第二十二話【力関係】
もう幾度となく打ち合った。相手が打ってくるタイミングをしっかりと見て落としているだけだが、それでもかなりの集中力を消費する。
だが、同様に相手も回復手段がなければ疲労は溜まっていくだろう。いかに一方的に攻めているとはいえ、あれだけの速度を出しているのだ。
俺に何の用かはわからんが、並大抵の執念ではないか。長時間戦闘で対峙していて、ノーダメージというのは精神的にもクるはずだ。
ここまで俺に執拗に攻めてくる理由は……ドラの魔力を通していることがバレたのか……?
そうとなれば、こいつを生かしておくのは危険すぎる。俺のことを忘れさせる程度のことはしなくてはいけない。
……モンスターでなければ、必要以上に殺すことはしたくはない。
危険性だけで言えば、世界を滅ぼすくらいの竜に手を貸しているのに、殺しはしたくないって……都合が良いのかもしれないな。
打ち合いも面倒だ。なんたって今日は、ドラに美味しいものを食わせてやりたいんだからな。
「もういいだろう? 俺にできれば構わないでほしいな」
「うるさいっ! 私には金が要るんだッ!」
金銭か……よほど困っているんだろうな。だからと言って俺はやられてやるほど優しくはない。
剣を上空に放り投げる。魔力を充填させておき、相手が足を止めた瞬間に魔力を放出する。
「やっと……! 死んでくれる気になったのかい!」
気付いていた。短剣を扱う腕はあったのかもしれない。しかし、それは間違いなく未熟な腕だ。
ただのスピードに任せた淡白な攻撃。死線を潜っていない温い攻撃に他ならない。
短剣が襲い掛かるが、タイミングはもう掴んでいる。これならば止めることは容易だ……!
「見えた!」
「なっ!?」
しっかりと腕を掴み上げる。そして追撃の――
「電撃ッ!」
上空の剣に溜めておいた魔力が電撃となり、影に直撃した。
月明かりに照らされて、顔があらわになる。
攻撃が軽いとは思っていたが、やはり女か。
銀髪の隙間から瞳が見える。
フードをかぶっているため、全容は見えないが端正な顔立ちをしているようにも見える。
何はともあれ、どうして俺を殺そうとしたのかを聞かないとな。
「さて、動けないはずだが……どうして俺に攻撃を仕掛けてきた?」
諦めていない真っ直ぐな瞳がこちらを睨んでくる。
「うるさいうるさい! とっとと私を殺せ!!」
負けん気が強いのは結構なことだが、話が出来ない相手は苦手なんだよな。
「あー理由を話せば殺さない。普通に解放するから、ワケを聞かせてくれないか?」
「……お腹が空いてた。だからお金持ってそうなあんたを狙った。それだけ」
なんで俺が金を持っていることになっているんだ。どう見たって金なんて持ってなさそうな――
「不思議って顔してる。こんなところに観光に来るなんて、よっぽどの暇人か資産家。今日を困る人はここには来ない」
……確かに言われてみればそうか。俺もドラに促されなければこんなところに来ることなんてなかったしな。
「わかった、そういう理由なら……一緒に飯でも食おうか」
「……は? え? 本気で言ってる?」
本気さ。別に力関係ははっきりさせているし、それにさ――
飯は一人で食うよりも二人で食った方が美味いんだよ。




