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魔獣の友  作者: 猫山知紀
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第74話 無人

 つん、つん。


「う、うーん」


 つん、つん。


 頬に何かが当たる感触でリディは目を覚ました。細く目を開けると、ぼんやりとした景色の中にリディの頬をつついているニケの姿が目に入った。


「起きた?」

「あ? あぁ……」


 まだ頭が働いていない。昨夜何かがあったような気もするが、記憶の紐がほつれたように上手く記憶を辿れない。ふと周りを見れば、リディが寝ていたのは見慣れぬ部屋で『ここはどこだ?』という疑問を糸口に明確に覚えているところまでを思い出す。


 そう、ヘニーノを出て山道を辿り、ニケがかつて暮らしていた村を目指したのだ。そして、そこにあったのは、滅ぼされた廃村。

 ではなく、平和に時が流れている穏やかな村だった。


 そこで、リディとニケはシウス、レグリス、ミリアという子供たちと出会い。そして、シウス達の両親である、ラルゴとクララの歓待を受けた。食事を美味しくいただき、用意された客間で床につき、そして――。


「そうだ! ラルゴたちは!!」


 昨夜寝ようとしたとき何らかの魔法のようなものによって、無理やり眠らされたことをリディはようやく思い出した。


「いないよ」

「いない?」

「村に、誰も、いない……」


 ニケはリディの目を真っ直ぐに見てそう言った。


「ど、どういうことだ……?」

「家の中探しても誰もいなかった。他の家も、村の入口にいたおじさんも――」


 リディにそう告げて、ニケは今朝起きてからのことを語りだす。



 ニケはリディが目を覚ます少し前に目を覚ました。

 昨日早く寝たからだろうか、体が妙に軽い気がした。


 外は少し明るくなり始めているが、まだ早い時間だ。リディは深く眠っていて起きそうになかったので、暇つぶしに外でも散歩しようかと客間の外に出た。早い時間だったので、ラルゴたちはまだ起きていないのか、家の中に人の気配を感じなかった。


 家の扉を開けると、目の前の光景にニケは目を見開いた。ケルベ達三頭がラルゴの家の前で寝ていたのだ。


 ニケは誰かに見られてはまずいと思って、すぐに周辺を見回す。しかし、村の中に人の姿はなく、ひとまず胸を撫で下ろした。


 ニケは家の正面に陣取って眠っているグリフに近づく、ニケの足音にグリフは気づき、丸まった体勢のまま、目だけをニケに向けた。


「なんでここにいるの?」


 ニケの問いにグリフは答えない。そしてニケは、グリフもケルベもバジルも人の気配を気にする様子がないことに気がついた。


 辺りを見回してみても人の気配はない。寝静まっているからかと思っていたが、もう日も昇り始める時間だ。朝食を用意するための煙が立ち昇ったり、畑仕事をする人が外に出始めてもおかしくない時間だ。


 ニケは村の家の様子を確かめるため、近場の家の扉をノックしてみた。


 ――返事は返ってこない。


 扉に手をかけると、鍵はかけられておらず、扉を開けることができた。

 家の中は暗く、窓から入る弱い朝日の光だけが頼りになる。薄く照らされた家の中に人の姿はなかった。ニケは人の姿を探して家の中に足を踏み入れる。


 家具類や日用品などが揃っている普通の家だ。間違いなくここで人が生活しているはずだが、その人の姿は見当たらない。家の中の部屋一つ一つを見て回るが、どの部屋にも人の姿はなかった。


 最初の家は諦めて、ニケは次の家に向かう。


 その家のそばには、小さいテーブルと椅子が二脚備えられていた。この椅子とテーブルには見覚えがあった。この村に来てバモンを待つ散歩をしている間に見た家だ。


 外から見た様子は昨日見た時と違いはない。


 しかし、この家もやはり人の気配はせず、扉をノックしても反応はない。先程の家と同じくこの家もまた鍵がかかっておらず、中に入ってみるがそこに人の姿はなかった。


 次の家も、そしてその次の家も。

 人の姿を探して、村の家々を回っていくが、ニケは誰に出会うこともなかった。


 ニケがラルゴの家の前に戻ってくると、グリフが起きてニケの帰りを待っていた。

 ニケを見つめるその瞳は何か事情を知っているように見えたが、ニケはグリフの心情は察せても言葉を交わすことはできない。詳細な事情をグリフから聞くことはできなかった。


 ニケはリディを起こすためにラルゴの家に入る。

 家を出るときにはラルゴたちが寝ていると思っていたが、村の様子を見るとどうもそうではない。念の為各部屋の扉を開けるとベッドの上に人の姿はなく、ラルゴもクララもシウスもミリアも、誰もいなかった。


 村を残したまま、人だけが消えてしまったのだ。



 ラルゴの家のリディとニケに割り当てられた客間の扉を開くと、そこにあるベッドにはリディの姿があった。寝相悪く口を開けて寝ているリディを見ると、ニケはほっとした気持ちになる。


 そしてニケは、リディの頬を人差し指で軽くつつき、リディが目を覚ますのを促した。



「なるほど、そういうことか」


 リディが起きるまでの話をニケから聞いて、リディは状況を整理する。

 昨夜リディは何者かの魔法によって強制的に眠らされた。ニケ本人に自覚はないようだが、同じ部屋に居たのだからニケも魔法を受けたはずだ。


 そして夜が明けると昨日会った村人たち、その全員が忽然と姿を消した。


 そこまで考えてリディは自身の荷袋の中身を確認する。

 巾着には金も入ったままだし、リディの実家であるライフェルト家の印章もある。

 金以外、荷袋のそばに置いていた剣も軽鎧も外套もそのままだ。盗られたものはなさそうだった。


 リディは眠らされたが、危害を加えられたわけでもなく、モノを盗られたわけでもない。

 犯人が盗賊で、村を襲ったと仮定すると、リディやニケが無事なのは不自然だ。なので犯人は盗賊ではない。


 犯人は村人、いや、おそらくクララかラルゴ、あるいはその両方か。いずれにせよ彼らが犯人だとするならば、その目的は金でもリディ達の命でもない。


 ただ『姿を隠すこと』。おそらくそれがラルゴ達の目的だった。


 ヘニーノ町でラルゴと取引をした素材屋はラルゴの顔はよく見えなかったと言っていた。

 そしてその素性も詳しくは知らなかった。これも意図して自身の姿や身元を隠しているのだろう。


(そんな悪人には見えなかったが……)


 そう、彼らが悪人であればリディたちを昨晩殺すこともできたはずなのだ。リディとニケは魔法によって完全に眠らされていたのだから。


 つまり、この村に住んでいたラルゴたちは悪人ではないが姿を隠さねばならない人たちだった。しかし、そこにリディとニケが来てしまい、やむなく村人全員で姿を消したということだろう。


 問題はなぜ彼らがこの村に移り住んできたかということだが……。


(こればかりは考えてもわからないな)


 リディはそこまで考えて思考を切り上げた。考えても答えの出ないことは考えるだけ無駄だ。彼らは姿を隠してしまったし、おそらくリディたちがこの村にいる限りは再び姿を見せることはないだろう。


「ニケ、朝何か食べたか?」

「ううん」

「じゃあ、まずは朝食の準備をするか!」


 リディは腰掛けていたベッドから立ち上がると、シーツのシワを伸ばして使わせてもらったベッドを整える。彼らが何者であれ一晩泊めてもらった感謝はしてもいいはずだ。


 リディとニケ、二人分のベッドメイキングを丁寧に行い、リディとニケはラルゴの家の客間を後にした。


25万字超えてました。

(たぶん)30万字ぐらいで終わります。

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