旅に出るぞ
というわけで。
パーティーで盛大にすべった俺は、しかしあきらめてはいなかった。
旅立ちの決意は固い、準備はとっくに済ませてある。
目指すは東。そこには森としばらく行けば海があったはずであった。
「よし! じゃあ後は頼んだ! 商品はかなりストックしてあるから、もしも客が来るようなことがあったら注意書きを見て様子を見てくれ」
【了解。てんちょ】
「おう。さっさと帰って来いよ。こいつドンくさいからな!」
パン!
魔王の叩き潰される音に見送られて、俺は店を出発した。
だが荷物を担いで城門まで行くと、思わぬトラブルが俺を待ち受けていた。
「だいきち! 僕がついていってやるぞ!」
「えー」
出国手続きの最中にツクシに見つかってしまった。
偶然居合わせたのか、朝家に来てばれたのかはわからないが、ツクシはすでに旅支度まで終えていた。
「東に行くんだろ? あっちはまだまだモンスターも多いから危ないんだぞ?」
「そりゃそうだが、俺だって伊達に鍛えてないぞ? 逃げ足になら自信がある」
ずいぶん気軽に言うが、大丈夫なのか?と疑問に感じた俺だったが、どうやらダメだったみたいだ。
俺についていこうとするツクシはその場にいた新撰組の兵士達に一斉に止められたからだ。
「ツクシ様! さすがにそれはまずいです!」
「なんでだ! だいきちが危ないだろ!?」
「ダイキチも覚悟の上です!」
「ダイキチ! 早くいけ! 俺達じゃ止めるのにも限度がある!」
「……お土産買ってくるよ」
彼らの格闘を横目に俺はそう言い残し、ダッシュでその場を後にする。
まぁ……何とかツクシも自制心はあるだろうし、だいじょうぶに違いない。
後はみんなの頑張りに期待するとしよう。
そんなことより今は大事な旅立ちだ。出国前のトラブルなど、旅のスパイスだと思わねば旅などやっていられない。
城壁を抜け、外の景色を目にした俺はパンと頬を張り、抜けた気合を入れなおした
「よし! いっちょやってみっか!」
「よぉしその調子だぞだいきち! 任せろ! 襲ってくるやつは返り討ちだぁ!」
「そうだな!……ってはぁ!?」
声に反応して振り向くと当り前という顔でツクシがいて、腕を組んでどや顔だった。
「急ぐぞ! だいきち!」
「ツクシ……なんでここにいる?」
「何でってついてくことにしたからに決まってるだろ?」
「まずいだろ!? 今さっきめちゃくちゃ止められていただろ!?」
「うーん」
いや本当になにしてるのこの娘。
そして兵士連中も秒殺とは情けない。
口をパクパクと動かす俺にツクシは眉間にしわを寄せ悩んでいたが、カッと目を見開いた。
「いや! この間魔王と戦ったし、訓練も頑張った! 僕らはここらで息抜きも必要だと思う! 新撰組はブラックじゃないのだ!」
「お、おう……」
あ、なんかツクシのくせにこざかしいことを言い出した。
「うん! やっぱりまずい事なんてない! 僕はうまい物を食べに行くのだし!」
「うまい事言われてもお前……」
そして本音の方は思いのほか薄っぺらかった。
「だいきちがお土産買ってくるって言ったんじゃないか。それに……ダイキチの顔がうまそうなもの食いに行くぞーって言ってたぞ?」
「……そんなことないよ?」
この娘、なんでそんなことわかるんだろう?
ズバリ食欲が原動力だけに、言い淀んでしまったが顔に出ていたのだとしたらすごく恥ずかしい。
「まぁそんな……気がしたんだ!」
「結局勘か!」
「うん! でも外れてないぞ?」
なんというか、その自信は絶大だった。
俺は結局反論をあきらめた。
「何の根拠でそんな自信満々な……まぁなくはないかもしれない」
「そうだろ? それに勇者は誰にも止められないんだ!」
「いや、そういうセリフはピンチの時に取っておきなさい? 今言うとダメな人だからな?」
俺はどうしようか頭を悩ませた。
どうにか説得して帰ってもらうか?
いや、行く気満々のツクシを止めることは不可能に近い気がして、そう思うとなんとなく肩の力が抜けた。
「……はぁ。まあいっか」
考えるのがめんどくさい。
そもそもなんで俺がツクシが抜けた穴の心配をしなきゃいけないのか。
まぁだいたいどうにかなるだろう。ツクシといればそういう考え方が大事なのを俺は思い出していた。
「ついていっていいのか!?」
目を輝かせるツクシだが俺としても断る理由はあんまりない。
「いいよ。その代わり労働力には期待してるぞ? たぶん米ならたくさんあると思うし」
調味料の類が手に入らなかったとしても、最悪米が安く手に入るなら実に喜ばしい。
最近ではツクシはもちろん新撰組の連中まで食いに来るので、備蓄は常にピンチなのだ。
そういう意味ではツクシの人並外れたパワーは実に都合がいい。
「……どうせ怒られるのは俺じゃなくってツクシだしな」
「うぐ! だ、大丈夫だ。お土産をちゃんと買って帰れば!」
「え? そういう問題? 土産で許してくれるといいなあの副長が」
それはもうこっぴどく叱られると思うのだが、まぁそれだけといえばそれだけか。
しかしツクシはなんだか妙に自信を見せて、親指を立てていた。
「副長はおにぎりファンだから大丈夫だ、だいきち!」
「意外、それ意外だわ」
「よぉし! 急ぐぞだいきち……どっちだ!」
「たぶん……あっちだ」
話は決まった……とはいいがたいが、ゆっくりしている暇もない。
俺だって今回の旅は急ぐに越したことはないのだから。
「急ぐぞ! 副長が追いかけてこないうちに!」
「気合が入ってるんだか、抜けてるんだかわからないことを言うなぁ」
俺が指さす方にツクシは走ってゆく。
とりあえず副長はおにぎりがお好き、というのは覚えておくことにして今度こそ本当に俺達は旅立ったのだった。




