第十一話【成長のために】
セインの話を聞いて、俺は強くならねばと心に誓う。
そのためには一人で戦える経験を積んでいかなくてはならない。
牛人くらいは倒せないと、あいつらに笑われちまう。
『逸るな。その感情は自分を食うぞ』
「へっ、竜なのに人間の感情、すげぇわかってるんだな」
『……その感情は特にわかるというだけだ』
嫉妬で動いているのは一目瞭然だ。それを指摘されたのが情けないような嬉しいような、複雑な気持ちでしかない。
「……わるい。ちょっと焦ってたみたいだ。俺は俺だからな、何者でもない」
こういう鍛錬も経験もしてきている。自分の何かが足りなくて違うことをしたいと何度も思っていた。
その度にもがいて苦しんで、それでも自己を磨くことしかできなかった。
少し険しい道のりになる。岩肌が見えていて、草木も目減りしている。
今から向かうのは牛人の洞穴。ダンジョンというには小さいはずだが――
「うおっ!?」
牛人のサイズが人間の3倍以上あることから、必然として洞穴も大きくなる。
牛人の角は鍛冶によく使われるし、放置しておくには危険な怪物の種ではある。
以前、俺は参加できなかったが王国に攻め入った牛人の一騎打ちを見た。
鮮やかに斬殺された牛人はそれを見て去っていったのを覚えている。
仕組まれた一騎打ちだった。王国の権威と強さを見せるための。
後から研究を重ねた結果、魔法陣による誘導。そして一番強い敵をわざわざ選んで招待した。
腕利き、武勇を誇る戦闘をしてきた猛者から見ると、まるで赤子の手をひねるかの如くあっさりとしたものだ。
歴戦の戦士に比べて、俺はまだ未熟だ。成長の糧になってもらう。
洞穴の中に入ると、やはり視野は悪い。照明魔法を使って、全方位の視野の明るさを確保するところからだ。
鍾乳洞みたく、尖って突き出している岩はない分、牛人にとって動きやすい地形になっている。
ひょっとしたら、そういう風に作ったのだろうか。よく見ると、辺りは白骨化しているものとその近くに斧が置かれている。
聞いていた体格と性格的には斧が主戦武器か。思案していると、地響きが地面を揺らす。奥から現れたのは紛れもなく牛人。
成長するために一番必要なのは経験値。分析して弱点を突けば倒すことは容易いだろう。だが、俺は短期間で強くなるために、最大限経験を積ませてもらう。
「かかってこい! 牛人!」
白骨化した傍に投げ捨てられていた手斧を二つ拾う。筋力強化はかけているから、簡単に持つことは出来る。
後は扱い方を学んでやる。
「さぁ、来い! こっちはダブルトマホークだ!」
両手をクロスし、それっぽいポーズを取る。
牛人は大きな斧を両手に持っていて、振り下ろしてくる。
避けるのは余裕だ。動きに隙がありすぎる。
「くおっ!?」
斧をクロスし、超筋力の攻撃を受け止める。あまりの衝撃で地面が凹む。足への負担もデカい。
筋力強化はしてないと、流石に死ぬな……
これもドラの魔法力を通して強化していなければ、腕の一本くらいは持っていかれてもおかしくはない。
「ふっ!」
相手の腕を狙い、手斧をこちらも振り下ろす。が、甲高い金属音が鳴ると同時に跳ね返される。
「かってぇ……」
『牛人の耐久力は高いぞ、気をつけろアポロ』
先に言ってくれっての。大振りの攻撃をそう何度も受け止めるわけにはいかない。
今度はこれをいなしていく。怖いのは横薙ぎの一撃だが、それをしてくるのならこちらも用意はある。
何度も何度も避け続ける。一応手斧で反撃はするものの、攻撃が通らない。あんまりしたくはないが、武器強化もしないといけないか。
「ウオォォォォォォォ」
手ごたえのない攻撃に痺れを切らしたのか、思い切り振りかぶり横薙ぎをしてきた。
「それを待っていたぜ!」
両手斧をジャンプでかわし、がら空きの頭に手斧を振り下ろす。
「兜割ッッ!」
完全に割ったと思った、確かに割れていた。キラキラと銀片が舞っている。
「マジか……」
石頭め……割れていたのは手斧だった。しょうがないから魔法で決着をつけるしかないみたいだな……
魔法力を掌に充填した次の瞬間――
「熾烈なる一撃!」
一閃、一つの光が奔ったかと思えば、牛人は倒れていた。