
「あぁ、すまないな。どうぞ召し上がれ!」
さっきまでの店とはまるで違う。自らの意思で喰らいつくそうと思うくらい強烈な香りが漂っている。
ルナと俺は手を合わせていただいた。いや、かぶりついていた。
肉の質感がマジで違う。火入れの問題なのか、それとも別の……考えるのは後だ。とにかくに肉に食らいつく。
一口噛んだ瞬間に溢れんばかりの肉汁はストレートに肉のうまさを感じさせてくれる。
そして、次の瞬間の辛みがさらに肉を口に運ばせる。
「うめぇ!」
「美味しい!」
俺より幾分かは上品なルナ。あれだけ野性って思っていたけど、実はいいとこのお嬢様だったりするのか?
「おかわりぃ!」
いや、そんなわけないか。もっとこう、お嬢様って言うのは違う存在だな。
ふと湧いた疑問は、食べ物のうまさによって流し込まれていく。
草系のモンスター……あ、これマンドラゴラか。こいつは特徴的な色だったから覚えている。
こいつ、こんな味なんだな。
「もちろん、そいつも味付けしているからな」
俺の考えを読んだかのように、ルバートが補足をしてくる。ありがてぇ……説明じゃなくてこいつがこれほどの料理を振舞ってくれるのことがだ。
あ、そうだ。主旨を忘れていた。今日はドラにも感覚共有をするって話だったな。
意識を集中させる。味覚だけをドラと共有するようにイメージをする。
恐る恐る、調理された肉を咀嚼する。
――ドラ? ドラの波長が途切れたように思えた。まさか、こんなことで……
『美味い……美味いぞおおおおおおおお!』
いつもの威厳が何一つとしてない。むしろ狂喜乱舞しているのを俺に聞かれたくなかったのかもしれない。
『今まで私が食べてきたものは何だったのだろうな……』
感慨にふけっている。どうやら、味覚の共有は成功したみたいで、俺も嬉しくなっちまったよ。
――もっと食べるぞ、アポロ!
……俺のお腹、壊れないようにな……