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魔獣の友  作者: 猫山知紀
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第15話 待つ

 ギルドを出たリディとニケはすぐにヒジカ退治へとは向かわず、リトナの町をぶらぶらと歩いていた。ギルドを出ると太陽がてっぺんに近かった。ちょうど昼時なので食事を食べに向かっているであろう人たちが町中を行き交っていた。

 町に寄ったということもあり、リディとニケも久々に町の食堂で食事を摂ることにした。

 二人分の昼食ぐらいの金はまだなんとか残っていた。


 昼時なので結構混んでいる店が多かったが、町の中心から少し外れたところには満席ではない食堂がいくつかあり、リディとニケは表に出ている看板をみつつ、食べたいものと値段とを天秤にかけながら、手頃な店を選んだ。


「さてと、夜まで何をして待つかな……」


 食堂の席に着き、注文を済ませると、リディはそうつぶやいた。


「夜になるのを待つの?」

「あぁ、ヒジカは夜のほうが狩りやすいからな」

「そうなんだ。なんで?」

「あいつらは夜行性だ。それに……」

「それに?」

「角が燃えているから、夜にめっちゃ目立つ」


 ヒジカの生息する地域では、夜の山にポツポツと赤い点が見える。

 その一つ一つがヒジカの燃える角であり、それはヒジカ同士の縄張りの範囲の目印になったり、またヒジカを恐れる動物からは危険に近寄らないための目印になっていたりする。


 ヒジカは概ね自身が食物連鎖の頂点に立てる地域にしか生息しないので、燃える角は通常問題にならないのだが、今回のリディのようにヒジカを狩る側の人間からしてみると夜に燃える角というのは非常に目立つ目印でしかなかった。

 そんなヒジカの話をしているうちにリディたちのテーブルに料理が運ばれてきた。

 注文したものは軽く焼いた肉と野菜と小麦粉をこねて焼いた薄いパンのようなものだ。色々な食堂を見て回って、安い割に腹持ちが良さそうなのがこれだったのだ。


 二人は食事を取りつつもヒジカについての話を続ける。


「角を燃やすなんて、ヒジカはなんでそんな目立つことをするんだろ?」

「自然界の中ではヒジカはそこそこ強い魔獣で狩られる立場ではないし、普通の人間にとっても恐れるべき魔獣だ。だからこうして退治の依頼が出ている」


 ニケの疑問に料理を頬張りつつリディは一般論を返す。

 そう、ヒジカは元来強い魔獣なので目立っても問題ないのだ。むしろ敵を威嚇するために角を燃やしていると言ってもいい。


「ニケだって松明振り回した人間が突進してきたら少しはビビるだろ? それとおんなじだ」


 ニケが想像しやすいようにリディは人に置き換えて説明する。

 松明を振り回して突進してくる人間を想像するとたしかに怖い。でもこれはヒジカに対する恐怖とは別の怖さな気がする……とニケは思ったが口には出さなかった。


「まぁ、でも私のようなつよつよのつよの人間がここにいたということがヒジカにとっての不幸だな」


 料理を口に運びながら、受付嬢の言い方を真似ながら軽く胸を張った。


「気に入ったの?」

「なにが?」

「その『つよつよのつよ』ってやつ」


 ギルドを出るときから、使い出したリディの口調をニケが指摘すると


「あぁ、お気に入りだ!」とリディはぐっと親指を立てた。






 食堂を後にしてリディとニケは町の通りを歩いていた。食事の終わり際にリディが突然『やることを思いついた!』と言ったので、ニケはリディに従う形で歩いている。

 先を行くリディはギルドでもらった紙を見ながらぶつぶつと呟きながら考え事をしている。


「あっち、いやこっちか?」


 通りが交わるところで立ち止まるとリディはキョロキョロと紙と景色を見比べる。


「今いるのがここで、依頼人の家がこれだから……」


 紙に書いてある情報と現在地から進むべき道を模索する。

 そんなリディの様子を横で見ていたニケは横から紙を覗き込み、リディと同じく周りの景色と依頼書の地図とを見比べ始めた。


「あっちじゃない?」


 少ししてニケが、ある通りの方向に指をさした。


「ん? そっちか?」

「たぶんだけど……」

「夜まで時間はあるし、間違っていてもいいさ。行ってみよう」


 ニケの指差した通りを進んでいくと、徐々に建物が少なくなり、畑や牧草地帯が多く見られるようになってくる。見晴らしが良くなり、遮るものがなくなったので、時折吹く風が心地よかった。近くで牛や羊を飼っているのか動物の鳴き声も風が運んできていた。


「だいぶ町外れまで来たな、地図通りだとするとこの辺りのはずだが、あれだろうか?」


 ここまで来ると見える範囲には数軒の家しかない。それぞれが畑などの農場を抱えている。リディとニケはとりあえず一番可能性の高そうな家に向かってみることにした。


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