いくら何でもフォックスすぎる
「皆々様方。ご機嫌麗しゅうございます。怪盗フォックス。予告通り、この通り。お宝を頂戴いたしました」
どこからともなく無数の青白い炎が現れ怪盗を照らすと、兵士達全員の視線が一気に集まる。
怪盗の手にはすでに拳大のダイヤモンドがしっかりと握られていた。
俺がフォックスの唇が弧を描くのを確認したその瞬間、騎士団は動き出した。
「抜剣! かかれ!」
号令は青い人のものだ。
風の魔法を纏った集団が一斉に飛び上がり、その他の兵士たちは屋敷の階段から屋根へと駆け上がる。
ものの数十秒で屋根の上は完全に包囲されていた。
しかしフォックスは取り乱す様子もなく、どこかわざとらしく眉をひそめていた。
「あらあら。大人気ですね私。こんなにたくさんの方々に囲まれてしまって、困ってしまいます」
フォックスはそんなことを言いながら、持っていたダイヤを高く掲げるとポンと音を立ててダイヤは真っ赤な花に変わってしまった。
守っていたはずの物がなくなり、兵士達に少なからず動揺が走るが、すぐさま叫んだのはシャリオお嬢様だった。
「かまわず仕留めなさい!」
「あら野蛮ですね」
だが一瞬の動揺が命取りだった。
どろんとフォックスを中心に煙がふきだし、周囲の兵隊が煙に巻かれてゆく。
煙は見る見るうちに屋敷の敷地中に広がり、また、全く中の様子が見えなくなった。
「なんだ!」
「魔法か!」
「攻撃するな! 同士討ちになる!」
喧騒は盗聴しなくても俺のところまで聞こえた。
混乱するさなか、俺は煙とは全く関係ないところから屋敷を飛び出す影を見た。
『この場から高速で離脱する生物反応を確認。先ほどの目立っていた怪盗は目くらましのデコイだと思われます』
「よし! 追いかけるぞ!」
俺はテラさんに指示を出す。
「転送だ!」
『転送します』
すぐさま転送されたパワードスーツを身に纏い、俺は逃げ出す怪盗に向かって一直線に飛び出した。
屋根を足場に、パワードスーツはどんどん加速する。
フォックスは屋根伝いにまっすぐ逃げていたが、俺は進行方向に川があることを思い出した。
「橋の上なら……逃げ場はないな」
俺は速度を調整。フォックスが橋に差し掛かった瞬間を狙って回り込む。
「待て!」
「!」
怪盗フォックスは、俺に気が付いた瞬間急停止し、とんと跳ねて絶妙に間合いを開けてくる。
「あんたが噂の怪盗で間違いないな?」
「こんばんは……どこのどなたか存じませんけど。どうやら普通の方ではないようですね。何の御用かしら?」
落ち着いたトーンで話す女がただものではないことは間違いない。
あの煙といい、身のこなしといい、いつだって気を抜いたらあっという間に逃げられそうだ。
「さてどういたしましょうか? こう見えて私、強いのですけれどね?」
「!」
フォックスはどこかからステッキを取り出すとまるで、マジシャンみたいにそれを振るう。
ボボンとフォックスの体から煙が噴き出し、俺はとっさに上に飛んだ。
煙を上から見下ろせれば、何をしてきたところで少しは見れる。
攻撃してきても、逃げに回ってもこのパワードスーツなら見てから十分対応できるはずだ。
何かしてきたところで首根っこを押さえようとしたのだが、煙を突き破って出てきたシュルエットは人間ではなく、思ったよりもでかかった。
「は?」
金色の毛皮を持った巨大な化け狐がそこにいた。
いや怪盗フォックスだからって、いくら何でもフォックスすぎるだろう。
「へ、変身した!」
思わず叫んでしまって、金色の瞳と眼が合う。
襲い掛かってくるかと思いきや、白い牙の奥から流暢な言葉が聞こえてきた。
「さて、一飲みにしてあげましょうか? 逃げ帰っても追いはしませんが?」




