第十話【切れぬ絆・戻れぬ居場所】
――目が覚めた。凄い寝覚めの悪い朝だった。
汗はびっしょりとかいているし、生きた心地もしなかった。
「ドラ、いるか?」
一応の確認。あれだけの光線に巻き込まれたんだ。死んだっておかしくはない。
『居るぞ。ちなみにあの後から戦闘が始まった』
あれが前哨戦にもなってないってか……
はっきりとした力の差を感じることが出来た。そして、ドラの力の使い方も理解は出来た。
無我夢中で発射した、俺の手から間違いなく出た魔砲。想像の中とはいえ、あの威力を出すことは、引き出すことは出来たんだ。
出来ることが増えたことを自覚して、俺のできる範囲は思ったよりは広いこともわかる。
いつかはもう一度過去と勝負しに行くしかない。実力も試したいし、やられっぱなしは納得できない。
「ドラ、俺はもう一度強くなってからリベンジするよ」
『ふ、いつになるだろうかな』
どことなく優しく笑ってるような声。こいつが世界を滅ぼすなんて考えられないな、やっぱ。
精神力はかなり削られたとはいえ、夢の世界。現実の俺は体力も魔法力も前回+αってとこだし、クエスト引き受けに行くかな。
「んぁ?」
若干堅くなっていたパンを頬張り、太陽を見て時間を確認する。
天文学もそこそこやっているし、魔法の精度も上がっている。これくらいはドラの力を借りなくてもわかる範囲。
「うぇ……もう昼を回っていやがったのか」
『ぐっすりと眠っていたから起こすのも……な』
母さんかよ……もう少し早く起こしてくれたらなぁ。オヤジのとこに行って討伐クエストに行くか。
出来ればBランク程度の強いモンスターで試したい。
Aランクもドラの相手にはならないが、俺の相手には間違いなくなるはずだ。
酒場に向かい、オヤジの顔を確認して話しかける。
「オヤジ、討伐クエストが欲しい!」
「……アポロ。お前変わったな。いい方向にだ」
ざっと討伐依頼のかかった紙を渡される。Aランクは流石に入っていないが、昨日までは案内してくれなかったBランクのモンスターが入っている。
「オヤジ……?」
「ふん、バイホーンラビットをソロで撃破しているんだ。適正ランクと俺が判断しただけだ」
オヤジの見る目は確かだと思っている。だからこそ、オヤジに認められたのは嬉しい。
「……牛人のクエストを受けたい」
「Bランクか。まぁ大丈夫だろうな。頑張って来いよ」
「あぁ!」
頷いて振り向いた瞬間に、パーティーが来るのを感じた。
そしてそれは、俺が元居た――――
「姿隠蔽!」
堂々としていれば良かったのに、姿を隠してしまった。
そして見えない俺とすれ違うのは元居たギルドのメンバーたち。
そう、現――理想郷――のメンバーだ。
全員がいい装備を取り揃えている。俺が居た時よりもいい装備をだ。
「氷の魔女も大したことなかったな、ガハハ」
大笑いしているのは剛騎士ロック。
「何を言ってるの。少しは危なかったくせに」
と軽く窘めているのは魔術師カレン。
「彼のおかげって言うのもあるよね」
ニコニコしているのは狙撃手ケーイ。
「私は、皆さんの足を引っ張らないようにと……」
新顔だ、職業は分析士か。
敵の弱点を的確に見抜き、その弱点属性を付与できる能力を持つ。
実質的な攻撃能力は低いが、サポートに回ると中々に効力を発揮できる。
きっと、この分析士を選んだのはセインだろうな。俺の動きを一番知っていたのはセインだし。
「ただいま戻りました。オ……マスター。氷の魔女の討伐完了しました」
「なんだよ、セイン。言ってるだろう? いつも通りで良いってよ」
茶化す様にオヤジがしゃべりかけている。
報酬をもらい、色々は言った袋をロックが持ち上げている。
「アイズはまだギルドに入って日が浅い。案内してやってくれ」
「任せろって、なぁアイズ!」
バシバシとひ弱なそうな分析士の背を叩くロック。あれ、相当痛いはずなんだがな。
ギルドのメンバー達が酒場を出ていく。ただ一人勇者セインを残して。
聞こえてきた話は、理想郷はうまく回っていることと、誰も俺の話をしていなかったことくらいか。
どうせ、俺の働きはそんなもんだってのかよ。くそっ。
「なぁ、オヤジさん……アポロはここに来たかい?」
「お、やっと普通に話したなセイン。安心しろ。あいつは良くやっているよ」
その言葉を聞いてセインの顔が綻んだ。
セインは、セインだけは俺のことを心配してくれていたんだな。
それだけでも嬉しかったが、同時にわかってしまった。俺はギルドに戻れないことを。
セインは語る。俺の功績を。俺の居ない悲しみを。だが、それはギルドのメンバーに届くはずもない。
当たり前だ、主観しかない言葉は聞き入れられるわけもないからだ。
強くなるしか、結局ない。俺が強くなって、実績を上げて見返すしかないんだ。
やってやるしかない。見ておけよ理想郷……
必ず必要だったと言わせてやる。それまでは研鑽をいくらだって積んでやる……!