第二十一話【闇夜の戦闘】
闇の中に居る影と今俺は対峙している。
「正体を現さないとは卑怯な奴だな」
回答代わりの投げナイフ。声を発すると場所が割れる可能性があると踏んでいるか。
先程の皮肉交じりの言葉を放った時よりは接近していることになる。
速いな……反響する足音。音を隠すのではなく、立てることによって場所をわかりにくくしている。
実際、これをされると聴覚を強化しても意味がなくなる。
「ハッ!」
「なっ――!?」
剣で何もない暗闇を切り裂くと、確かにナイフで受け止められた感覚がある。
一瞬の驚愕を交えた後、すぐにその場から動いている。
俺の剣が不意打ちだったとしても、俺よりは軽いと言う事がわかった。
そして速度に優れ闇夜に溶け込むのが得意な職業は――
暗殺者かそれとも殺人に酔いしれた殺人者の類か。
当然、前に戦った牛人よりは力に重さはない。
だが、それを補うキレがある。人間であるのならそれ相応の知恵もある。
照明魔法を使うにはフィールドが広すぎる。こんな人気のない場所で使えば俺自身もマークされるかもしれない。
そもそも、こいつが一人で来ているかどうかも怪しい。生命探知を仕掛ける余裕もない。
ただ、感覚だけで言えばこれは単独行動に違いない。
ドラには見えている。だから魔力を借りている俺が見えないわけがない。
魔力を引き出していく。あぁ、世界が見える。なるほどかなりの高速で動いている。
筋肉強化で身体の強化もしておく。
敏捷は俺よりも遥かに上をいっているだろう。だが、動きは極めて直線的で読みやすい。
一撃を避けることだけに集中すればそう脅威ではない。
何度か相手の短剣を捌く。簡単に倒せると思っていたのか、どんどん単調になっていく動き。
戦闘中に熱くなるのはいけないことだ。サポートは決してそれを忘れてはならない。
恐らくだけど、パーティメンバーとしてあまり経験がないんだろうな。
人間を襲うにしても、経験の足りなさを感じた。
剣に滑るよう雷を纏わせる。剣先に短剣が触れた瞬間、伝導して身動きが取れなくなるだろう。
そこを仕留める……仕留めると言っても、戦闘不能にするだけだが。
若干周囲が明るくなるものの、それしきで見えるわけがないとタカをくくってくる。
火花が散る。間違いなく接触した。だが、相手の腕まで伝達しない。
「チィ!」
「あっぶな……!?」
なんていう反射神経。異変を感じたのか、触れた瞬間にナイフを地面に落としている。
敵ながら、かなりの技量を持っている。
――今日は長い夜になりそうだな……




