ゴブリンVSレッドオーガ
ゴリザベートが走り出す。止めようにも、この形態だと追いつける距離ではない当然の様にレッドオーガはその一撃を毛皮の様なものに寝そべったまま鼻くそをほじりながら指一本で止める。
圧倒的格の差。そのまま、他の指を曲げてデコピンの要領でピンっと弾くと、とてつもない速さでこちらへ射出される。
試験官は焦った表情で前に出て割と難易度の高い物理障壁の魔法を繰り出す。
その物理障壁に当たったゴリザベートは血を吐く。ミンチにならなかったのが奇跡の様なものだ。風圧で所々服は破れ、赤く締められた褌ときめ細やかな白い筋肉が露わになる。
それを隠す余裕もない様で、ぐったりしているゴリザベートに得意ではない回復魔法をかける。なんとかたてる程度までは回復した様で、急いで退却を行う。
頬を真っ赤に染めたゴリザベートが不憫だったので、万が一のために持ってきていた着替えを着せる。かなりこの姿でも大きいのだが、サイズはピッタリあった様だ。
「ゴリザベート、なんであんな無茶な事をしたんだ?」
「随分と昔の話にはなるのですが。」
数年前ゴリザベートの兄は、ダンジョン試験を行った。ダンジョン試験は最下層まで行ければ合格というものだった。しかし、兄のチームはそこで消息をたった。他のチームが無事帰ってくる中、他のチーム全てが。
そんなチームの痕跡は見ていない。と口を揃えたそうだ。そして、その謎を解くべく、張り切っていたそうだ。しかし、結果はこの有様だよ。
と、ゴリザベートは悲しそうに笑った。
しばらくして俺たちがきた方向から足跡が聞こえる。試験官がボロボロになりながら歩いてくる。
流石、発狂していたとは言え試験官。上級冒険者にも劣らない腕前だとルガフォンでは書いてあった。
それを助けようとすると、様子がおかしいのに気づく。ライトの魔法を使っていない。
「タスヶて」
姫がかろうじて保っていたライトの魔法が試験官を照らす。
その頭上には血まみれになった試験官をニタニタしながら紐で操り歩いている様に見せかけた傷一つないレッドオーガがそこにはいた。
それを見たリリィは泡を吹きながら失禁して倒れた。ゴリザベートは怒りの炎をフツフツとその目に宿しているが、足は震えている。姫様は絶望でぺたりと座り込み泣き叫ぶ。
ゴリザベートが一撃で倒していたから実感はなかったが、人造とは言え予想不可能なことが起こるのがダンジョン。気を抜きすぎていた様だ。
この地獄の様な状況に、俺は覚悟を決める。
俺は、学生生活を捨てても俺は。姫を守らなければならない。
幸いこのフロアは天井も高い。姫は、それを見た姫は俺を拒絶するだろう。
あのキラキラとした笑顔をもう二度とは向けてはくれないだろう。
だが。
俺がやらねば誰がやる。
「姫を守れるのは俺だけだ!!」
思春期特有の甲高い声から言葉を発する最後には地獄の底から響く様な低い声へと声が変わる。
驚いた顔のレッドオーガの指先の糸を全て魔法で焼き切り、首に摑みかかる。
レッドオーガは雄叫びを上げながら俺の腹部を二度、三度と乱打する。鈍い痛みが蓄積する。それに耐えながら俺は握力をより一層強める。
爪が食い込み、血が吹き出る。レッドオーガは尚も全身を使って脛を蹴り、腎臓に向けてのフック、金的と的確に急所を攻撃をしてくる。
俺はそのままダンジョンの外壁に当たりながらも両手を使い持ち上げ、頭から叩き落とした。
とてつもない地響きと共にレッドオーガが血に染まる。レッドオーガはフラフラしながらも、姫の方向へと一歩、また一歩と歩を進める。姫は足元に水溜りを作ったまま動けない。
前に立ちはだかろうとする俺の足をかけ、首筋に噛み付く。鋭い痛みが走るが、無理やり引き剥がす。
皮膚が避ける感覚と共に青い血が飛び散り、姫の服を汚す。姫は小さく悲鳴をあげる。ゴリザベートがなんとか守ろうと救助したのであろう試験官とリリィ姫の前に立っているのが見える。
レッドオーガは情けなく座り込んでいた。
俺は力を振り絞り、レッドオーガの頭を掴み、地面へと何度も叩きつけた。死んだはずだが、煙にはならない。そしてレベルも上がった。これから判明することは。
何者かが目的を持ってレッドオーガをダンジョン内に放ったという事だ。だが、そんな事はどうだっていい。インスタントダンジョンを作成しレッドオーガを放り込み消滅させ、俺は人型に戻る。
相手を倒した俺は反射的に皆の元に戻ろうとするが、皆の俺を見る目は。
襲われた少女がゴブリンを見る様な目をしていた。
仕事先に遅刻確定しながら書く小説は心苦しいものですね。
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