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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その28 神の国のカミの怒り

作者: 天城冴

差別発言、暴言を吐きまくったモンリ氏に堪忍袋の緒が切れたのは地上の女性たちだけではなかった。地の底から、天の上から恐るべき女神の怒りが…

まだ寒さの残る2月の夜。豪奢な屋敷の一室で高齢の男性が独りつぶやいていた。

「ふう、まったく、まだ、収まらんのか。あんな発言ぐらい、どうということはないのに。まったく、あの大会を誘致に尽力したのは儂なのに」

いいながら、彼は畳の上に座った。

「明日は、我が国、この“神の国”ができた記念日、今日も大会開催のため、祈りを…」

彼が神棚に手を合わせようとした瞬間

パシン!

手をはじかれ、思わずよろめく。

「な、なんだ?一体」

周囲を見回すが誰もいない。窓のない部屋の障子や襖は閉じられ、風どころか、空気の流れすら感じられない。完全な密室、のはず…

「気のせいか、さあ、大会の開催に向けて、い…」

“そなたなどに祈られては迷惑じゃ、いい加減気づかんのか、バカ者“

不意に聞こえる女性の声

「だ、誰だ!一体、だいたいなんという言い草だ、儂は元総理で国際大運動大会の組織委員会のモンリだぞ!」

姿の見えない声にむけて虚勢を張るモンリ氏。姿どころか気配すらさせないモノに対して畏怖の念どころか恐怖すら感じないのは胆力があるのか、サメ以下とも称されたほどの知能しかないからなのか。威張るモンリ氏を声の主は鼻で笑い

“知っておるわ、愚か者!この国の品位を地の底まで貶めたそうじゃの。イ…が嘆いておったわ、もっともアレも情けないが”

「し、知っていて、その態度とは、この生意気な女…」

モンリ氏が言い終わる前に

“この痴れ者があああ!”

シュッ

と一陣の風が吹いたかと思うと

ブシュ

モンリ氏の口から大量の血が一気に噴き出る。

「ギャアアアアアア」

“ふん、言ってはならぬことしか言わぬ口なら舌はいるまい”

「アウ、アウ」

口を押えながら、あまりの痛みに思わず座り込むモンリ氏。その傍には切り取られたばかりの彼の舌先が転がっている。

“まったく、このようなモノがこの国の頭だったとはな、今のモノもロクでもないが。しかも、神の国だの、神風だの、神を引き合い出しながら神のことをしらずとはな。己の邪な思ひのために我らの名をかたるとは、いや語ってはおらぬか。そもそも(わらわ)が何者かも知らぬようじゃな”

「ア、アフ」

のたうち回りながら、声の主に必死で問いかけるモンリ氏。声は冷たく

“誰と問うておるのか?もうすぐわかるわ、そなたも死して地の底、(わらわ)の国にくるのじゃからな。我が姿をみて震え、恐怖におびえ、二度と無礼な口がきけぬように日の差さぬ暗闇の隅で縮こまっているが好いわ!よいか、数々の愚行、非礼、罪咎、決して赦さぬ。そなたは我が夫のように地上に帰ることはできぬぞ!」

「!!!!」

“ほう、ようやく誰かわかったか。愚かな男の身でも少しは知恵というものがあるらしい。この国は地の底も地の上も女神が君臨する国じゃ。それも忘れて何が”カミカゼ“”神の国“じゃ。そのようなことも忘れ、好き勝手なことをし放題、言い放題。怒っているのは(わらわ)だけではないぞ”

「?」

“日の神も、草木の神も、すべての女神、いや男神すらも、そなたら幾多の無礼、非礼な振る舞いに堪忍袋の緒とやらが切れたらしいな。一切の神の加護を取り払うつもりらしい。この国は二度と栄えることはあるまい、そなたらのような阿呆な男どもがいる限りはな。女人を穢れなどというが、まさにそなたらこそ、この国を貶め辱め地に堕とした穢れ、地の上より払うべき穢れであろうが!”

「ゾ、ゾン、ユ、ビュルジテ」

“許してほしい?勘弁してほしいのか?それはできんな。それに祓うべき穢れはそなたら阿保男どもだけではない、そなたのようなヒルコにも劣るモノを誰が生み出した女ども、のさばらせおった女ども、そのものたちも同罪じゃな”

「アグゥアグゥ」

血まみれの口で、残った舌をなんとか動かし、モンリ氏は死の国を支配する女神に家族の命乞いをしようとした。だが女神は一蹴し、さらに追い打ちをかける。

“妻や娘は許してほしい?できんな、そなたを諫めることも諭すこともできない愚かな女などこの国には要るまい。そのようなものがいたら、ますます滅びの道にちかづくだけじゃ、そなたらをおだてあげ、甘い声で囁いて利を得ようとする浅はかな女どももな、いや男もおったか”

「ガア」

“この国の人間を日に千人殺してくれると言っておったが、これは千人ではきかんのう。そなたら罪穢れを背負った者どもをすべて連れて行くまで、日に万人か、十万か。ああ、日の神も岩屋に隠れるとか申して居ったな。今度は下手な裸踊りぐらいでは出てこないそうじゃ、そなたらの命乞い、哀れな死にざまを見つくすまではな。何、本当に陽の光が消えるわけではない、この国の栄えがなくなるだけじゃ。いわゆるお先真っ暗というやつじゃな。凶作もつづくかもしれんな、花木の女神もそなたらには愛想がつきたらしいからな”

「グググゥ」

“ほう、泣いておるのか?痴れ者め!自らの言葉がどのような意味を持ち、発した時にどのようなことになるのか、わかりもせず、言の葉を垂れ流すからじゃ!自らがどのような立場にあり、何と尊び、何をすべきかもわからず、己の欲のまま、民の金品を動かすような真似をするからじゃ!やってよいことと悪いこともわからぬとは、全く何を考えていたのやら。もっともそなたに考えるオツムとやらはないようじゃの。全く幼子より悪いそなたのようなモノがどうしてできたのか、この国もだいぶおかしくなったのう。神を奉りながら神を貶めるような真似をなぜしたのか、地の底への長い坂道ででも聞いてみようかのう、さぞかし面白い話が聞けることであろうよ”

動かなくなったモンリ氏のそばで、地の底の原初の女神の笑い声が響いてた。


どこぞの国は、太陽神と死後の世界を支配するのが女神だというまれにみる女性上位のはずですが、それもしらずに女性蔑視差別満載のくせに神がどうのという頭がどうかしているオッサンたちがすくなからずいるようです。さすがに寛容な神々もお怒りになるんじゃないですかねえ。かの国のトンデモな状態は実は神の怒りの現れとかいうのかもしれませんねえ。

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