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第一話【青天の霹靂】

「くそっ……このままやられちまうのかよ!」


パーティー全体の体力はすでにぎりぎりだ。


現在、難関ダンジョンの最下層。ニックスの洞窟の支配者――炎の精霊イフリート――と対峙していた。



「諦めるな! 俺たちは絶対に負けはしない!」



その言葉には不思議と力を与えられている気がする。


理想郷――パラディーゾ――のギルドリーダー勇者セインの言霊には力がある。そう確信させるだけの説得力が彼には宿っている。


「炎よ、凍てつく冷気にて退きなさい!」


勇者セインを後押しするような、魔術師カレンの氷魔法が発動する。


通常の理であれば、炎属性のイフリートは氷魔法に弱い。


それでも隙が生まれないのは、圧倒的火力量の違いか。ただの人間にはこれほどまでの熱さは生み出せない。


イフリートの吐息がカレンの放った氷魔法を溶かしていく。


「休んじゃいられねえ!」


剛騎士のロックは焼け跡残っている盾を構えながら自身にヘイトを集めている。


筋肉隆々のその身体は、まさに身を張ってパーティーメンバーを守るタンクそのものだ。


「援護射撃、行くよ!!」


ケーイは携えた弓矢で牽制を入れつつ、必殺の一瞬を狙っている。


狙撃手ケーイの眼力インサイトはどんな隙をも見逃さない。


「癒しの力……加護を我が手に!」


優しい風が全身を包み込む。その瞬間、体力と気力がふつふつと身体から湧いてくる。


修道士テミスの回復魔法は、本物の神の領域に近い。例えて言うなら瀕死の状態が満タン近くまで上がるくらいには熟練している。


何よりも、この回復はただの回復ではなく、バフの効果も入っている。目に見えて底上げされる力は戦闘を有利にさせる。




さて、これだけ戦っているのだが俺は全てにおいて補強魔法をかけている。


どれも効果は微弱。先ほどのカレンの冷気にも地味にダメージを与えれる風というわけではないが、風圧で速度を上昇させている。


ロックが俺たちの前に立って身体を張ってくれている時にも、全力で防御バフ……つまりは耐えれるように耐久を底上げしている。


ケーイの援護射撃に対しても、ケーイの膂力を上げるために筋力強化の魔法をかけている。


テミスの回復には、直接の効果には干渉できないが、少しだけ範囲を拡張している。まぁ数センチメートル単位だから効力があるかどうかは分かりにくいが。


一番情けないのは、セインの呼びかけに対してか。これは簡単で拡声器のようなもので、声を大きくできるようにしている。


イフリートの咆哮によって掻き消されそうになる彼の声を気持ちばかり大きくはしているんだ。



縁の下の力持ちとは聞こえはいいが、実際のところは申し訳がなくて仕方ない。


本当なら俺も前線に立って戦える。一緒に援護射撃も出来るし、回復魔法もかけれる。


だが、俺はレベルが足りなかった。戦闘レベルではなくスキルレベルが決定的に不足している。



俺――アポロ――は究極的に器用貧乏だった。なんでもできる反面、なんにも出来ない典型的なロールプレイヤー。


決して主役になれず、輝ける場所も提供されることはない。


例えるなら、最高レベルが10だとして、俺は精々5が限界。それもかなり努力してだ。


だから俺が修めている魔法レベルは大体3~4が限度ってところ。


もちろん低級レベルのダンジョン攻略なら、何ら問題はない。


当時はそこそこ戦えるくらいには重宝されていた。何せ、勇者セインと幼馴染な俺はあいつの不足している部分を補ってきたのだから。


互いに競い合うように能力を高めてきた。俺が新しい魔法を覚えるたびに、セインは驚いて、笑って、褒めてくれた。


もちろんケインも究極の一を極めんがため、研鑽してきたのを俺は知っている。


ケインが勇者のように……いや、勇者の道を間違いなく進んでいる。その姿は自慢したいものであり、嫉妬にも塗れている。



戦闘はケーイの必殺の一撃にたじろいだところを、セインの一閃がイフリートを葬った。


これで、俺たちの……いやセインのギルドは一つランクを上げるはずだ。


自分で言うのもなんだけど、理想郷パラディーゾは新進気鋭のギルドで、勇者セインの存在もあってかガンガン名を上げている。


ま、セインの実力なら当然のことでそこは誇らしい。


ギルドに帰ると、出迎えの冒険者たちがいる。Aランク相当のイフリートを倒したとなれば、実力者の集いとしてウチのギルドも一目置かれるようになるはずだ。


出世した自分を想像するとむずがゆい、だけど俺は微力ながらもこのギルドに……セインと共に頑張っていきたいと思っている。




――いや、思っていた。




「すまない、アポロ」


「マジ……かよ……」



セインからの突然の脱退勧告。信じていた親友から告げられる事実。


他のメンバーから俺の力が圧倒的に不足していること、パーティーを組むにはレベルが足りていない。


何かしているのは間違いないが、それがどのように作用しているかわからない。


パーティーメンバー以外からのギルドメンバーからもなんであいつが……のような扱いをされているとのこと。



残念なことにこれは真実だ。セインの言葉から嘘の思念が感じられない。


透視しても嘘の欠片を掴めない。俺は人の言葉の真贋も思念も魔力でブロックされていなければ地味にわかる。


本当の占術士レベルなら、わかるんだろうが、俺の半端なスキルレベルでは良いことか悪いことかくらいしかわからない。



「アポロ――俺は!」


「言うなセイン。もう前とは違う。俺とお前だけで楽しくやっていたあの時とは」



遅かれ早かれ、ぶち当たる壁だった。セインに嫉妬していた部分は、素の実力が完全に離されていることに気付いてからだ。


俺は一人で、強くなるしかない。俺を追放しようとしたメンバーは正しい。


俺がセインのおかげで今まで、この楽園に身を置くことが出来ただけなんだ。



「じゃあな……勇者セイン」



荷物をまとめる。悲しいことに、俺の荷物は少なく固有のものを持っていなかった。


剣も斧も弓も槍も平均少し下のレベルで扱えるため、不足に合わせて借りだしていたに過ぎない。




強くなれば、また、会いたいな。


このギルドを去る前に一つの魔法を。



『ありがとな』



数文字しか飛ばせない、未熟な念話を最高の幼馴染に飛ばして、俺はこのギルドを去った。

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