第二十四話【料理人ルバート】
「いや、美味いんだけどさ」
「……そうね、おごってもらって悪いけどなんかアレだよね」
アレってのは別に決してこの店の味が悪いわけではない。
むしろ間違いなく美味しい部類に入るだろう。
だけど違うんだ。こう、食べてるって感じがしない。
周りを見渡しても身なりが高級で、なんか俺みたいな冒険者というかハンターというか……そう、血の臭いをさせている奴がいない。
恐らくは、戦闘とはそれなりに無縁で、商いの才覚や、貿易で得ることのできるものを最大限に伸ばし財産を築いたのだろう。
だからこそ、俺たちが礼儀がとてもできるわけじゃないし、それで浮いてはいるものの白い目で見られているわけでもない。
だが、違う。食事をしに来ているのに、食事をさせられている……雰囲気に呑まれているというか、料理に食べる気を食べられている。
一応全て平らげたのだけど、まだまだ満足とは程遠い。ルナの方を見ても何か物足りなさそうにしているのも見て取れる。
「もう一軒行こうか。こっちは行きつけの大衆店だから気を張らなくて済む」
「そうね、ホントにおごってもらってるけど、あーいうお高さがウリなのはちょっとねー!」
と言いつつも結構おいしそうに頬張っていたのを指摘するのはやめておこう。
高級店の街並みとは全然毛色が違う。この街の外れにあると言ってもおかしくはないが、低いランクの時にはお世話になった。
ご馳走と言えばここに来るのが普通だったんだが――――
ギルドのメンバーはランクが低くみられるのが嫌という理由で遠ざけていた。
俺はたまに一人でも食べに行くけど、セインとは小さい頃から食いに行っていたのに、あいつはいけなくなっちまった。
誰よりもギルドを大切に作り上げていたからな、俺なんてサポート役とは重みが違う。
そういうところでもあいつは凄かったんだなってしみじみ思う。
「ねぇ、聞いてる? あんたずっと上の空だよ?」
「あ、あぁごめん。ちょっと昔を思い出しちまってな」
「ほらほら、今の隣は私なんだから私の事だけを考えなさいよね!」
おごられる立場なのに調子の良い奴だな。さっきまで命の取り合いをしていたのが嘘みたいだ。
ま、空腹は人を狂暴にするっていうしな。
「うーい、ルバートいるー?」
「っしゃせー! ってアポロかよ! 久しぶりじゃんか!」
「こんな端っこに店構えないで、目抜き通りにどかーんと建てれば来るのが楽だったのにな」
と言いつつも、店内は繁盛している。熱気と活気が飛び交いながらみんなが楽しそうに飯を食っている。
「わぁ……すごいな、ここ」
「だろ? ルナ、今度腹が減ったらここに来ればいいさ。良心的な値段で腹いっぱい食える」
「ははっ、可愛いお嬢さんにはサービスしておくぜ! まぁ座っておけよ!」
空いている席を適当に見つけて座る。俺はこの店に来るといつも店主のルバートに全てを任せている。
当然値段も言い値で払っている。それぐらいの価値がここには、あいつの料理にはある。
「いいお店だね、ここ」
ルナにも伝わったらしい。それならここでしっかりと腹を満たそう。