鬼退治
「……なぜだ? お前達には関係ないだろう?」
初対面の人間が小柄な少女からこんな宣言をされたら、まぁ、こんな反応が返ってくることはわかる。
「そんなことはない! 用事もないのに訪ねてこないぞ!」
だが確かにツクシの言う通り、このまま追い返されるのが俺達としては一番まずいのも確かだった。
「ええっと。俺達もタダで帰るのは不本意ですから、彼女は見た目は完全に子供ですが、王都でも一、二を争う使い手でして。勇者です。良ければ話を聞かせてもらえればご助力出来ることもあるかも知れません」
「は? 勇者? そんなバカな?」
「……いや本当ですよ?」
俺はあえて自分達を売り込んだ。
第一に引けない理由ももちろんある。
何せ忍者だ。和の匂いがプンプンする。
ここで逃せばあるかもしれない調味料にいつお目にかかれるか分かったものではない。
「しかし、その話が本当だとしてもだ、悪いことは言わん。やめておけ。相手は普通ではない」
「オーガが普通じゃないのか? たまにその辺で見かけるぞ?」
ツクシが言うほど頻繁にいるわけではないが、戦ったことがないわけではない。
先ほど止めを刺した忍者を見ていればそんなに脅威を感じる相手ではないと思ったが、忍者は静かに首を振る。
「……あのオーガは憑りつかれている」
「「憑りつかれてる?」」
忍者の言葉の意味が解らず俺とツクシは揃って首をかしげた。
「ああそうだ。遥か昔に死んだはずの化け物にな。大戦鬼・羅豪という名の怨霊だ」
ぞくっと一瞬寒気がした。
怨霊とはそんなんまで出るのか異世界。
「……大戦鬼・羅豪」
俺はごくりと生唾を飲み込んだが、一方ツクシが真剣な顔で俺を振り返って尋ねた。
「……なぁだいきち。怨霊ってなんだ?」
「……えーっと。あれだゴースト的なモンスターってことじゃないか? あれの和名」
「……オーガにゴーストがくっつくと強いのか?」
「……ど、どうかな?」
いやそう言えばゴーストは割とそこら中にいるモンスターだ。
ゴーストは物理攻撃が効きにくく、生気を吸って攻撃してくる厄介な相手だが、聖水というアイテムを掛けた武器か魔法ならダメージを与えられるし、ツクシは聖剣でバッサリだ。
オーガも確かに人間よりも強力な肉体と生命力を持ったモンスターだが、ツクシなら聖剣でバッサリだろう。
二つ合わさればどうか?
「微妙じゃないか?」
「いや……俺にしてみればどっちも強敵だけどな?」
非常にあいまいな表情になった俺達に、忍者も怪訝な表情を浮かべた。
「よほど腕に自信があるのだな。だが、ゴーストやオーガと一緒にはしない方がいい。拙者達の言う鬼は術を使うからな」
「術?」
「そうだ。そして拙者達、忍びの者も同じ素養から派生した力を使う。それが―――」
そこまで言った忍者はボボンと煙を出して、一瞬にして俺達の背後に回っていた。
「忍術だ」
「「やっぱりニンジャだ!」」
俺達は大喜びした。だって絵にかいたような忍者なんだもの。
「……お前達。わかってはいたが、やはりもう少し真剣に話を聞こうとはならんのか?」
「いや話は聞いてる」
「とっても真剣だぞ! ニンジャもちょいちょいサービスするのが悪い!」
「そんなつもりはないからな!」
ちょっとツクシの言う通りだと思う。
この忍者はサービス精神旺盛すぎる。
若干疲れ顔の忍者は改まって神妙な面持ちで言った。
「……拙者が今から行く里はな、完全にオーガに占拠されているんだ。そして拙者は単身乗り込んで、化け物を狙うつもりなのだ、それでもか?」
忍者はなんだかすごく無謀な試みをしようとしているようだ。
そんなことを聞かされれば、普通は無謀な特攻に巻き込まれたくはない物かもしれない
しかしその手の脅しは逆効果だ。
俺はちらりとツクシを確認すると、案の定ツクシは更に燃え上がっていた。
「よし! じゃあそいつのところに案内してくれ!」
「わかったのか!? 本当に!?」
「まぁそうなるよな……」
俺はやれやれと呟く。
苦虫を噛み潰したような顔の忍者はちらりと俺達の脇を見た。
「……じゃあお前らはいいとしても、そっちの子供も連れて行く気か?」
視線のトシがいた。
俺達はまぁ好きで来ているようなものだから、首を突っ込むのも自分達の責任だと言える。
しかしこの子は勝手に都合に巻き込むわけにもいかないか。
ツクシと俺の視線が少年に向く。
「……行く。あいつら倒す」
するとトシは時間もおかずに即答して、俺達三人は揃って驚かされた。
「どうしてそこまで……」
俺は思わず尋ねていた。
反応からしてすさまじい理由があるのだろうとそう覚悟していた。
「あいつら獲った食い物を取ろうとした。敵、倒す」
「……うーん。なるほど、食べ物の恨みは恐ろしいというね」
動機は結構単純だが、生き死にに直結するだけに最も根が深くはあるのか?
オーガは彼の食料を奪おうとして、敵対認定を受けてしまったわけだ。俺もせいぜい食べ物でトシを怒らせないように注意しておこう。
「おっほん。だがお前達に拙者は合わせはせんぞ?」
「大丈夫だ! 忍者の匂いは覚えたから三キロくらいまでなら追っかけられるぞ!」
「そうか……どうあってもついて来るんだな?」
「おうとも!」
「いく!」
「はぁ……わかった。じゃあお前達も連れていく。命の保証はしないからな?」
ツクシと同調してトシまで答えたのを見て、とうとう忍者の方が折れた。
「この森の中に緊急時の避難場所がある。拙者は避難場所に非戦闘員を逃がし、里に戻る途中だ」
森の中を忍者の背を追って追跡すること三十分ほど、森が開けるとそこには真っ白な海岸と海に浮かぶ大きな島が見えた。
「この辺りは岸壁に覆われていてな、森から抜けて入れる入り江はここだけだ」
忍者は島を指し示す。
「そしてあの島が拙者達の―――忍びの里だ」
「鬼が島だな!」
「桃太郎か……なにそれすごい」
「何を言ってるんだお前達は?」
そんなに呆れないでほしい。いややっぱり島に鬼と言えば、ね?




