森で忍者と出会った
「おほ~うっきゃあああ!」
「落ち着け! 落ち着くんだツクシ!」
何か興奮したツクシがおかしくなった。
俺もとりあえずツクシをガシっと押さえつつ、胸に広がる熱い物を感じていた。
「なあ! ダイキチ! あれニンジャだよな! な!」
「そうとしか見えないが……黒装束に忍者刀……まさかそんな」
「あ、サイン、サインをもらわないと……」
「待て待てツクシ。相手は隠密だぞ? サインは失礼じゃないか? 握手くらいなら!」
「でも! じいちゃんが見てたテレビじゃ……めっちゃかっこいいんだぞ!」
「……そうだなぁせっかくの機会だしなぁ」
「お前達が落ち着け。失礼というなら、お前らの態度だと思うが?」
どろんと煙を出し、木の上から消えた忍者は、俺達の背後に現れた。
「「やっぱりニンジャだ!?」」
「……忍者ではあるがな? それよりも、そいつはいったいなんだ? オーガなら捨て置けんが?」
クイッと忍者が指で示した先には、髪の毛を逆立てたトシがいた。
明らかに臨戦態勢である。俺は慌てて、忍者とトシの間に入り、片手にとっておきの骨付き肉の燻製を取り出した。
道中、隙を見てこっそり食おうと思っていたが仕方がない!
やたら興奮しているように見えるトシは次第に落ち着きを取り戻し、燻製の匂い香る肉の塊に自然と視線が釘付けになる。
「とりあえず落ち着け。ほらオーガはやっつけただろう? お肉を上げよう」
そしてもう片方の手には、謎の商人さんからもらった手形を持ち、同時に忍者をけん制する。
「この子はオーガじゃないですよ。すくなくとも俺の知っているオーガはそこのモンスターです」
「ああ、拙者の知るオーガもそうだ。だが普通の人間でもあるまい? その角はなんだ? オーガの子供かもしれぬし、亜種かもしれぬ」
「何をおっしゃいます。オーガと戦っているところは見ていたでしょう? 角はともかく、この子は今、敵じゃないって重要ですよね?」
燻製肉に夢中なのを敵じゃないとみなすのはギリギリではあるが少なくとも敵意は消えた。
敵じゃないんですよと、これほど濃密な殺気の中で主張するのは生きた心地がしなかった。
だが体を張った甲斐もあり、双方の殺気は沈静化の兆しをみせた。
「その手形は……なるほど客であったか」
忍者は俺をじっと見ていて、ムムムとうなる。
「とりあえず俺達には敵対の意志はないですよ? 生き延びたことですし、正規の手続きが必要ならそうしますが? 普段はどのように?」
森に入った相手を問答無用で攻撃していたら、手形の意味なんてないだろう。
ストレートに尋ねてみると、忍者は眉間にしわを寄せた。
「いつもは物見が里に入ろうとする者を選別している。だがお前達がそこの角のある子供を連れているのが問題だ。それに時期も悪い。お前達はいったい何者だ?」
「俺達は、王都の商人さんの紹介で来ました。魅力的な商品がこちらでしか手に入らないと聞きまして」
「王都の商人か。紹介があるのなら招き入れるのは問題ないが……しかし今は帰られよ」
「いったい何があったんです?」
俺が尋ねると、忍者はちらりと少年の方を見て言った。
「……昨晩、里にオーガの襲撃があった。今はまともに商いなどできん」
「……」
俺は思わず押し黙った。
そりゃあ角の生えた子供なんて連れていたら斬りつけられますよね。
こりゃあおとなしく帰った方がいいかと考え始めた俺だったが、ここで声を上げたのがツクシだった。
「ニンジャが困っているのか! なら僕が力になるぞ!」
その瞳は炎がメラメラ燃えていた。




