トランスするドリル
顔色を変えたマリーが、叫ぶ。
「あんの馬鹿! やりすぎだ! 町ごとなんもかんも吹っ飛ばす気かよ!」
「いや……そんなことはさすがに」
俺の知るシャリオお嬢様はめちゃくちゃな人ではあるが、そこまで馬鹿なことはしないはず……。
シャリオお嬢様の顔をズームにすると、完全に白目をむいてなにかぶつぶつ言っていた。
俺は思わず目を背けた。
「クッ! ……正気とは思えない!」
「トランス状態でタガが外れてんな……あいつあんなだっけ? 学園の時はもうちょっとまともだったが」
マリーは唖然としていたが、さすが騎士。
瞬時に立ち直り、俺に協力を求めてきた。
「おい白い戦士! ちょっと手を貸せ! あれはさすがにまずい!」
「……わかった」
俺はすぐさま頷いたが、続いたマリーの作戦には驚かされた。
「私があの魔法を相殺する。お前はあいつを取り押さえろ」
「あれを!? 出来るのか?」
炎は未だに膨れ上がり続けている。
どう見ても尋常じゃない威力の魔法そうなのだが、マリーは自信をのぞかせ手を高く掲げた。
「は? 当り前だ。それにここは私に有利なんだよ!」
マリーが魔法を使ったことだけは理解できた。
ゴゴゴゴゴっと地鳴りのような音が響き始め、川から大量の水が空に向かって伸びてゆき、巨大な水球を作り出してゆく。
なるほど。確かにこの場所は彼女向きだ。
川の上なら水を使う魔法使いにしてみれば、武器に困ることもない。
「……!」
「さぁ行くぜ!」
「!」
シャリオお嬢様といい、派手に吹き飛ばす時こそ、水を得た魚のように生き生きする。
マリーが出来上がった水の塊を勢いよく撃ち上げると、水球はゆっくりにも見えるスケールの違う動きでシャリオお嬢様に向かって行った。
そして巨大な魔法の接近に、トランス状態のシャリオお嬢様が反応する。
「ジャマヲスルナ!」
もはやなんだか片言である。
炎の塊と水の塊は、お互いに触れた瞬間、炸裂した。
「うおおおお!」
「ウキャアア!」
俺も悲鳴を上げたが、なんかフォックスっぽい声もどこかに飛んで行った。
巨大な魔力が暴風と化し、衝撃波が周囲に広がる。
ただでさえ、無茶をして崩れかかっていた橋には、その衝撃は致命的だった。
「ぐお! 橋が崩れる!」
だがその時、空高く舞い上げられるシャリオお嬢様を視界の端にとらえて俺は橋が完全に崩れる前に全力で跳躍した。
それでも足りない高さを、補ったのは調整不足の必殺技だった。
「マリー! 水を頼む!」
「私に命令するんじゃねぇ!」
マリーはすぐさま要望に応え、水球を撃ち出してくる。
飛んできた水の塊を俺は左手で迎え撃ちすえると、左の拳は爆発した。
雷撃は、一瞬で水を水蒸気に変え、籠手はエネルギーのすべてを吐き出す。
「くっ!」
爆発の角度調整はまずます。
何とか体勢を立て直し、弾き飛ばされたシャリオお嬢様を、俺は抱き抱えることに成功した。
俺は腕の中にシャリオお嬢様の乱れたドリルヘアを確認して、安否を確認すべく声をかけた。
「……大丈夫か?」
「え?」
かろうじて意識があったシャリオお嬢様と目が合い、生存確認できたのだが……
「~~~」
シャリオお嬢様は、俺の顔を見たとたん気絶した。




