怪盗フォックスの明日はどっちだ
「あっぶなかったー……」
『お疲れ様ですマスター』
テラさんのねぎらいを聞きながら、俺は店のカウンターで突っ伏していた。
「昨日もずいぶんぎりぎりだった」
『はい。やはり魔法は個人の出せる戦闘能力としてはトップクラスです。魔法使いと呼称される能力者は、ある意味では勇者と呼ばれる存在より強力な側面も見受けられます」
「そうだなぁ」
『今回は反省点の多い戦いでした。テストはやはり十全にすべきと考えます。昨日のような事態に陥りかねません』
「なんかすみません……」
新兵器の無茶な使い方は確かにもうしたくない。左手の骨折れてたし、回復魔法をかけてくれた二ーニャからはすごく怒られた。
昨日はそれこそキツネに摘ままれたような一日だった。
怪盗フォックスはさぞかし新聞をにぎわせているだろうと思ったが、本日の紙面は静かなものだった。
あの後どうなったかは知らないが、きっと牢獄にでもぶち込まれたのであろう。
貴族の名前に泥を塗った落とし前として、存在ごと抹消されたのだとしたら笑えない話である。
面白い生き物だったが、もったいない狐を亡くしたものだと俺は心の中で祈っておいた。。
「あれはモンスターだったのか? それとも別の何かなのかな?」
ずいぶん奇妙で気になったが、テラさんにもよくわからないらしい。
『本人は狐を自称していましたが?』
「あれは狐ではない。狐のようなものだ」
『マスターも頑固ですね。あの生命体の世界ではそうだったのでしょうから偽証ではないのでは?』
「しかしなぁ。アレを狐と認めてしまったら、本物の狐に申し訳が立たない」
『立たせる意味があるとでも?』
「とくにはない」
まぁあのフォックスも少なくともこのあたりの生き物ではない。
そして俺はイーグルの顔が頭をよぎった。
「……ひょっとすると今後もこういう出会いは頻繁にあるかもしれないな」
そう呟くとテラさんも同意した。
『その可能性は大いにあります』
「やっぱりそうだよなぁ。でも会うもんは仕方がないよな」
どこから来たのかは知らないが、俺がコソコソしていた様に、そういう誰かがいても全くおかしいことはない。
『とりあえず、お客はひとり来たようですが』
テラさんが不意打ちでそう告げる。
「なに?」
しかしその割にはどたどた走ってくる音はしないし、超重量の馬車の音も聞こえないのだが?
今は朝である。ツクシが朝飯でも食いに来たかと扉を開けてみると、そこに立っていたのはツクシじゃなかった。
青い女騎士は、タイミングよく扉を開けた俺に驚き顔を向けていた。
「お、いたか店主。シャリオって貴族から聞いてきたんだが、ここには異世界の品物があるんだってな」
マリー嬢、襲来である。
だがそれ以上に衝撃的だったのは彼女の襟に巻き付く黄色い毛玉だった。
黄色い毛玉はもぞもぞ動き、俺の方を見る。
その瞳は、なんだか力がない。
フォックス生きたまま襟巻になっとる!
危うく叫びそうになってしまったが、すんでのところで堪えた。
「あ、ああ。シャリオお嬢様のご紹介でしたか。ええ私共は異世界の商品を扱っている店で間違いございません」
「そうか! なら見せてもらうぞ? 武器はないか?」
そしてマリー嬢はシャリオお嬢様が最初尋ねた時と同じようなことを尋ねてきた。
「武器はちょっと置いていませんが……」
当たり障りなくそう答えると、マリーは店内を見回し、その後妙な間の取り方をして、小声で尋ねた。
「そうか……ああなら。この首にいるやつの生活用品が欲しい」
なんだか武器より声色が真剣なんだけれども。
実はこちらが本命なのではないだろうか?
鼻息の荒いマリー様は期待に満ちた瞳で俺の顔を覗き込んでくる。
俺はじっとフォックスを見た。
奴もまた俺の顔をじっと見ていたが、狐の剥製みたいな瞳である。
まぁ牢獄よりはきっとマシなのだろう。現在ペットとして潜伏中だが、よほどかわいがられているのか毛並みがつやつやだった。
「そうですね……すぐにですと、動物用のおもちゃが少しくらいなら」
俺は穏やかに営業スマイルを浮かべ、こちらで提供できる最大の提案をした。
確か基地の中にペット愛好家がいたのかそういうのもあったはずだ。
そして今後の入荷予定も伝えておく。
「お時間いただければ、ペット用品などご用意いたしましょうか? もちろん異世界の」
「おお! そいつはいいな……ぜひ頼む!」
さて、俺は彼女の期待に応えることができるだろうか?
とりあえず思いついたのは天然素材のシャンプーとか、犬小屋とかそんなのだが。
しかしまずはアレを狐と認めることから始めようかな?
今日も俺は異世界に試されていた。




