2話 失望・嘘・挑戦
あぁ……終わった。
小さいころからの夢。
冒険者。
幼いころからずっとずっと、英雄譚や冒険小説を読み漁ったものだ。
──そんな長年の夢が、崩れていった気がした。
これが走馬灯ってやつなのか?
死んでないけども。
冒険者に憧れた日々や思いがフラッシュバックしている。
「なんだよ≪村人A≫って!!」
「あはははは!!」
「面白すぎるだろ! モブじゃん!」
あちこちで僕を罵倒する、嘲笑う声が聞こえる。
仕方ない。
こんな職業聞いたことないもん。
もう冒険者は諦めろってことかな。
僕もだれかが≪村人A≫と診断されたら、笑ってしまうかもしれない。
僕は主人公や英雄にはなれないんだ。
そんな自己嫌悪に陥っていた。
何も信じれなくなっていた。
声は聞こえるのに、彼らの声を僕の体は拒んでいた。
──惨めだ。
そんなことを考えながら、神官の前から僕は動けないでいた。
「ちょっと!ルクスを笑わないで!」
リサが駆け寄って、僕の肩にそっと手を置いてくれた。
「一緒にいたら、お前の価値も下がるぞ~」
「付き合い考えた方がいいぞ」
「≪聖女≫ってのも本当はデタラメなんじゃない?」
僕だけならまだよかった。
けど、リサまで罵倒されるのは違う……!
僕は怒りをグッと抑え、リサの手をほどいた。
「リサ、いいんだ。ありがとう。」
そう僕は穏やかな顔で彼女に礼を言い、教会をでた。
──情けない。
そうして僕は全員に背中を向け、教会を去った。
きっと、背中越しだったから僕の顔は見えなかっただろう。
僕の顔は……物語の主人公とは思えない憎しみを含んでいた。
憎んだ。
なにを?
馬鹿にしたやつら?
違うんだ。
自分が身の丈に合わない夢をもったことに。
運命を。
なにより、現実を突きつけられたのに諦められない、この諦めの悪さに。
(≪村人A≫とか関係ない。諦めてたまるか!)
そんな決意を胸に、早歩きで僕は家へ帰った。
この日の決意を僕は後悔する。
地獄の始まりだった。
◇◇◇◇
「ただいま」
「あら、おかえり」
「おぉ!息子!いい職業もらってきたか?」
このおっとりした女性が僕の母さん。
うるさいのが父さんだ。
仕事を終えて、もう帰ってきていたようだ。
「最高に面白い職業もらってきたよ」
「なんだなんだ~!もしかして父さんと同じ大工かな!!」
「≪村人A≫。」
何を言っているのか、冗談なのか。
さすがの父も理解できないようだ。
「ルクス…?」
母さんは心配そうに僕を見つめている。
「はっはっはっははは! どういうこと?」
今は、父のこのやかましさとアホさに救われる。
僕は両親に自分の職業が≪村人A≫だった経緯とリサのことも伝えた。
・
・
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「なるほどねぇ。村人Aか。Bもいるんじゃねえのか?」
「リサちゃんとは大違いだなぁ!!ハハハ!」
僕の父さんは果てしなく、アホで能天気なようだ。
「でも生活職でもないなら、どうしましょうかねぇ…」
母さんは真剣に僕の行く末を考えてくれている。
どうしようもない息子だ僕は。
両親にこんな心配をさせて。
だが決めたことがあるんだ。
言わなきゃ。
言わなきゃ…。
言わなきゃ……。
なぜか僕の口はあの発言を口に出せなかった。
『冒険者』になりたい
その言葉が出てこないまま、一日が終わった。
・
・
・
翌朝、
リビングには、いつもと変わらない二人の笑顔と挨拶、朝ごはんが置いてあった。
みんなで朝ご飯を食べているなか、
箸を置いて、真剣な顔をした父さんがゆっくりと口を開いた。
「ルクス、話がある」
「なに?」
「お前、本当は冒険者になりたいんじゃないのか」
声がでかくて、能天気な父さんはいなかった。
言い当てられて、なんだか恥ずかしくなった。
両親の勘というやつだろうか。
「うん」
「なぜ言わなかった」
「言えるわけないじゃないか。村人だよ」
「でもなりたいんだろ」
僕は静かに頷いた。
父さんは少し考えたあと、こう言った。
「反対だ。」
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・
・
「だが、頭ごなしに拒絶するのは親のすることじゃない」
「どういうこと?」
「条件次第では認めてやる。今の実力だと死にいくようなもんだ」
言っていることはごもっとも。
父さんも母さんも、
僕がずっと冒険者に憧れていたことを知っているからこそ、応援してあげたい。
だけど、心配なんだ。
なら僕は、なりたいものになるために両親を安心させなきゃいけない。
それが責任というやつかもしれない。
「条件って?」
「冒険者が必ず通る道といえば、養成機関のある高等部に入り、卒業することだろう」
「そうだね」
冒険者になりたかったので、僕は当然知っている。
次に母さんが突然、口を開いた。
「そのトップ校である王立ラグナ学院の入試を合格しなさい」
「え?」
噓だよね?
僕の職業≪村人A≫だよ?
その高校は冒険者を志す者なら、誰しも聞いたことがある。
合格率が毎年10%に満たない超エリート校だ。
リサぐらいの職業だったら、合格だろうけど…
「それ以外認めません」
母は厳しくそう言い切った。
あぁ…両親の意図を僕は今、理解できた。
諦めさせたいんだ。
けど、なにもさせずに否定するのは良くないから、
自分自身で、無理だって納得させようとしているんだ。
両親の想いは理解できる。
だからといって僕は諦められない。
「分かった。入学できなかったら冒険者は諦めるよ」
両親はすんなり受け入れた僕の反応を見て、少し驚いたようだった。
やってやる。
入試試験まであと2年…
鍛えまくるんだ!
無謀かと思えるこの挑戦だが、僕は一つの可能性を見出していた。
「素振りなどの修行はいいが、くれぐれもモンスターのいる森には近づくなよ。ライセンスをもっていないものが近づくのは規則違反だ。なにより…死んでほしくないからな。」
父さんが真剣な表情で僕に念押ししてきた。
(ごめん父さん…その言いつけはどれも守れそうにない)
だって僕の≪村人A≫の唯一の活路である固有スキル……
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〇固有スキル 【リスポーン】
死ぬたびスキルを一つ獲得し、死亡地点で生き返る
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そうして、心の中で両親に何度も謝りながら
僕が森の中へ消える日々が始まった。
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