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化け物の中の化け物

「「な、なんじゃこら!」」


 俺と影丸はほとんど同時に驚きの声を上げた。


 化け物の二本の宝石のように透き通った赤い角はぼんやり光り輝いている。


 ちょっと見た目はオーガに似ていないこともないが、根本的にここまで大きいと別の生き物だ。


「ななな、なんでこんなのがいきなり現れる!」


「知らんし!」


 俺達の理解はとうにおよばない。


 しかしこの事態に一番動揺していたのは俺でも、影丸でもなかった。


「が……ぐ……ごぁ」


 いままで、それこそ致命傷を食らってさえどこか余裕があった羅豪の様子が明らかにおかしい。


 目を見開いた羅豪は、ガタガタ震える体を無理やり抑え込んで当惑していた。


「……怯えている? なぜだ? いや、この身体が?」


 疑問符が乱れ飛ぶ。


 しかし羅豪は自分の頭を掴み、痛みを堪えるように唸ると何かに気が付いたようだった。


 羅豪は今までにない怒りを滲ませ、なぜか俺達を睨みつけた。


「そ、そうか……そうだ! 貴様らが招き入れたか!」


 余裕のない形相で俺達に叫ぶが、ひどい言いがかりである。


 しかし影丸にしてみれば、相手が取り乱すなら何でもいいのか馬鹿にするように鼻で笑った。


「だからどうした? こいつもお前らも似たようなものだろうが? 怖いのか?」


 わけもわからず挑発する影丸は色々鬱憤も溜まっていたようである。


 このサイズ差は似たようなもので済ませていい差なのだろうか?


 疑問はあったが、羅豪は馬鹿なと首を振り、化け物を見上げると血を吐くように吐き捨てた。


「似たようなもの?……違う。あいつは……もっと危険な化け物だ! こいつ一匹にオーガの住処は滅ぼされたのだからな!」


「「!」」


 叫んだ羅豪は完全に本体のオーガに引っ張られている。


「ぬぐおおおおお!!!!」


 羅豪は金棒を振りかぶり、体から吹き出していた黒い炎で身を焼きながら、化け物に向かって跳びだしていた。


 恐怖に突き動かされるように、羅豪は止まらない。


 一方で化け物は飛んでくる羅豪を憎々し気に睨みつける。


 化け物が胸をそらし、ゆっくりと大気を吸い込んだのを見て、警告したのはブレスレットから聞こえたテラさんの声だった。


『高エネルギー感知! 脱出を!』


「転送!」


 俺の危機感知センサーは言われるまでもなく反応していた。


 すぐさまパワードスーツを呼び出し影丸に飛びつく。


「なんだ!」


「―――オオオ!!」


 とたん、咆哮が轟き、二本の角が強く輝くと、視界が光で真っ白になった。


 光の嵐の中、羅豪の絶叫が聞こえる。


「カカカ……こんなにも簡単に……虫ケラのように……終わるのか!」


 黒い怨念の炎も叫びも、圧倒的な閃光に呑まれ、俺達の耳にすらまともに届きはしなかった。




「いたたた……」


『間一髪でした』


 とっさに体が動いてくれて助かった。


 未だに全身に鳥肌が立ち、心臓が馬鹿でかい音を立てている。


 振り返ると、命が助かったことは間違いなかった。


「うっ……わー……こいつはパワードスーツでも死んでたわ」


「……なんだ……これは」


 茫然として呟く影丸の声が妙に耳に残る。


 俺達が今までいた五重塔は、羅豪もろとも跡形もなく消え去っていた。


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