第十四話【認める実力】
「ぐがぁぁぁぁぁっ!」
斬られた腕を真牛人はぶんぶんと振り回す。
絶対的な自分の自信を、一閃と共に切り裂かれたのだろう。
見ていてその姿は痛々しいというか、同情を禁じ得ない。
本来、そんなことを思うのは間違いでもあるのだが、完全に上をいかれた動きには、真牛人が不憫に思えて仕方ない。
「強い……」
思わずこぼれてしまう言葉。同じフィールドに立っていながら、全く違う場所に居る。
『あの者……強いな』
ドラもそういうくらいだ。本当に強いのだろう。古から居るドラが認めるのは、本当に一握りのはずだ。
……それとも、王国の力が強まっているのか。あの記憶を見た限りでは、間違いなくドラが優勢だったのにな。
戦況に目をやれば、クネスが相変わらず翻弄している。
片腕をなくした真牛人の攻撃は苛烈さを増しているが、全く意にも介していない。
王国一の槍術士という肩書きは本物というわけだ。
――ただ、牛人の王と宣ったあいつがこのままで終わるわけがないとも感じる。
でかい図体だけで、ここを支配できるくらいのオーラを纏うことは出来るのだろうか。
俺が感じた最初の感覚は、間違いだったのだろうか、疑念は尽きない。
しかし、感覚がマヒしている可能性もある。クネスが強すぎる。それだけでも説明はついてしまうのだ。
今の俺は考えることでしか戦えない。裏を読んでいって、余りある膨大な魔力の使い道を模索するしかない。
ドラは強い。それは間違いのない事実なのだから。
遠くで見ている限りは、真牛人が激昂して、絶対なる殺意を持ったワンパターン攻撃を繰り返しているように見える。
クネスも、それをわかっているのか、もっと深手を負わせることが出来そうなタイミングでも、浅い攻撃に留まっている。
それが駆け引きであるのは分かるのだが、単純に見れば真牛人は手も足も出ていないと言うことになる。
本当にそうか? 奥の手を隠しているのではないか?
「絶対に許さん……!」
「やってみるといい!」
何度目かの大振りの攻撃。もちろん、当たれば必殺の一振りになる。
クネスもここが勝負時と見たのか、地面を踏みしめ跳躍をする。腕を失っている真牛人の完全なる死角からの攻撃。
腕を失っているから、絶対に対応できない攻撃。
――不味い。殺気を感じた。まだ何かは分かっていない。よく見ろ、何が違う?
瞬間、気づく。切り落とされた腕の切断面からの血液が止まっていることに。
「クネス! 下がれっ!」
即座に詠唱。クネスの敏捷性を考慮すれば石壁を出せば飛び退くことが出来るはずだ。
「断片的石壁」
クネスは俺の意図を察してくれたのか、緊急的バックステップを行う。
次の瞬間、切断面から腕が即座に生えてきて、クネスが元居た場所をえぐり取る一撃になった。
「アポロ、助かったよありがとう」
にこりと笑うクネス。変にプライドが高いやつじゃなくて助かる。
もし、俺を格下とみているなら忠告も聞かなかっただろうし、俺は防御魔法を展開するのには時間がかかった。
「頼むぜ、クネス。出来ることはするからよ」
「ふふ、アレが見えていたのは凄いね。そしてボクの力込みで対応策を出してくる……まぁ細かいことは終わらせてから話そうか」
クネスが前に出る。表情には自信が満ち溢れている。そして、魔力も。
決着は近い……か。