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魔獣の友  作者: 猫山知紀
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第64話 お茶

「どっこいせ」


 その掛け声とともにジャッカは背負っていた荷物をずしんと鍛冶小屋近くの地面へと下ろした。ぐいと体を反らし、腰を自分の拳でとんとんと叩いている。


 洞窟での採集の後での一悶着(ひともんちゃく)を終えた一行は、ジャッカの小屋へと戻ってきていた。

 時刻は夕方の少し前、今から町に戻っても暗くなる前には宿に到着できるぐらいの余裕がある。


「飲みもんでも出してやる。喉乾いたろ」


 ジャッカはそう言うと、高床になっている居住用の小屋へと入っていった。

 リディとニケはぼーっと立っていたが、少しすると『何やってんだ、早く入れ』とジャッカがドアから顔を出したので、すごすごと小屋へとお邪魔した。


 小屋の中は外観の通り広かった。寝室と思しき部屋が小屋の隅にあり、そこ以外は仕切りのない広い空間になっている。ダイニングテーブルには4脚の椅子が並べられていて、リビング空間には大きめの絨毯(じゅうたん)が敷かれ、側に木でできた低い長椅子があり、その上にクッションが置かれている。


 ジャッカはポットに水を入れると、薪ストーブに指先で作った火の玉を放り入れ、その上にポットを置いた。


「好きなとこに座んな」


 リディたちにそう促したジャッカは部屋の窓を空けていく、薪ストーブの熱を外に逃がすためだ。


 リディとニケはクッションの敷かれた長椅子に座った。硬い椅子に敷かれたクッションはかなりヘタっていて、お世辞にも座り心地が良いとは言えなかった。


「ジャッカは一人……で暮らしているのか?」

「あぁ、そうだ」

「その割には家具が色々整っているのだな」


 リディ達が座っている長椅子も複数人で座れるようにできているし、ダイニングテーブルも4人が座れるものになっている。それらの家具は、一人暮らしにしては持て余すように思われた。


「まぁ、ギルドの連中が来るからな」


 薪ストーブの上に載せたポットを見ながら、ジャッカはそう答えた。


 ジャッカの家によく来るのは、コジミというジャッカの顔なじみの受付嬢の女性だが、ここに来るまでには、整備されていない獣道を通る必要があり、その道中には魔獣が現れることもある。


 そのため、コジミがここに来るときには、護衛として冒険者を引退したギルド職員に同行してもらったり、新人の冒険者に仕事を与える形で依頼したりするのだ。


 そのためジャッカに用事があるのがコジミだけでも、この家を訪れる人数は数名となり、それなりの人数の客人を迎え入れるための家具が必要となった。ちなみに、この家の家具はコジミ主導の下で整備が行われ、この状態になっている。


「なるほど、一人暮らしの割に妙に小奇麗(こぎれい)なのはそのせいか」

「あいつが勝手にやってくれるもんで、こっちとしてはありがてぇがな」


 そう言った後で、コジミが買ってくるものはジャッカには可愛らし過ぎて、趣味には会わないと付け加えた。


「そう言えば、我々の評価はどうだった?」

「なんだい、聞くことにしたのか?」

「まぁ、折角だしな」


 リディは洞窟の中でゴーレムを斬るというジャッカの凄みを直に見ることができた。そして、その実力を持つ人間から見て、今の自分の実力がどう評価されるのか、ということに興味が湧いた。


 リディは好んで戦闘に首を突っ込むような戦闘狂ではないが、己の腕を磨き、守りたいものを守ることができる実力は持っていたいと思っている。


 そして、今の自分の実力を測るのにジャッカの目は信頼できると考えていた。


「そうだな。じゃあ、このお茶を飲み終わったら話してやる」


 カタカタとポットの(ふた)が音をたてはじめ、ポットの注ぎ口の空気が蒸気で揺らぐ。ジャッカはそれを確認すると、棚からカップを3つ取り出しそのうちの一つに茶漉し(ちゃこし)を載せた。


「茶の好みはあるかい?」

「いや、何でもいただくが。……そうだな、強いて言えば、ご当地ものがあれば飲んでみたいな」

「ご当地物ねぇ、……これにするか」


 ジャッカは棚から一つの瓶を取り出すと、スプーンで中身を掬い(すくい)、茶漉しの中へと入れた。ジャッカがお湯を注ぐ前にリディは茶漉しを覗き込むと、茶葉の中に細かい茶色い粒々が混ざっている。


「これは?」


 リディがジャッカに尋ねるのと同時に、ジャッカが茶漉しに湯を注ぐ。湯を注がれたカップから湯気が立ち上り、芳しい(こうばしい)匂いが部屋に広がった。


「いい香りだろ? これは米茶(こめちゃ)ってんだ」


 ヘニーノ周辺の地域は米が名産になっていて、町の北側には田園地帯が広がっている。収穫された米は8割ほどが通常の米として出荷されるが、一部は加工されてヘニーノの名産品として流通している。ジャッカの言う米茶もその一つで、収穫された米を焙煎(ばいせん)して砕き、茶葉と混合したものだ。

 その味は茶の苦味を打ち消すように甘みが加わり、通常の茶よりも飲みやすい味わいとなる。


 1つ目のカップにお湯を入れて少し待つと、ジャッカはカップから茶漉しを外し、2つ目のカップにかけてまたお湯を注ぐ。

 一周が終わると再び1つ目のカップに茶漉しを載せるが、今度はお湯は注がなかった。

 こういう風にカップに入れたお湯に2度茶漉しを浸すのが米茶の入れ方で、カップが増えると3度にすることもあるらしいが、湯が冷める原因にもなるので、数が多い場合は茶漉しを複数使い並行して茶を入れていくことが多い。


 茶が十分に出たところで、ジャッカは茶漉しをカップから外すと小皿に置く。


「待たせたな、飲んでいいぞ」


 ジャッカの言葉をきっかけにそれぞれカップを手に取った。


「確かにいい香りだ」


 リディは口を付ける前に、茶の香りを楽しむ。


「あちっ」


 ニケはいきなり飲もうとして少しやけどをした。


 各々が各々のやり方で茶を味わう。

 小屋の中は時間がゆっくりになったようで、誰も口を開かなかったが、気まずい時間ではなかった。

 ゆっくりとした時間の中で飲む温かい米茶は、鉱物採集の仕事の疲れを溶け流してくれるようにも感じられ、美味いというよりもなんだか優しい味わいのようにリディには感じられた。


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