第二十三話【高級店の品格】
「んだよ、私とご飯が食べたいってバカかよ。仮にも命を狙ったやつだぞ?」
「人と飯を食うなんて久々なんだよ、いいじゃないか殺しをしなくても飯にありつけるんだぞ?」
そう言うと、ぐうの音も出ないような表情をしてこちらを睨んできた。お腹は鳴っているのだから、音は出ているのだけど。
「虚勢は張るな。どうせ今のお前の調子じゃ俺は倒せない」
なるほど、おなかが空いていて、いまいち攻撃に重さが乗っていないのはこういうところか? それは過大評価しすぎか?
「あんた、頭おかしい人なの? 正気じゃないよ、殺しに来た暗殺者にご飯をおごってくれるなんてさ」
「どうせお前には殺せないし、無駄な犠牲も増やしたくはないからいいよ」
偽りのない本心。人に飢えてる……と言われれば若干そうかもしれないと心に思い当たる節はあるのだけどさ。
いつもなら、速度を上げたり空間移動をしたりしてとっとと帰るもんだけど話しながら帰るってのは中々に悪くないな。
「なぁににやけてんのよ……でも、あんた名前は?」
「ああ、そういや名前はまだだったな、俺の名前はアポロだ、そっちは?」
「……ルナ。ルナよ」
言葉に逡巡があった、視るまでもない。間違いなく嘘をついている。でも些末事に過ぎないか。
一緒にご飯を食べて、それで別れる予定だしな。変に情が湧いても困るのはこっちか。
飯屋に着く。ここにはあまり来ないし、大体は宿泊施設のご飯を食べているけど、たまにはこちらに来るのも悪くはないと思っていた。
ただね、一人でこういう店に入るのって中々勇気がいるもんで、そのためにルナを連れてきたというかなんというか。
内装が一味も二味も違う。インテリアに凝っているというのか、全体的には白が基調になっていて、清潔感をアピールしていると言う事か。
お洒落なシャンデリアなんてつるしちゃってさぁ、丸い白テーブルが味を出しているというかなんというか……
「高級店だね、あんた本当にお金持ちなの?」
「いや、入るのは初めてだ。正直ビビってる」
えぇ……と落胆されたような呆れられたような顔をされた。だって仕方ないだろ、そんなに昔はお金なかったんだから。
一人ではCクラス程度のモンスターしか狩れなかった。必然的にギルドでは下の扱いをされていても何も言える立場ではなかった。
だが、今の俺は少なくともAランクには肉薄している。Bクラスの牛人は倒すことが出来たし、A以上の力量も見ることが出来た。
クネスの存在は、あからさまに異常だったがな……
それはさておき、普通に食べるくらいだったら酒場の方が良かったかもしれないか? 落ち着いて食べれるだろうか。
右手で数えるほどの数しかこういう店には入ったことがない。初見でこれは厳しいかもな……