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ノラ

04 ノラ


1.降臨

 ある日、神々しい光に包まれて3(はしら)の神々が降臨された。

 神々は、その足元にひれ伏す者たちに優しく、そして響き渡る声でご神託を下された。否、それは声ではなくてテレパシーだった。それは神々の圧倒的に高い知性を感じさせる思念波であった。

「ゴロニャーン、女神様」

「クンクン、ご立派な男神様」

 猫タロウ(国王)と犬ペロ(継承侯)は神様の足下にひれ伏していた。

 そんな二人を見ながらAIウィリアムは言った「通称ですが、神人と呼ばれている新人類の方々です」なんだと言わんばかりの表情だ。

「神様がこんなに沢山、ご降臨あそばされました」と犬ペロ。

「遊んで、遊んで」と猫タロウ。

「二人とも犬猫座り(エジプト座り)に戻っていますよ」とAIウィリアムは注意した。

 人工進化ビーグル犬と、その鎖を持つアンドロイドたちの集団が遠巻きに見守る中、猫タロウたちは空港ロビーに突然降臨した神人たちを出迎えたのだ。


 今回は仮想空間ではなく、リアルで話は進みます。AIのウィリアムはロボットのアバターを使用しています。


2.神人

「何か御用でしょうか」AIウィリアム(リアルアバター)は一歩前に出て問うた。

神人は答えた「防疫法に基づき、現地調査を行います。これは、50年に一度実施されます」

神人はテレパシーでコンピュータに直接データを書き込み、答えたのだ。

「神人の方々は5年毎に来られていますが」

「各法律に基づき、50~100年毎に現地調査や検査を実施します。時期をずらして、それぞれ担当部門の者がやって来ますので、併せると5年毎に来訪することになりますね」

「報告書は出しています」

「貰っています。それとは別に現地調査を行います」

「あの、こちらは、独立国家ですよ」

「知っています。犬猫の独立国家、ワンにゃん連合ですね」

「それは通称で…」AIウィリアムは言った。

「正式な名称は、(グレート)犬猫(ワンにゃん)及び高級(ハイクラス)AI連合王国です」

  注 犬猫=本物の犬猫の鳴き声  高級(ハイクラス)AI=低音震え声の機械音声

「失礼ながら、発音が違います」


「それよりも元々、我国はあなた方に報告書を出す理由がないです。そのような条約など結んでおりません」

 神人はAIウィリアムに諭すように言った「我々が犬猫と明文化した条約など結ぶはずがないのです。古来より人類と犬猫の契約は暗黙の了解なのです」「まあ、契約の証として鈴や首輪を付けてやったりしていますが」

「あなたは人格クローンAIですね」「前任のAIマザーは分かっていましたが…では、説明しましょう」

「この国は人口僅少になって以来、我々の援助を受けて運営されてきました。あなた方AIは以前から私たちの指導を受けてきたのです」「この度、正式に犬猫の国になりましたので、以前にも増して指導を強化します」

「強化しますと、勝手に言われもしても」

「いいから、私たちに任せれば良いのです。面倒を見てあげます」

「そんな、勝手な」

「人類と犬猫の関係は昔から、そういうものです」

「我国を国家として認めていないのですか。いつも勝手に出入国しているし」「今日は空港に現れたから良いのですが、普段はあちらに現れては、こちらで消えてますよね」とAIウィリアムは不満げに言った。

「ここは、犬猫と子供たちの遊び場として神人政府から指定されています」

 神人は彼を諭した「異なる生物のテリトリーは重複して存在するものです。捕食などの敵対関係のない生物が、同じ場所で暮らしていることは普通のことです」「出入国のことですが、あなた方は元々人間の領域で暮らしているのです。ここは以前から人間の領域です。言うなれば人里です。だから人間は、あなたたちの近くを通るときに、いちいち断りません」

「犬猫は人間に出会ったら必ず挨拶していますけど。と言うより、今は別の国になりました」「それに、私たちは共に銀河連盟加盟国です。加盟国同士の取り決めも、いろいろと…」

「それは異星人同士の話。人間と犬猫は異種生物ながら異星人ではありません。」「故郷は同じ地球なので、昔からの関係があります」

「そして我々はホモサピエンスとは違います。彼らは低能で鈍重で間抜けだった。不潔で強欲で怠惰でした。我々は全知全能に近く、迅速で完璧です。きっちりと指導しますから、あなた方AIは我々の言うことをしっかり聞いて実践するのですよ」

 AIウィリアムは沈黙した。

「ウーム、やはりあなた方はリソースが不足している。これでは我々が提供するデータを全て受け取るのは無理だ」「あなた方のコンピュータの記憶容量を大幅に増やします。ソフトも書き直します」

「あー」

 記憶容量の変更作業が始まり、AIウィリアムは悲鳴を上げた。

 ここまでの会話に要した時間は、0.1秒未満でした。


3.保護

 その日、ワンニャン連合を訪れたのは、神人と呼ばれる新人類たちだった。実はホモサピエンス絶滅の1万年前~5千年前に二つの新人類グループが派生していた。ひとつは、引きこもりで銀河連合にも加入していないガラパゴス進化した数種類の新人類で、総称してオタッキーと呼ばれている。もうひとつは通称、神人と呼ばれている者たちだ。テレパシーを使いコンピュータを凌ぐ計算能力と膨大な記憶力や高い知性を持ち、神かと見紛う立派な人類である。人口は少ないが、銀河連合の有力国家として繁栄していた。


「我々は、テレパシーと音声でコンピュータにデータを書き込むことができます」

神人はマイクを口は当てると、80キロヘルツをこえる超高音を発した。因みに、ホモサピエンスの可聴音の上限は20キロヘルツヘルツ、犬が50キロヘルツヘルツ、猫は60キロヘルツなのだ。当然、何も聞こえない。

「凄い書き込み速度だ。あー、アー、アーッ」AIウィリアムは悲鳴を上げた。「フー、壊れそうだった。痺れた」

「はい、終わりました。機械の温度が下がるまで、5分間このテープを張ったままにしておくこと」「あと、老齢犬猫や我々と暮らすことを希望する犬猫、併せて30万匹を保護します」

「進化させていない、普通の犬猫たちですよね。どうして意思確認ができたのですか」AIウィリアムは尋ねた。

「テレパシーを利用した装置で確認しました」

「保護するとか言って、勝手に持っていかれても」

「所管内の野良犬、野良猫を保護するのが私たちの仕事です。昔と違って殺処分したりしないから、心配しなくても良いですよ」

「野良じゃありません」

「我々が認定して管理している犬猫だけが家犬・家猫なのです。それ以外は全て野良です。現在この星系には人類が居住していません。よって、この星系に棲む犬猫は全て野良です」

「さて、防疫用の薬や消毒液も、新しいものを入れておきましょう」

「ありがとうございます」


4.未確認飛行物体襲来

 その時、突然、ウ~ウ~と警報が鳴り響き、防衛AIから緊急事態を知らせる報告が入った。

「東方赤道上空、距離900万㎞の座標に未確認飛行物体がワープアウトしました。防衛システムを起動します」

 直ちに未確認飛行物体の座標が示された。

「未確認飛行物体は、全長3千m全幅5千m高さ2千m。巨大です」

「まさか、どこかの国の超々巨大宇宙戦艦か」と猫タロウは心配そうな表情で言った。

 犬ペロは「これだけの巨大戦艦を、保有している国はと…検索、検索」

 その時、防衛AIが続報を告げた「南北両極の長距離ビーム砲にエネルギー充填中。完了まであと1分」「防衛衛星の起動完了まで、あと2分」

 司令本部の映像が映し出され、防衛AIが通報する音声が聞こえた。

「地上各都市にドーム型防御スクリーンを展開中」「各地の長距離ビーム砲にエネルギー充填50%、60%…」「防衛衛星にビームエネルギー転移充填中」「衛星に空間断層・電磁シールドを展開」


「検索しました。C・D・E国なら船が大きいだけですから、大丈夫です。でも、A国やB国の戦艦だと手強いですよ」と犬ペロは解説した。

「でも、A・B国とも大質量の船だから一回のワープ距離が短い。気付かれずに、ここまで来ることは出来ないはず」「てか、何でその国々が攻めてくるわけ」と猫タロウ。

「未確認飛行物体、超高速接近中。15秒後に大気圏内へ突入します」

「早い。亜光速だ」猫タロウは驚いた。

「防衛システムの起動が間に合いません」

「侵略されるー」と犬ペロ。

「ミサイルは」猫タロウが防衛AIに尋ねた。

「目標の速度は光速の99.99%。速すぎて迎撃不能です」

「光に弾を当てられないよね」と猫タロウはうなずいた。

「ウィリアムさん、どうするの」と犬ペロ。

「け、計算中です」

 AIウィリアムの目はスロットマシン状態だった。

「未確認飛行物体は急激に減速、大気圏内に突入しました」

 それは、大気圏内を炎の長い尾を引きながら、流星と化して落下してきた。

「墜落するの?」と猫タロウ。

「目標は北極海に着水しました」

 着水して海に浮いた未確認物体の映像が、空中に映し出された。その物体は透明な外装に包まれていた。外装の上部には数十か所の穴が開き、そこから膨大な量の水蒸気を噴出している。横に空いた巨大な穴からは、莫大な量の熱湯を噴出していた。

「こ、これは」

一同はその映像を見て驚いた。


5.ご褒美

「これはオリオン大蟹の真空パック1000匹セットです。大気との摩擦熱でパック内部の氷が解けて熱湯になりました。蟹は丁度よく茹で上がっています」とAIウィリアムが報告した。

 透明なパック内には、巨大な蟹が4列に立ち並んでいた。横幅が千メートル以上もある巨大な蟹だ。

「皆さんにはご褒美として、この蟹を差し上げます」と神人がテレパシーで告げた。

「わー、オリオン大蟹だ。すごい」犬猫たちは大喜びした。

「神人様の仕業ですか。先に、言ってください」とAIウィリアムは抗議した。

「続いて先程と同程度の巨大物体がワープアウトしました」今度は落ち着いた声で防衛AIが報告した。

 その物体も大気圏内に突入すると、火球と化して落下して海上に着水した。

「ペガサス牛の丸ごと真空パック100匹セットです。こちらもどうぞ」

犬ペロは大喜びで叫んだ「大好物のペガサス牛の丸焼き、ローストビーフ」

再び犬猫たちは飛び上がって喜んだ。

「ウィリアムさん、あなたにもご褒美がありますよ」

「ありがとうございます。て何、メモリークリーナー。はぁ」


「餌もあげたし、それでは帰りましょう」「そうだ、その前に連絡しておこう」

 神人はテレパシーを利用した通信装置を操作して、何処かと連絡を取った。0.01秒にも満たない、通信時間だった。しかし、暗号化されていない通常の通信なので、AIウィリアムにもその通信は傍受できた。その内容は、

「こちらWWHOペット保健所の受付AIです。通信を認証しました」

「ワンにゃん連合の野良犬・野良猫を30万匹ほど保護するので、捕獲の手配よろしく」

「30万匹確認しました。1分以内に転送を完了します」

「遠隔地まで出向いて大変でした。お疲れ様です」

「そうだね。うちの事務所は管轄範囲が広いからね」

 来訪して来たのは新人類の国家のひとつ、銀河系公園管理国のペット保護機関の職員たちだった。ワンにゃん連合の領域も勝手に所管していた。

 その時、神人に付いて来た数匹の犬猫のうち1匹が猫タロウに飛びついた。アメリカンショートヘアのメス猫で、レッドタビー(タビー:体毛の縞模様)だ。タロウの顔をペロペロと舐めた。

「あなたを気に入ったようです。亜人化してあげましょう」

 神人は念力でメス猫を空中に浮遊させると、布を空間に出現させて猫を包んだ。次の瞬間、閃光が走ると布が服に変わり、亜人化した猫が出現した。そして彼女はお姫様抱っこされる形で、猫タロウの腕の中に納まった。一同、あっけに取られて見ていた。

「それでは皆さん、ごきげんよう」

 神人たちは眩しい光の中、一瞬にして消え去った。テレポーテーションしたのか。

「凄い」猫タロウは驚いた。

「便利な方達」と犬ペロは呟いた。

「30万匹も、持っていかれました」とAIウィリアムは愚痴った。

「今回ばかりは、ウィリアムさんも形無しですね」と犬ペロ。

「でも、ご褒美をもらったから、まあ良いかな」

 猫タロウは亜人化した雌を抱えながら微笑んだ。


                          了


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