第二十話【新たなる悪意】
視界が奪われた。何も見えない。
――だが、この光は……いや魔力は暖かい。温もりを感じとれる。
俺の身体にも自然と馴染むこいつは、ドラの魔力の残滓だろうか。
視界が開けてくると、湿地帯に一人たたずんでいるだけだ。
特に何かが変わったわけではない。だけど、充満していたはずの拒絶の魔力はすでに消え去っている。
俺はソレを取り込んだ……? いや違うか。ドラが回収したのか。
グッと手を握れば、魔力が引き出しやすくなっている。
ドラの魔力が引き出しやすくなった――つまりは、ドラの魔力量が増えたと言っても間違いではないだろう。
「……こういう場所が他にもあるのか? ドラ」
『私の思いつく限りではここくらいかな』
それは残念だ。こういう魔力の貯蔵庫みたいな場所があれば、それを回るだけでドラを解放できたかもしれないのに。
まぁこれだけ収穫があれば、色々と考えなければならないことがある。
一つ、ドラの魔力スポットがないにせよ、こういういわくつきの場所では、魔力の源を吸収できる可能性がある。
そうすれば、俺はともかくドラに魔力を供給することが出来る。
俺と繋がっているとはいえ、いつ途切れるかもわからない。この魔力供給もいつまで続くかはわからない。
リスクは常に存在している。だからこそ、魔力は十全にしておきたい。
エーズィーの洞窟に行くのは、護衛でもない限り不審がられる。そういう綻びから王国にバレた際どうなるかも定かではない。
まだ、全ての世界を見せていない。こいつと一緒に居る世界は、正直俺にとっては心地がいい。それだけなんだ。
「あれ、そういえば視界は共有できるって聞いていたが、味覚とかは共有できるのか?」
『味覚……考えたこともなかったな』
そうか、食を楽しむのは人間くらいか。血の味とか美味しいっていう魔物は居るにしろ、楽しむ余裕もなかったか。
「宿場に帰ったら試してみるといい。人間の食いもんは美味しいからな!」
『楽しみにしておこうか』
湿地帯から出る。辺りは暗闇に満ち溢れている。
速度を上げて帰るか、魔力をあげ――
「見えるか?」
『……アポロ。強くなったな』
影が一つ。こちらに高速で襲い掛かってくる。
「はぁっ!」
剣で飛来物を叩き落とす。
「今の一撃をかわすなんて……やるじゃん?」
「誰だ、お前は」
投げナイフを視認し、間違いのない悪意を読み取った。
「名前、言うわけないじゃん? でも、殺させてもらうよアンタ」




