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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼馴染と寝取られの話

作者: プーリッチ

初投稿です。死力を尽くしました。

初めてNTRものを踏んでしまったあの頃の気持ちを思い出しながら書いてたら、知らない内に涙が出てましたねぇ…。頼むからタグに入れておいてくれェ…。

「ねぇ、聞いてよ絵美(えみ)!!」


 昼休み。

 みんなが食堂に集まって…何て事は無く。早い者勝ちのパン買い競争が始まる…何て事も無い。

 田舎な県でも特に地方に位置する我らが高校、その教室にて、隣の席に座っていた私の幼馴染が、勢い良く立ち上がって私の名前を叫んだ。

 四時間目が終わったばかりで、『倉田(くらた) 絵美(えみ)』と名前の書かれた教科書を机に片付けてすらいないというのに。


「はいはい…で、今度は何なのよ、(こころ)


 峰本(みねもと)(こころ)

 幼馴染であるという贔屓目を抜きにしても愛らしい顔立ちに、私のストンと落ちる長い黒髪とは違って、ふわふわで明るい茶色のショートボブな女の子。身長は百五十センチで私より五センチ低く、その小柄な体格は庇護欲を唆る。だけど胸は私より大きい。解せぬ。

 容姿だけでは無く、クラスでも一番の運動神経だとか、勉強はちょっと苦手だけどそれすらもチャーミングに見える人柄の良さとか。

 パッと思い浮かぶだけでも、大雑把だがこれだけ魅力的な面を挙げられるのが峰本 心と言う女の子で。

 そんな彼女にも欠点はあるのだけど…今は置いておこう。

 そして、彼女は良く、幼馴染の私に“趣味”の話をする。


「昨日もね、小説を見てたの。心トキメク、すーーっごく甘々で、もう正にこれこそがラブコメ!!ってやつ…」

「それでどうしたの、最後にヒロインが死んじゃった?それとも主人公?まさかの人類滅亡エンドとか」

「…正直、ああなるくらいなら人類なんて滅亡してしまえば良いと思う…!」


 そ、そんなに!?

 元々趣味である小説―というよりは創作全般―の事となると、心はいつにも増して語気が荒くなる。だけど今回読んだ小説はよっぽどだったのかもしれない。これはアレだ、心風に言うのならば“地雷”を踏んだってやつ。


「心がそんなに落ち込むなんて珍しいじゃない。『愛しの蝶』以来かしら」

「や、やめて!そのタイトルを思い出させるのはやめて!!私、まさかあれが死ネタ作品だと思わなかったの!死ネタは無理なの!!展開を思い出しただけで……うっ…」

「あー、うん、ごめんなさい」


 そういえば『愛しの蝶』インパクトを乗り越える為に心が取った手段は“とにかく愚痴ってスッキリして忘れる”だったっけ。これは反省ね、心に本気で怒られてしまうし。


「じゃあ…今回も死ネタなのね?」

「ううん…これなら死ネタの方がマシかも…」

「え!?」


 う、嘘でしょ…、『愛しの蝶』の時だって、私は彼女の愚痴に一週間は付き合ったのよ…!?

 『どうしてそこでヒロインを殺すの』とか、『一流の悲劇より三流の喜劇って言うじゃん』とか、こんな感じの事を一週間聞いて、それで落ち込む心を慰めてあげたのに…。

 ううむ…あの時以上か…、死ネタじゃなくて、死ネタ以上に衝撃的…。うーん、そんなのってあるのかしらね、あんまり詳しくないから分からないのよね…。


「……寝取られたの」

「え?」

「寝取られたのぉぉぉぉ!!!『純粋LOVE』のヒロインがぁぁ!!ね・と・ら・れぇぇぇぇ!!!!うわーーーん!!」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてっ!」


 ガバッと飛び付いてきた心を胸に抱き、小さい頭をゆっくりと撫でてあげる。

 寝取られ?聞いた事も無いんだけど、何、その専門用語。

 私が理解していないのを読み取ってか、心がぽつりぽつりと話し出した。


「完結済の作品だったし、私の好みのジャンルだったから一気に読もうと思って全巻買ったの…」

「うん」

「全六巻で、五巻まではなんていうか、私の好きなラブラブ〜イチャイチャ〜って感じの話でね…その、先輩に想いを寄せる後輩の話なんだけど」


 心はラブコメが好きだと昔から言っていたわねぇ…、その中でも純愛モノ、一途なのが良い、とか。


「五巻のラストで、後輩ちゃんが先輩に告白するんだけど、先輩断っちゃうの」

「何で?」

「それがね、先輩は帰宅部で成績も並み。対して後輩ちゃんはバレー部のエースで、その上勉学も出来ちゃう。しかも先輩は元バレー部で、まぁそこで2人は知り合ったんだけどね?なんというか、自分なんかじゃ釣り合わない、みたいな感じでさぁ」


 あー…そういう断り方かぁ…。私、好きじゃないなぁ。釣り合わないってだけで断られちゃ、なんていうか告白した側が可哀想よね…。


「それで……うぅ、フラれた後輩ちゃんにね?おんなじバレー部の人が、その、後輩ちゃんの悲しい恋は、私が忘れさせてあげるって言って、キスしちゃうの…っ!」

「おお…」

「おお、じゃないからね!?しかも後輩ちゃん、最初は抵抗するんだけど徐々に受け入れちゃって、最後はえっちな事までしちゃってるんだよぉぉぉ!!!おかしいじゃん!!先輩とはキスしかしてないのに!!おかしい!!結局最後の六巻では先輩と結ばれるんだけどね!!『やっぱり先輩だけが、私の純愛LOVEだった』とか訳の分かんない事言って!!!違うよね?純愛っていうのはそうじゃないよね!?他人に股開いた後でなーにが純愛だよ!先輩に感情移入してた私から言わせて貰えば、あなたのお股はユルユルですねって言いたい!!私が先輩なら言ってる!!このユル子!!というかそういう要素があるのならあるって言ってよ!!NTR!!注意って!!言って!!!あー最悪だよ!!失恋のショックで簡単に体を許す様な女なんて、戻って来てもいつか同じ事をするでしょ!!例えば将来先輩が仕事で出張に行ったりなんかしたら、寂しいからって浮気するよ絶対!!あーもうヤダ!!地雷踏んだ!!!」

「どうどう、また悪いクセ出てるわよー」

「悪くないですぅ!!健全ですぅ!!!」


 …とまぁ、これが心の欠点だった。

 趣味の事で、自分の許容外の事があった場合に限って彼女はこうなる。一通り不満を撒き散らさないと夜も眠れないらしい。

 教室で騒いでいるけど、誰も咎めたりはしない。むしろ何やら微笑ましい視線を感じるのは、それこそ心だから。長所が短所を抑え込んでいるという訳である。あれ、じゃあそれって欠点じゃない様な…?

 

 今までならば、私ははいはいと話を聞いて、心の不満の全てを肯定して慰めて、そして一緒に忘れていく。…のだけど、今回に限っては少しだけ気になる事があった。


「心、でもそれってね、結局は先輩と結ばれるじゃない?だったら過程がどうであれ、その先の幸せを想像出来ない?」

「先の幸せ?甘いね絵美、寝取られた事実だけでも相当だけど、一番の問題はそこじゃないの。“まだ先輩とはしていない大事な事を、他の誰かとやった”って事実が問題なの!!これは先に行こうが何しようが変わらない事実!!これから先輩は後輩ちゃんとそういうコトをする度に、『ああこの子は私以外の誰かに初めてを捧げたんだな』ってなるのぉぉぉぉ!!!」


 先輩の器、狭すぎじゃないかしら。それに心も、何だかいつもよりずっと激しいわね。

 寝取られ…か、私としては、結果的に結ばれるのならそういう展開も山谷付ける意味ではアリかな、と思うけど。


「そのバレー部の子もさ、一途で真っ直ぐな後輩ちゃんに惚れてたんだよ!?失恋のショックでふらふら傾く様な後輩ちゃんは、あなたの好きな後輩ちゃんじゃないでしょ!!『私が好きになったのは一途なあなたよ。だから、シャキッとしなさい!一度の失敗なんかで諦めるつもりなの!?私が好きなあなたをバカにしないで!!』くらい言って!!!」

「でも、失恋のショックって実際どれくらい辛いのかしらね」

「知らないよ!まだ失恋してないし!!でも私は失恋したからってユル子になったりしないもん!!ていうか、好きな人以外にそう簡単に体を許せる!?倫理観が狂ってる!!!」


 今狂ってるのは、間違いなく心だけれど。

 …なんて言えないわよね、うん。


「むぅ…その顔、分かってないでしょ、絵美」

「まぁ…だって、話を聞けば普通にハッピーエンドじゃないの」


 潤む瞳で私に抱きついたまま見上げてくる心。

 …少しクラッと来たわ、その容姿の良さは反則よっ。


「…じゃあ絵美は、私が他の人に抱かれてもいいんだ」

「え」


 …え、ど、ど、どどどどういうコト!?心、その泣きそうな顔は一体何かしら!?え、いや、そもそも私達、付き合ってない…わよ、ね…?

 だったら…そう、私に心の事を縛る権利なんてないわけで、心が誰に抱かれようと関係ないハズ。


「そんなの…」


 平気に決まってるじゃない。

 次に出そうとした言葉は、喉の奥で…いや、私の心が押し止めた。

 …私の“心”って……、ち、違うから、そういうのじゃないからっ。

 でも、心が他の女に抱かれる…か。


「………」

「…絵美?」


 私と心は友達で、幼馴染。初めて会ったのは六歳の時、このドが付くほどの田舎に一つだけ存在する小学校へ入学した時だった。

 可愛い子だな、って幼いながら感じた事を今でもハッキリと覚えている。当時から私はあまり人付き合いが達者だとは言い難く、実の母親にすらも友達が出来るかどうかを本気で心配された程。

 だけど、心を一目見た時に私は、生まれて初めてと言ってもいいくらい、『この子と友達になりたい』って思った。


「あの…絵美…?」


 それから今日まで、心はこんな私とずっと友達で居てくれている。私は心だけしか親友と呼べる間柄の人は居ないけど、彼女には私以外にも沢山の友達が居るのに、ずっと。

 朝は一緒に登校して、休憩時間になればこうしてお喋りを楽しんで、帰りも共にして、そして寝る前にはおやすみと通話で言い合って。


 心とは共にお風呂に入ったり、一緒のベッドで夜を過ごしたり、なんなら以前に、友達としてのスキンシップでだけど、おふざけで頬にキスをし合った事もある。


「………何これ」


 顔も知らない誰かが心の隣に立っている。


 楽しそうにお風呂で体を洗いあったり。

 布団に潜って笑いあったり。

 幸せそうに、キスを、したりしている。


「何、これ……!」


 ただの想像の筈なのに!

 私の頭の中だけの出来事の筈なのに!!

 本当の心は、今も私の胸に体を預けているというのに!!!


「……心」

「は、はいっ」

「その女、誰よ」

「ええ!?唐突な修羅場!?身に覚えが御座いません!!」


 わたわたと慌てる心に腕を回して、離さない様に強く抱き締めてみた。

 …ん、安心する。さっきの変な想像が消えていく。私の胸の中から、何か暖かい感情が広がって幸せになっていくのが分かる。


「…私、嫌かもしれない。ううん、嫌よ。心を誰にも渡したくない、想像しただけで胸がムカムカして、吐きそうになって、とっても泣きたくなるわ」

「!!…え、えへへ、そう、なんだ…うへへ」


 更にギュ、と腕に力を込めると、心も変な笑い声をあげて私の胸に頭をグリグリと押し付けてきた。

 心はクラスにも、そして勿論別クラスにも沢山友達が居て、これから先もその人達と遊んだりする事もあると思う。

 …だけど、ここまで体を預けてくれるのは、今までもこれからもずっと私だけが良い。

 友達と遊ぶ時だって、私と被ってしまえば迷わずに私を優先して欲しい。

 心の中で、ずっと私を一番の存在として認識していて欲しい。


 ……う、もしかして私、結構重い女なのかしら…?だって、彼女でもない心を相手にそこまでの事を求めるって、ちょっと普通じゃないわよね…?

 私、心が好きなのかしら?というより、好き以外にあり得ないわよね…?凄く好きよね?ま、待って、落ち着いて私!ここに来て気付いてしまった驚きの事実だけど、そう考えれば私、さっき凄い事を心に言わなかったかしら…?そう、私は確かに…っ。


『心を誰にも渡したくない』


 キリッ☆


 アーーーーーーッ!!!!

 アーーーーーーーーッ!!!(絶望)

 告白じゃない!!私だけを見てって意味じゃない!!誰にも渡したくない!?自分から放り投げてるじゃないの!!じゃあその後の心の変な笑い方はもしかして…!!


『え、へ、へぇ…そう、なんだ…うへぇ(ドン引き)』


 っていう事!?死ぬわッ!!!

 心に嫌われちゃったら私、本当に死んでしまう…!!

 ああ…その上私以外の誰かと親密な関係になって、一応は幼馴染なんだから、と交際報告なんてされちゃった日には……っ!


「絵美…!私も、絵美を誰にも渡したくな」

「私を嫌いにならないで!!心ぉ!!」

「何で!!?」


 ま、まだ失言したのは一度だけ…!幼馴染特権で!幼馴染特権でやり直しさせて下さい!!


「えっと、その…ね?誰にも渡したくないって言うのは、心が好きだから…ん?あ!違う違う!えーっと、心が誰かに取られるって考えたら、胸が苦しくて…あれ?こ、これでもない…わね?つまりね!?私は!!心の事を!!私の心の底から!!大好きって思ってるのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!って、だから違ぁぁぁぁぁう!!!」

「…っ」

「違うのよぉ…!心、お願い話を聞いてぇ…!心ぉ…っ」


 何だか心、大人しいし…!嫌われちゃったかしら!?あっ…ダメ、意識飛びそう…、私、こんなに心の事好きだったの…?


「……絵美!」

「あ…っ」


 トンと体を押されて、くっついていた体が離れてしまった。あ、もうダメだわ…抱き締めるのを拒否されたのもそうだけれど、名前を呼ばれただけで喜んでる私自身がもうダメだわ…。


「こっち来て。ほら、時間も迫ってるし、流石にここだと恥ずかしいから…」

「え?えっ?こ、心…っ?」


 グイグイと腕を引っ張られて教室を後にする私と心。

 その際、チラリと横目に映ったのは、何故か私達に手の平を合わせて拝んでいるクラスメイト達の姿が。

 ……何してるのかしら?


「…もう、ホンットに絵美は昔っからそうだよね!無自覚というか、攻撃的というか」

「うう…ごめんなさい、心…私、やっぱりあなたの事を不快に…」

「なってないから」


 私の言葉をピシャリと断ち、使用されているのを見た事が無い空き教室へと入って、言葉を断ったのと同じ様に扉を閉める。

 カチャリ…と聞こえたのは、心が後ろ手で鍵を閉めた音で。


「心…?」

「ねぇ絵美、どうして私が、あんなに寝取られモノが嫌いなのか、分かる?」

「え?…それは、もう、理解したわ。創作とはいえ、あんな気持ちは味わいたくないもの」


 心にとっては今更な話だとは思うけれど、聞かれたからそう答えた。

 寝取られ…う、最初はなんとも思わなかったのに、今ではもうこの単語を聞くだけで脳が拒絶反応を起こしちゃう…っ!


「私はね、昔からずっと絵美が好きだった。勿論、今もだよ?」

「!!」

「私ね、小学生に上がるまではずっと引っ込み思案で、仲の良い友達も居なかったし、今よりずっと暗い感じの子だったの」

「えっ…?こ、心が…?」

「うん、だから友達になってすぐの頃は、絵美と話す時も結構キョドってたでしょ?」


 …思い返せば、確かにそんな記憶はある。

 だけどそれは、私みたいに暗いやつとは話し慣れてないからだとばかり思っていたし、事実、そんな態度はそう時が経つ事もなく取らなくなっていた。


「私みたいな口下手相手でも、嫌な顔一つする事なく話をしてくれて、毎日一緒に遊んでくれて、嫌な事があったら慰めてくれて、嬉しい事があったら自分の事の様に喜んでくれて。…ねぇ、分かってる?絵美。好きにならない訳がないんだよ?私が明るくなれたのは、今の私があるのは、全部絵美のお陰なんだよ?」

「っ……」


 顔が熱い。そして、今更ながらに気付く。


 心が私をここに連れて来た理由は、私に、告白をする為だったんだ…。


「〜〜〜ッ!!」


 意識した途端、一気に顔が熱を持った。

 まともに心を見る事が出来なくて、バクバクと心臓の鼓動が煩くて、吐く息もどこか荒くなっちゃって…。


「だけど、告白する勇気なんて、元が根暗の私にある訳なくて…。絵美はこんなにも素敵で、可愛くて、カッコいいから、恋人もいつか出来てしまうのかもしれないって、ずっと不安だった。だから…情けないけど、物語の中に逃げたんだ。そこには幸せな話が沢山あって、胸がぽかぽかして、一時的にだけど不安を忘れる事が出来たから」

「心…」

「だから私は寝取られが嫌いなの!取られる不安を忘れたくて見てるのに、どうして物語の中だけでも夢を見させてくれないの!!?ムキー!!…ってね、あはは…」


 恥ずかしそうに笑う心は、分かっているから恥ずかしそうにしている。

 物語の中だけでも夢を見させて、というのが心の願いだとすれば、とっくにその願いは終わっているのだから。

 だって…心が私の事を好きだと言う事は、私達はずっと昔から両想いだったって事になる。自覚したのは最近でも、この気持ちを抱いたのは…そう、初めて会ったあの時から。

 一目惚れってやつは信じていなかったというのに、まさか自分が既に体験していたという摩訶不思議。

 つ、つまり!私達はとっくに両想いだったから、“物語の中だけでも”って前提が狂ってるという事!


 だったら、

 それならば――!!


「心、聞いて」

「ん…?」

「好きよ」

「ぴゃ!?」

「好き、好き、大好き」

「え、絵美…っ、待って…!いきなり真正面からそれはちょっと、待…っ」

「待たないわ、心だってそのつもりだったんでしょう?だから鍵を閉めたのよね?」


 心の小柄な体を強く抱き締めて、耳元で愛を囁けば、びく、と震えて耳まで顔を真っ赤に染める。

 私だって頰が熱いけど、なんだか今は無敵の様に思える。心が私の事を好きで、私も心の事を好きで…。ふふ、幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそう。


「心の事、絶対に誰にも寝取らせないから。これから先…ずーっと、一緒に居て貰うわね?」

「っ…うん…!私も、絵美の事を誰かにあげたりしないし、奪わせもしない…!だって、こんなに大好きなんだから…っ!こんなに、幸せで…、っ…嬉しい…から…!」

「もう、泣かないの。…ほら、顔をあげて?」

「!……う、ん」


 少しだけ体を離して、だけど、左腕はそのまま心の腰に回したまま。

 涙を拭って、ゆっくりと顔を上げた心の頬に手の平を添え、ぷっくらと薄桃色をした、呼吸に合わせて軽く上下している、少しの艶やかさを放つその唇に。


「…んっ」

「んぅ…」


 キスを落とした。

 時間で言えば、ほんの数秒。だけど感じる幸せは、この胸に広がる暖かい感情は、どこまでも広く果てしなくて。


「ん…、絵美…えへへ、今度はほっぺじゃなかったね」

「ふふ、そうね。…ねぇ、もう一回…良いかしら?」

「うん…私も、もっとしたい……んんっ」


 今度は少し強引に、まるで奪う様に唇を重ねてみる。

 いきなり強くやり過ぎたかしら…?と薄目を開けて見てみれば、予想に反して心は気持ちよさそうに受け入れてくれていた。

 …ああ…この子はきっと、私の中で暴れる肉欲の全てをぶつけても幸せそうに受け入れてくれる。

 今みたいに頬を上気させて、体を私に預けて、それが自分の願いだと言わんばかりに。


 だったら…もっとしたい。もっと深くまで。もっと…もっと…!もっと見たい、もっと聴きたい。もっと知りたい!心が弱い所も、心がキモチイイ所も。心がヨロコブ所も、何もかもを、全て引き出して知りたい…っ!!


「ん…ふ……………ハッ!?」

「ぁ…え?絵美…?」

「心…大丈夫かしら!?」

「へ?な、何が…?」


 あ、危なかった…今の、後ちょっとでも引き返すのが遅かったら……。

 無意識の内に、心の腰に回していた腕は彼女の制服の中に侵入しているし、キスだって、最後の方は舌を入れてしまっていた。

 い、いくら心が許してくれるからといって、だから何をしても良いって訳じゃないんだから!こういうのは順序が大事で、私達にはまだまだ時間がたっぷりとある。

 そんなに慌てる必要なんてない。


「絵美…もう、終わりなの…?」


 …な、ないったら、ない…!!


「鍵、閉めてるし…」

「っ…」

「あ、予鈴、なったね。昼の授業サボっちゃえば、続き……出来るよ?」

「あ……あぁ…っ!」


 す、すっごく誘ってくるぅぅ!!可愛いぃぃぃ!!!続き…なんて甘美な響きなのかしら…っ!!


 …だけど…!!


「だ、ダメよ…!!私は、心の事を大切にしたい!!こんな場所で、慣れてもいない私達じゃ上手く出来るわけないわ!心の体を傷付けてしまうかもしれないし…やっぱり今度、落ち着いて私の家で…ね?それに…」

「それに…?」

「欲に呑まれた私に、心を“寝取られ”たくないから」

「……あははっ、何それっ!―――ん」


 だけど名残惜しいから、最後に一回だけ。

 理性を掻き集めて心の制服から腕を抜き、軽く頬を撫でて唇を離した。

 手を繋ぎ、指を絡めて、鍵を開けて廊下に出れば、何だか別の世界に足を踏み入れた様な気持ちになった。

 きっとそれは、この空き教室で私と心が“友達”じゃなくなったから。


「このキッカケを作ってくれた寝取られモノには、感謝した方がいいのかしらね」

「えー…私はやっぱり苦手だよ…」


 “寝取られ”から変わり始めた私達の関係は、きっとこの先も長く、果てしなく続いていく。

 繋いだ手から、絡めた指から感じる温もりに胸が満たされていく。


 ああ、幸せだ。

 もう、心が居なくなるなんて考えられない。


「ねぇ、心」

「んー?」


 隣を歩く愛しい人が、今までの関係よりもずっと近い距離に感じられる。

 あなたが居ないとダメになってしまった。ずっと隣を歩いていて欲しい。

 …うん、そうね。この言葉を伝えるのに最適な言葉を、私は知っているわよね。


 ギュ、と繋ぐ力を強くして、お互いの顔を合わせあって、私はこう、口にした。


「やっぱり私、“寝取られモノ”は嫌いだわ」

「!!…えへへ、私もっ!」


 その瞬間の花が咲いた様な心の笑顔を見て、自然と私も笑顔になった。


 まだ見ぬ未来に希望を馳せて、これからもずっと、君と二人で歩いていく。

 大人になっても、年老いても…ずっと。

 …そうね、今日はもう寝取られって言葉ばかり聞いていたのだから、普段は見ないのだけれど…帰ったら何か物語でも見ようかしらね。

 ジャンルは、そうねぇ…、ふふ、やっぱり見るのなら


 “寝取られ”なんかとは無縁の、甘いラブコメディ一択かしら、ね。



読んで下さりありがとうございました。

目指した尊き百合は書けていたでしょうか?宜しければ感想、評価もお願いします!

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[気になる点] あの作品だけは許せない。 [一言] めちゃくちゃわかります! 寝取られを読むときは必ずざまあ要素があるかを確認してから読んでますw
[良い点] 純度100%の百合。 とても良質な作品でした。 [一言] 幼馴染の子の話に激しく同意。 やってしまった事の事実は変わらない。 自分もこのお話の中に出てきた作品と 似た内容の作品をこのサ…
[一言] 良き(*´ω`*) 素晴らしき“百合”でした♪ 『寝取られダメッ! 絶対!!』 ですよねぇ~(^-^; これからも機会があれば頑張ってください! (*´∇`*)
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