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魔獣の友  作者: 猫山知紀
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第12話 出発

 朝、リディは日の出とともに起きることができた。部屋の窓から直接太陽は見えないが、部屋が徐々に明るくなっていくことで、太陽の顔の出し具合が想像できる。


 ベッドから起き上がり、手櫛で適当に寝癖のついた髪を整えると荷物を持って部屋の外に出た。

 商隊に手紙を渡したらすぐに戻るつもりなので、ニケは起こさなかった。


 西側、ヨルクル方面の街の出口前の広場には、数は少なかったが商隊がいくつかいて、各々まとまって出発の準備をしている。

 今まさに出発に向けて動き出すもの、馬車に荷物を乗せるもの、人数が揃っているか点呼をしているものなどもいる。


リディはその中から、ひとしきり荷物を積み終え人待ちをしている様子の商隊に声をかけた。


「すみません、手紙を預かっていただきたいんですが、ヨルクル方面に向かいますか?」

「あぁ、行くが。……手紙?」


怪訝な表情を浮かべた商人の男にリディは簡単に経緯を説明し、ヨルクルが今は住民が避難し、もぬけの殻になっていることも付け加えた。

商人は村が空になるなど、あまり信じていない風であったが、色を付けた依頼料をリディが支払うと、金を払ってまで嘘をつく意味がないと、リディの話を信じたようだった。


「じゃあ、グルザってのがヨルクルの先の街にいるんだな」

「えぇ、おそらく。避難先はそこ以外ないでしょうから」

「まぁ、そうだな。了解だ、着いたら探してみるよ」

「お願いします。もし、少し探して見つからなかったら、ヨルクルから避難している別の人でもいいので」


 手紙の目的はヨルクルの村人に、村に戻っても平気だと伝えることである。

 リディを死地に残して避難した(と思っている)グルザが一番気に病んでいるだろう。そのため、グルザに一番に伝わるのがベストだが、そこに固執(こしつ)して報せ(しらせ)が遅れるのも本末転倒である。

 リディは念の為ヨルクルの人であれば誰でも良いと付け加えた。


手紙を託した商隊を見送って宿に戻ると、ニケが両膝を抱えてベッドに座り込んでいた。


「どうした?」

「あ……」


 表情は変わらなかったが、リディから声がかかったことにニケは安堵したようだった。


「私がどっかに行ったと思ったのか?」

「ううん、荷物はあったし、戻ってくるのはわかってたんだけど……」

「だけど?」

「…………」


 不安になった、ということがニケの雰囲気から読み取れた。

 ケルべ達は近くにはいないし、ニケの生い立ちもあって、声もかけずに一人にしたのは失敗だったとリディは思った。


「安心しろ。私は黙ってお前の前から消えたりしない。別れるときはしっかり『さよなら』を言ってやる」


 リディはニケの頭をグリグリと撫でながらニカッと笑ってそう言った。


「うん、……わかった」


 頭に手を置かれながら、ニケはそう頷いた。



 リディとニケは手早く旅支度を整えると、宿の主人に世話になった礼を言い宿を出た。


 早い時間ではあるが、街の人々の一日も始まっていて、商店の開店準備をする者や、仕事へ向かうであろう人、学校へ向かう子供たちなど、宿前の通りにはちらほらと人の姿が見えた。


「昨日話した通りこれから北に向かうが、このまま北門へ行っても大丈夫なのか?」

「大丈夫だけど、なんで?」

「いや、ケルべ達に知らせなくてもよいのかと」

「えっと、うん、……大丈夫。門の近くで呼ぶ、から」

「昨日のアレか」

「うん、……昨日のアレ」


 北の門へ向かう途中、小さな市場のようなものが開かれていたので、保存が効きそうな食べ物をいくつか見繕って買っておいた。


「森で何か採ればいいんじゃないの?」

「まぁそうだが、備えあれば憂いなし、というやつだ」

「ふーん」


 ニケとリディが連れ立って北門に向かっていると門の近くで兵士に声をかけられた。

 昨日西門で声をかけられた街の兵士に聞いたとおり、北の門でも外に出ようとする女子供への声掛けをしているようだ。

 リディは面倒と思いながらも、昨日と同じく声をかけてきた兵士にニケとふたりで旅をしている旨を告げた。

 兵士は女子供だけでの旅にやはり抵抗があるようで渋々といった感じだったが、リディの身なりを見てふたりが街の外に出ることに納得したようだった。


(でもまぁ、警備が真面目なのは良い街の証拠だな)


 街の治安の良さは当然警備の質に比例する。

 この一端だけで治世を敷いている領主の手腕を伺うことができた。


 リディはかつて政治が腐敗しきった街を見たこともあるが、暴行や略奪が横行し、警備兵も名目上存在はしていたが、彼らはそれを見てみぬふりだった。


(この街はヴァレリア卿の管轄だったか、街も活発だし良い政治をおこなっているのだな)


アサイクの街の(まつりごと)を司るものに思いを馳せつつ、リディとニケは次の街へと旅立っていった。




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