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宝探し

05宝探し


1. 調査

  犬のペロ(継承候)はデータ検索をしていた。

「ウィリアムさん。これ、探してくれませんか」

「古代異星人が隠した宝に関する話ですね。E星系の遺跡から出た情報です」

「100年前の話だよね」と猫タロウ(国王)。

「E星系で異星人の遺跡が発見されたのが1,000年程前で、遺物の解析から宝の情報を得たのが100年前です」とAIウィリアムが説明する。

「もう誰かが、掘り出した後では」と猫タロウ。

「杏さんのお仲間数人の他は誰もいなかったから、放置していたはずです」と犬ペロ。

「どんな宝なのかな」と猫タロウは聞いた。

「幾つかあるようですが、一つは、究極の面白いゲームです。異星人は、このゲームにはまり過ぎて衰えてしまったようです」

「それじゃ、宝とは言えないな」

「どんなゲームか知りたいです」と犬ペロ。

「衰退しても、いいの」と猫タロウ。

「AIさんがいるから国の将来は大丈夫ですよね」

「そうです。あとは、究極の美味いものリストとか」

「私はお腹一杯に食べられれば、それで良いです」

「異星人が美味しくても、俺たち犬猫にはどうだろうな」

「でも、美味しいものには興味があるわ。味見してみたい」


「あと、究極の笑い話」「究極の無駄」「それと…」

「究極シリーズか」

「食べられないから、いらないです」

「どうやら、異星人は究極のドッキリで滅亡したようですよ」

「余計、要らないな」

「でも探せば、他にも宝があるかもしれません」

「そうですか。折角だから、調べに行きますか」

「ウィリアムさんはAIなのに欲張りだな」

「人格クローンAIですから」と犬ペロが小声でつぶやいた。

「ここ、危険じゃネ」

「危険でも大丈夫です」とAIウィリアムは答えた。

 犬ペロは二人に向かって言った「行きましょう」


2. E星系

 国王と継承侯、それに国家最高管理AIの3人は、E星系の古代異星人が残した遺跡の入り口にいた。国家の最高権力者たちだというのに、護衛のアンドロイドは1体も付いていなかった。あともう一人、亜人化したメス猫がいるだけだ。

「護衛のアンドロイドはいないのかな」

「リアルなのですよ。私たちに何かあったらどうするのです」

「どうもしません。リアルといっても皆アバターですから」

 実は全員、アバターを遠隔操作しているのだ。

「じゃ、入ろうか」

 猫タロウ(アバター)は、亜人化したメス猫の手尾引いて言った。ただし、ここにいるのはアバターだが。


 この子は、神人が猫タロウの目の前で亜人化させた、アメリカンショートヘアだ。彼女に『ナメ』(嘗女)という名前をつけた。

「はい、あニャた-」とナメ。

 すっかり嫁気取りだった。いや、猫タロウが国王なので妃か。

「待って、ガブリ・エル君を呼んでいるから」

 間もなく「お待たせしました」と彼氏が現れた。と言うか、地面に寝かせて置いてあるペチャンコのアバターが、急に膨らんでむっくりと起き上がったのだ。

「エル君」ヒシッ

「アバターで抱き着いても、意味なくネ」


3.遺跡

 「さて皆さん、飛び石の池をクリアしましたね。では、次へ進みます」

「うー、危ないところでした。ウィリアムさん、lifeは幾つあるのですか」

「一つに決まっています。しくじったら、また振り出しに戻るのです」「遺跡の入口に予備のアバターを置いてありますので、それを使ってください」

「予備のアバターを担いで進むかな」と猫タロウが言った。

「邪魔になってゲームクリアできませんよ」


「今度は迷路と落とし穴ですか」犬のガブリ・エルが聞いた。

「早く、進んでください」「時間がかかると…」

「アッ、何か出てきた。エル君、助けて」

「キャー、食べられるニャ」と猫のナメ。

「少し待つと相手が点滅しますから、その時にやっつけてください」

「バックマンか」


 そして一行は遂に、最後の部屋にたどり着いた。

「開けます」

 AIウィリアムが開けた石造りの小部屋には、壁一面に壁画が描かれていた。中央には大きな円が描かれていた。他には何もない。正面に出口があるだけだ。

「広場だ」

 出口の扉を開けると、天井まで約5メートルの空間がある大きな地下空洞に出た。階段を下ると、3mほど下に掘られた道が続き、やがて直径約50メートルの円形広場に出る。そこは、掘り下げられた8本の小道が、交差する広場だった。広場の中央には、大きな魔法陣が描かれていた。

「では、順番に行きますか」

 彼らが来た道の、左隣の道を進むことにした。時計回りに、それぞれの道を順に探査していくのだ。一行は小道の先にある階段を上り、石造りの小部屋に入った。

「これは、何」と犬ペロは尋ねた。

 部屋の中心には魔法陣が描かれている。その中央には小さな棒状の石が直立していた。

「アッ、触らないで」AIウィリアムが制したが遅かった。

 部屋は光に包み込まれた。

「エッ、落とし穴かニャ?」と猫のナメ。

 全員の体が宙に浮いた。しかし次の瞬間、

「アレ、落ちてない」

 全員寝転がっていたが魔法陣の中にいた。魔法陣は高度な科学力によって造成された瞬間移動装置だった。

 犬のガブリ・エルは尋ねた「ここは、どこ」

「私は誰かニャ」

 猫のナメも尋ねた。


4.テラへ

 AIウィリアムは答えた「ここは惑星テラです。その北半球にある細長い列島の南部で、高千穂峰(たかちほのみね)という所に我々はいます」 

「テラへ来たのか」

「惑星テラって人類発祥の地、地球のことですね」

「犬猫の故郷でもあります」とAIウィリアムは付け加えた。

「もう、人類はいませんか?」と犬のガブリ・エルは聞いた。

「ホモサピエンスはいませんが、別種の人類が生息しています」

「新人類ですか?」

「新人類と言えば、その通りですが」

「名前は何かニャ?」と片手を上げて猫のナメが質問した。

「テラに残ったホモサピエンスは、新人類オタッキーに進化しました」 

「オタッキー?」犬のガブリ・エルは聞き返した。

「実は、退化したとも、言われています」

「検索しました。趣味優先で仕事を全くしない引きこもりの人類とか」


「今、入国手続きを済ませました」「では、参りましょう」

 Vサインをしながら猫のナメが尋ねた「何処へ行くのかニャ」

「イズモ(出雲)へ行きます」とAIウィリアムは答えた。


5.古代の神々

  一行は鳥居の前に立っていた。鳥居は瞬間移動装置の出入り口だった。

「入ろう」猫タロウは皆を促した。

 一行は鳥居をくぐって白い石畳の参道を進む。

「参道の中央は、神様の通り道なので、私たちは端を歩きましょう」AIウィリアムは皆に教えた。

 一同、拝殿前では二拝二拍手一拝の作法どおり参拝した。その後、皆でおみくじを引いた。AIウィリアムは凶だったが、他の者たちは大吉だった。


 すると巫女さんが「お宝探索ツアーの方たちですね」と声を掛けてきた。「どうぞこちらをご覧ください」と案内してくれた。

「何、何か見せてくれるのかニャ」

「この神社の御神体、神様の立体画像を拝見できます」

「巫女さんは、アンドロイドですね」と犬のガブリ・エルが小声で言った。

「おお、これが御神体ですか」とAIウィリアム。

 少し古びた御神体が現れた。それは立体映像なのだが、実物かと思うほど鮮明に映し出されていた。

 そのご神体は、奇抜なデザインのドレスを着た若い女性の立像だった。手には何か武器の様な物を持ち、ポーズを付けている。

「検索しました。この方が弁天様ですか?」

「少し違いますね」と犬のガブリ・エルは言った。

「これは、巨乳すぎるな」と猫タロウ。

「弁天様は、ご開脚のはず」とAIウィリアム。


 他にも沢山の神様の立像が次々と表示されていく。

「ここには沢山の神様がおられます。その数およそ800万と言われています。とても全部を拝見することは出来ませんので、代表的な神様をご覧いただきます」と巫女さんが説明してくれた。

「一生かかっても全部はお参りできないね」と猫タロウ。

「人間に出来ることは限られているのです」「おっと、犬猫だった」

「いくらニャンでも神様が多すぎるニャ」

「神様によって、それぞれご利益が違いますので選んで参拝しましょう」と犬ペロは言った。

「どうやって検索するのかニャ。一神教なら面倒くさくないニャ」

「でも、ここより西方の地では一神教の異なる宗教が長い間、幾度となく戦った歴史があります」とAIウィリアムは遠い目をして言った。

「崇拝する神様が違うと、相容れないのですね」

「大まかに言うと、歴史上代表的に伝えられている三つの宗教が対立しました。でも、それら宗教が崇拝する神様は元々同じ神様でした」

「何というか、悲しいことですね」と犬ペロは言いながら合掌した。


「あれは何かニャ」

「神様へのお供え物です」

「美味しそうな物は、ありますか」と犬ペロ。

 この3人のアバターが祭壇前へ行って、お供物について話している間、猫タロウと犬のガブリ・エルは神様の立体映像を見ていた。

「横に、何か文字の様なものが書いてあるね」

『”フィギュア”とか”ねんどろいど”などと書いてあります。彫像の種類のことだと言われています』とAIウィリアムの音声が説明した。 彼のアバターは祭壇前にいるのだが、AIなので、同時に数か所に存在しているかのように振舞えるのだ。

『映像自動翻訳機能オン。これで見えますよね』『近くに書いてある文字が神様のお名前です』

「この神様、お美しい魅力的」と犬のガブリ・エル。

『狼の女神様の化身、人化したときの裸像です』AIウィリアムが解説する。

「今の亜人化犬と同じだね」「私は、こちらの神様がいいかな」と猫タロウは言った。

「亜人化猫と同じ姿ですね」と犬のガブリ・エル。

『この子、可愛い』とAIウィリアムが騒いだ。

「ロリコンか」猫タロウが突っ込みを入れた。


 その後一行は、魔法陣を使って転移を繰り返し、各地を回った。

 トキオネリマという所の、月見台神社へ行った。この神社では、見た目が狸の様な猫神様を参拝した。時間を操る神様で、腹巻から様々な神具を出すのだと案内係のアンドロイドが説明してくれた。

 主神の両脇には、静御前(しずかごぜん)と巨人が祭られていた。

「おや、この組み合わせは…。何か違和感がありますね」

「巨人の足元に書いてある文字は?」

「アタック・オン・タイ…(attack on ti…)、後は文字が消えていて解析出来ません」「アッ、別のところにジャイアンッと書いてあります」


 次に転移したトキワの森には、生い茂った草木によって造られた迷路を散策した。その中に黄色い動物のオブジェクトを見つけた。だが一行には何のことだか、よく分からなかった。


 どこかのお寺にも行ってみた。梵天、帝釈天、四天王、12神将の像などが表示された。四天王として毘沙門天や悟空などが紹介された。

 案内係のアンドロイドは説明した「12神将で、一番古い神将がバサラ大将で、次に古いのがケンジロウとナルドです。その次に古いのは…」

「怖いお顔の方々から、可愛い方々まで、色々ですね」と犬ペロが感想を語った。


6.人と犬

「人間を見かけませんね。アンドロイドしかいない」と犬のガブリ・エル。

「ここの人間は、バーチャルリアリティ(仮想現実)の世界に夢中なのです。現実世界には興味がありません」「それで出歩かないそうです。というか、太り過ぎて自分では歩けないのです」とAIウィリアムが説明した。

「何それ、最低だな」と猫タロウ。

「最低だニャ」

「社会や文明が進歩して、働かなくても良いと言っても、それでは…」と犬ペロ。

「ロボットに任せすぎです」と犬のガブリ・エル。

「僕らも、働いていないけどね」と猫タロウ。


「今は私たちも働いていませんが、犬族は昔から人間の手伝いをしてきました。狩のときは獲物を追い出したのです。長い歴史を人類と共に歩んできました。犬が人間の役に立ったことは、私たち犬族の誇りです」と感慨深げに犬ペロが語った。

「そうです。人間がまだ野生の肉食獣を恐れていた頃、犬は人間や家畜を守って闘ったのです」(キリッ)と犬のガブリ・エルも話に加わった。

「人間が王者となってからも、私たちの祖先は牧羊犬や番犬として活躍しました」

「猫も昔から、人間と一緒に暮らして来たからニャ」

「何の役にも、立ちませんでしたが」と犬のガブリ・エルは笑顔で突っ込んだ。

「にゃにぃ~、シャー、猫は人を癒していたニャ」

 猫のナメが、爪を出して威嚇した。ただしそれはアバターではなく、皆の情報画面に表示された本人の画像だ。

「エッ、爪出せるの。流石だね、神人様のやることは」と猫タロウは感心した。

「ウィリアムさん。俺も爪出せるようにしてくれる」

「もう遅いです。無理です」

「爪とぎが出来ない」「高いところに登れない」

「私も穴掘りが出来なくなりましたね」

「今さら、そんなことする必要はないでしょう」とAIウィリアムはキッパリと断った。


「猫は単純にペットです。でも、人と犬は特別な関係がありました」とAIウィリアムは言った。

「ニャニ特別な関係って。猫の方が人と親密だったニャ」

「まあ、猫は干支にも入っていな時点でお察しを」と犬のガブリ・エルが嫌味を言った。

「それニャ。何で猫が干支に入っていないのかニャ」

「人間に対する不満はそれ。猫が干支に入れてもらえなかったことだな」と猫タロウ。

「今更ですね」と犬ペロは余裕で笑った。

「猫って、人の言うこと聞かないでしょう。神様の言うことも無視したのでは」と犬のガブリ・エルが止めを刺した。

「そういえば昔話で、ある人が神託に従い、洪水の時にいろいろな動物を船に乗せて助けましたが、猫はまったりしていて乗船が遅れたという話を聞いたことがありますよ。猫は神様や人の指示に従わないから、上位12位以内に入れなかったのでしょ」

「それは何とやらの箱舟の話ニャ、干支とは別の話なのニャ」


AIウィリアムは、それた話題を元に戻した。

「かつて、人と犬は共生関係にありました。時代が進むと犬もペット化してしまいましたが」

「犬と人の、悠久の歴史を顧みると感慨深いです」と犬ペロ。

「ニャに勝手に感動しているのかニャ」

「何を言っているのか、分からなくなってきたよ」と猫タロウが割って入った。「オリジナルのウィリアムさんは多分、犬派だね」

「そうです。犬を何匹も飼っていました」

「猫派の杏さんに、犬を飼うように勧めたのは私です」

「30年程前から、杏さんは犬猫両方とも飼い始めました」

「エッ、そうなの。衝撃の事実が明かされたよ」


「ところで何で、こんな所を回っているの」

「お宝探索文書に、迷路を進めと書いてありましたので」

「アッ、この旅自体が、迷路を巡っているということか」

「一度、戻りましょう」

一行はE星系にある遺跡の中の広場に戻った。そしてログアウトした。


数日後、一行は再び遺跡に入り、今度は2番目の小部屋へ向かった。

そして「今度は、どこに着いたの」と猫タロウは尋ねた。

AIウィリアムは答えた「大マゼラン雲の、M2031星系の…」

迷路の探索は続く。


                    了


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