一方その頃
「うおおお! お前やるな!」
「があああ!!」
赤、青、緑色のカラフルかつ、きわめてごっついオーガ達はたった一人の少年の雄たけびに怯んでいた。
ツクシはトシの姿を見て、目を輝かせた。
少し年下だと思っていた少年だが、なかなか強そうだ。
体が鍛えられているのは知っていたが、実際に動きを見てみると新撰組の兵士達よりも、パワーはありそうだ。
そしてオーガ達のような獣とも違うまるでプロレスでも見ているかのような、洗練された動きだった。
そのくせ血走った目は赤く輝いていて、ピリピリ離れていても肌に感じる殺気はその辺のモンスターよりもよほど強烈だった。
「ううん戦ってみたい! でも我慢だ! この調子ならだいきち達より早く終わるかもな!」
オーガ達の強さは今まで戦ったことがあるオーガと大差はない。
ひょっとするとまとめて全滅できるかもしれない。
そうすればだいきちなんてべた褒めだろう。
今回の報酬にお米もたくさんもらって、山盛り一杯の丼物をたくさん作ってくれるに違いなかった。
思わずたらりと垂れるよだれをぬぐい、ツクシはトシに負けないように気合の声を上げた。
「よぉし! こっからアゲていくぞ!」
今日の身体からあふれる光は絶好調でピッカピカだ。
聖剣を力任せに振り回し、オーガをはたいて片っ端からぶっ飛ばしてゆく。
雑にオーガがぽんぽこ飛んで積み重なり、トシまでの道を作るとツクシはトシに呼びかけた。
「トシ! だいきちの料理はおいしいからな! これが終わったら期待していいぞ!」
しかしトシからの返事はなかった。
ツクシはそこで少年の様子がおかしなことに気が付いた。
「どった?」
怪我はしているようには見えない。
むしろ周りには死屍累々のオーガが積みあがっている。
中々ひどい光景だが、トシは荒く息を乱し、その場に立ちつくしていた。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ……敵。敵、倒す」
トシの体からは汗が蒸気のように立ち昇っていて、太鼓を叩くような心臓の音が離れていても聞こえてくる。
「血……血が……」
トシが口に出した言葉をツクシは聞いてポンと手を打った。
「お? ひょっとして、血を見ると気が遠くなっちゃう人なのか? 貧血なら座って休めな?」
ニコリ笑ってツクシは的外れな事を言ったが、もちろんそうじゃなかった。
トシは自分の真っ黒な髪を握り締め、ツクシを見る。
「……逃げろ……あぶない」
「お?」
トシの角が赤く発光し、メリメリと音を立てて伸びてゆく。
少しずつ大きくなるトシを見てツクシは首を傾げた。
「……ん。異世界式の成長期?」
当然のことながらそう言うことでもない。




