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魔獣の友  作者: 猫山知紀
33/91

第33話 お願い

 着替えが終わるとアイシスは服の様子を確認する。

 リディに洗ってもらった後、アイロンはかけていないので皺のついた状態だが、街で見かける人達の服にはこのぐらいの皺が付いてるのが普通だ。

 改めて見返すと確かに自分の服は小綺麗だったとアイシス自身も思った。

 このぐらいの服の状態の方が貴族然とした雰囲気が隠せている気がした。


「何かおかしいところがあったか?」


 アイシスがスカートを伸ばしたりして服の様子を見ているので、リディは自分の洗濯に問題があったかと気になった。


「ううん、なんでもないわ」


 アイシスは軽く首を振って否定した。


「ところで、さっきの話は途中で有耶無耶になってしまったけれど、結局あなた達のことを教えてくれるのかしら?」


 リディたちが何をしようとしているのか、アイシスが知りたかったその話は、先程の件で有耶無耶になってしまったので、アイシスは改めてリディに聞くことにした。


「あぁ、構わない。では憲兵の詰所に行こうか」

「詰所?なんで?」

「私とアイシス、両方のことを知っている第三者がいた方がいいからな」

「あなた私が挙げた名前全部知らないって言ってたじゃない」

「あれはアイシスから情報を引き出すための嘘だ。こういう手を使う輩がいるからな。今後はしゃべる時には気をつけるんだぞ」

「……何か納得いかなわ」


 その小狡い手を使った者自身に忠告されるということにアイシスは口を尖らせた。



 テルモに部屋の鍵を預け、三人はアイシスの先導で憲兵の詰所へと向かう。

 来る時には『アイの実』を経由してきたが、アイシスによると直接詰所に行く場合には近道があるとのことだった。


 来るときに使った小路は使わず、広い通りを歩いていくと、しばらくして見覚えのある建物が見えてきた。


「憲兵の詰所ってあれよね?」

「あぁ、あれだ」


 建物の前にはさっきリディたちが来たときと同じく憲兵が一人立っていた。


「ん? お前たちはさっきの……、それにアイシス様?」

「ポリム殿はいるだろうか?」


 憲兵はアイシスの存在に疑問を感じながら、建物の中へ入っていく。

 そしてすぐに戻ってきて、ポリムはさっきの部屋にいると言って建物の中へと通してくれた。


 リディたちは階段を上がり、ポリムのいる部屋の扉をノックする。


「開いてるよ」


 ポリムの返事を受けてリディたちは部屋の扉を開けると、そこには机で書類を見ながら仕事をするポリムの姿があった。


「なんだ、もう二つの村を見てきたのか、早かったな」

「そんなわけ無いだろう」

「冗談だよ、それで何の用だ?」

「あぁ、ちょっと確認したいことがあってな」


 そうしてリディが顔を後ろに向けると――。


「なるほど、あなたに協力を要請したのはポリムだったのね」


 そういいながら、リディの後ろに立っていたアイシスは前に出てポリムに顔を見せる。


「ア、アイシス様?」


 先程ポリムに伺いを立てに行った兵士からは聞いていなかったのか、ポリムは驚いた表情を見せた。


「なぜこんなところへ」

「さぁ? 私はこの人に連れてこられたのよ」


 リディは二人のやり取りを見て、アイシス本人が言ったとおりポリムとアイシスが顔見知りであるということを確認した。


「その様子だと、知り合いというのは本当だったみたいだな」

「なに、疑ってたの?」

「まぁ、知り合いではなく、一方的に知っているという可能性もあるからな」


 2人が知り合いだったということで、アイシスが領主の娘であり、ポリムが憲兵の偉い立場ということは大きく信憑性が増した。


「なんか、おかしなことになっているが、それでなんでここに来たんだ?」

「あぁ、そうだったな」


 ポリムに言われて、リディは改めてポリムに会いに来た理由を説明した。


 アイシスとは街でたまたま出会ったこと、ニケがうっかりリディたちが行く街の名前を漏らしたこと、それによりアイシスに疑いの目で見られたこと、だ。


「なるほどなぁ、それでアイシス様にどこまで踏み込んで良いのかわからず、俺に会いに来たというわけか」

「あぁ、犯人は村ごと消すようなやつだ。彼女を関わらせるのは危険を伴うと思ってな」


 リディの話を聞いて、ポリムはアイシスにちらりと目を向ける。

 ポリムはアイシスに対して敬意を持っている。それは領主の娘という彼女の立場がそうさせているという一面もあるが、ポリムはアイシスという人間の振る舞いを気に入っていた。


 貴族と平民、その身分差がある限り立場にも上下というものは生まれてしまう。

 貴族と呼ばれる人々は大きい権力をもって人民を支配すると同時に人民を庇護(ひご)する役割がある。

 しかし、権力に溺れた貴族が平民に対して傲慢(ごうまん)に振る舞うということはこの国においても、ままあることであった。


 特に年の若い貴族は親に甘やかされて育てられる場合が多く、その傾向がよく見られるものだ。そんな彼らも通常は成長するにつれ、世間を知り、平民を知り、態度を弁えた(わきまえた)ものに変化していくのを憲兵隊長であるポリムはよく見てきた。


 それはアイシスにも言えることで、彼女は横柄な態度こそ取らないが、世間知らずな面がある。それはそのまま世の中の恐ろしさを知らないということに繋がる。


 アキュレティ卿から漏れた今回の事件の経緯を聞いて、アイシスが放っておけないと思うのは貴族としてあるべき姿ではある。

 しかし、彼女自身が表に立とうとするのは、彼女に危険が及ぶことに繋がりかねないため、ポリムはちょうど頭を痛めているところだった。


「アイシス様、私もあなたがこれ以上事件に関わるのは反対です」


 ポリムはアイシスの目を見てきっぱりとそう告げた。


「今までは大目に見ていましたが、あなたもご存知の通り被害はこの街に近づいて来ています。これ以上はあなたの安全を保証できません」


 ポリムの目は真剣で、真にアイシスの身を案じていることが伝わってきた。


「事件に関わることが危険だというのはさっき嫌というほど思い知ったわ……」


 皺になったスカートを掴み、うつむきがちにアイシスは答える。


「でも、最後に一つお願いがあるの」


 アイシスは顔を上げて前を見る。その表情には怯えはなく、貴族然とした風格のある表情だった。


「彼女たちが襲われた村を確認しに行くのに私も同行させて欲しいの。事件に関わるのはこれで最後にするわ。お願い」


 そう言ってアイシスはリディ達に向かって頭を下げた。


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