第十八話【思い出の跡地】
「しっかし凄いな、ここ……」
見渡す限り、荒野が広がっている。
ドラと兵士たちが戦争クラスで戦っていた場所。
一週間以上、ここでの均衡は崩れなかったとかなんとか。
数量自体はほぼ互角だったが、質は明らかに兵士の方が上だった。
それを盛り返していたのは間違いなくドラの力だろう。
「ドラ、ここではどうだったんだ?」
『……城壁に辿り着く前の兵士たちは、大したことはない』
お前が戦った魔術師よりは格下だとフォローも添えられて。
有象無象のモンスターだけでは雑兵も突破できないと言うことになる。
だが、それを突破しているのは、ここで雑兵は倒れ、精鋭、もしくはそれに準ずる何かが出てきたということだ。
「四天王……とまではいかないけど、強い部下は居なかったのか?」
『居ないわけではない。が、人間の精鋭たちのほうが我が軍勢よりは強かった』
束になれば、人間でも魔物や怪物に勝てるってことか。
――規格外のこいつみたいな圧倒的生物を除いて。
『……懐かしいな。ここでは力量の分からぬ者たちが、功を焦り戦いは長引いた』
人間たちは統率が取れている。強大な敵が現れるとそれに向かって団結して追い返そうとする。
魔物はそれがないか。ただ、破壊的衝動に突き動かされて叩くものだ。
だからそこを付け込まれると、力がいくら強かろうと術中にはまれば数に押される。
俺はそこまで魔物の生態系に詳しいわけではないけど、敵の数は常に無尽蔵なイメージが強い。
書物にも、襲い掛かる魔物の軍勢をなんとか追い払うことに成功したと。
軍勢は追い払うことが出来ても、最強の個を撃退することは出来なかったってわけか。
「ドラは凄いな……ここを突破したんだろう?」
『魔力を通して視認してみるといい』
ダイブとは違う。単に眼の精度を魔力を通して上げるだけ。
完全なるドラのお膳立てに過ぎない。水を通す管のようなものとなんら変わりない。
当時の光景が広がってくる。単独突破をしているドラをそれに続こうとしているモノたち。
魔法がドラに向けて飛んでくるものの、それを圧倒的な装甲で跳ね返している、弾いている。
その流れ弾が、他の奴に当たると蒸発して溶けているのが威力が並ではないことを思い知らされる。
魔術士も、何らかのバフで強化される可能性があっても、それを扱えるのは術者の力量だ。
あぁ、でも。これくらいなら今の俺にも可能だな。ドラも居るしな……
喰らいついている怪物たちも居る。それでも多く見積もって3割程度の突破か。
万を超える軍勢であっても、それを半分以下に削り取る王国の力は改めて凄いと思わざるを得ない。
そして何よりも、ここに居るのは王国側にとっても尖兵でしかないのだ。
冒険者を集め、功を挙げさせるために王国が集めた――言い換えれば烏合の集まり。
一応指揮系統はしっかりしているものの、本質的には個人がものをいう集団。
魔物たちに近いものを持っていると考えてもいい。
個人戦という観点から言っても、魔物たちは負けている。
戦略的にも負けている。ならば、なぜドラはこの戦いをしたんだ?
端的な疑問であり、当然の疑問でしかない。
正直な話、ドラは野心に逸り世界を征服しようとなんて考えることはないと思っている。
どちらかといえば、小川の流れでもゆっくり見ながら、降りかかる火の粉だけは払うイメージだ。
ただ、それは聞いたことがない。ドラに面と向かってしっかりと聞いたことがない。
強いて言うのであれば、世界をもう一度見たいくらいか。それに共感したことが始まりだった。
あの時の俺は、投げやりなところもあったかもしれない。
だけど、俺はドラに邪悪なものを感じたことはなかった。
疑念は生まれない。仮にソレがあったところで、もうドラとは一蓮托生だ。
こいつなしの生活にはもう戻れないし、戻る気持ちもない。
……ドラがあの身体を取り戻したら、その時に考えようと思うが。