遠距離攻撃とかほしい
王都にも新聞社は存在する。
露店で販売しているそれをちょくちょくチェックしているのだが、今日の見出しは狐の仮面をした謎の怪盗が存在感たっぷりに乗っていた。
「なるほどなるほど、なかなか王都を騒がせてるなぁ……白い戦士はちょっぴりだな。まぁいいけど」
怪盗フォックスはやはり予告状を出してから貴族の屋敷に忍び込み、金目の物を盗み出して姿をくらませる。
その際化け物を見ただの、霞のように姿を消しただの、様々な目撃情報があるようだ。
能力は未知数だが、怪我人が少ないことを見ると、露骨な攻撃魔法の類ではないようだった。
「まぁ実際に対峙してみないと、こればっかりはよくわからんか。よし! みんな! アレの進捗はどうだろうかテラさん!」
『どの進捗でしょうか?』
何時もの秘密基地には今三人が集まっている。
俺は新聞から視線を上げ、テラさんと、そしてリッキーにゆっくりと頷いて見せた。
「必殺技だよ! 緊急会議です!」
テラさんとリッキーは俺の言葉に馬鹿を見る目でため息をついた。
「えー、まぁ進めているけど、なんでまた呼び出すのさ」
コリコリと頭をかくリッキーに俺は持ってきていた新聞を突き付けた。
「フォックス。今王都を騒がせている怪盗だ」
「……怪盗って、なんだろう?」
「いわゆる泥棒だよー。貴族の家に住み入り、金目の物を奪って消える。わかっていることは女だってことだけだけど、それすらも実は曖昧らしい」
「へー」
「んで、そいつがとある貴族の家に今夜盗みに入る」
「なんで泥棒に入る日が分かるの?」
「そりゃあ予告状を出してきたからさ。怪盗だもの」
「……そいつ本当に泥棒する気あるの?」
リッキーの疑問はもっともだがそれは結果が物語っていた。
「真面目にかどうかは知らないが成功させてはいるらしい。というわけで俺もこいつを捕まえてみようと思う」
ここらで一つ世間の役に立っているところを見せておくのも悪くない。
シャリオお嬢様のような強力な魔法使いまで引っ張りだしたところを見ると、本気で背に腹は代えられないのだろう。
だが貴族まで関わっていると聞いたリッキーは、思い切り顔をしかめていた。
「……絶対やめた方がいいでしょ。泥棒を捕まえるのはともかく、貴族の家の騒ぎに巻き込まれるのは危ないって」
「いやいや。ただ逃げられそうなら俺が捕まえるだけさ。ちょうどいいだろう? 凄腕の怪盗だぞ? 必殺技をテストするのにピッタリじゃないか?」
更に言うなら、貴族を出し抜くような相手なら相手にとって不足はない。
だがリッキーはあんぐり口を開けていた。
「殺しちゃダメでしょ。捕まえなよ」
「何言ってるんだ。必殺技ならいい感じに手加減できるさ。っていうか、そう言えば必殺技であんま死人が出ることってないような?」
「ひどい矛盾を聞いたなぁ」
『想定外ですね』
どういうわけかあきれている風の二人だが、そこは日々練習しているスーツ捌きの見せ所だった。
「まぁ細かいことはいいんだよ。うまくやる。それよりも新武器はどんな感じ? 今晩までに用意してほしいんだ!」
いくら俺が何か言ったところで、物が完成していなければどうしようもないわけだが、テラさんとリッキーはどちらも得意げに言った。
『試作品ですが、すでに完成しています』
「うん。テラさんの作ったやつをはめ込めば、あとは塗装くらいかな?」
「おお! さすがテラさんとリッキーだ!」
リッキーが注文通りの白い金属製の籠手を持ってきて、俺に見せてくれた。
テラさんはもとよりリッキーも興味さえ持ってくれれば、仕事が早い。
提案はしたもののここまで早く形になるとは驚きだった。
『この小手は左手に装着してください。エレクトロコアの電力を蓄え、任意に放出することができます』
俺は籠手を受け取り、眺める。
手の甲に透明のガラスのようなものがはまっていたが、中には大きな水晶のような石がよく見ると微妙に動いているのが分かった。
「おお……すごいな。威力の方はどうなった?」
これを武器に転用しようと思ったのはほかでもない。実際に電撃を食らってその威力を身をもって体験したからだ。
今まではスタンガンのように直接触れることが必要だったが、このスライムバッテリーを使えば、もっと幅広く電気ショックを活用できるのではないか?という狙いである。
「研究の結果、シルナーク氏の所有していた栄養剤を投与することによってスライムの蓄電能力を強化することに成功いたしました」
「……なんでシルナークのやつそんなもん持ってんだ?」
『理由まではわかりかねます』
うーむさすが謎の多いエルフ、シルナーク。持っている物も一味違った。
そしてリッキーも新しく作った籠手に自信を覗かせていた。
「それで僕が新しく小手を作って、そいつをはめ込んだわけさ。結構頑丈なはずだから、ガンガンぶつけて大丈夫」
『フルパワーの場合、きわめて強力な電撃が発生します。広範囲にダメージがあるはずですので、取り囲まれた場合はお試しください』
「……取り囲まれたくはないなぁ。だがついに広範囲攻撃か……上がるな!」
『本当に強力ですので、過度な使用は控えてください』
興奮する俺にテラさんは嗜めて言うが、俺だってさすがに街中を破壊しまわる趣味はない。
『仮称バッテリースライムの体液については未知の部分も多く、もう少し調整期間はほしいところです』
「あんまり時間がないのがネックだよな。でもまぁここのところパワードスーツの扱いにもまぁまぁ慣れてきているし。何とかなるだろう」
テラさんに俺は頷いてみせた。
日々のヒーロー活動で俺には前より格段に練度が上がってきている実感がある。
今なら新装備に多少不具合が出ても、他でリカバーできるはずである。
そうと決まれば、さっそく夜のために準備をしなければと俺はパワードスーツの調整に向かう。
リッキーはそんな俺を心配そうに見ていた。
「……結局。話を聞いてるとダイキチの言う必殺技って、効率よく敵を無効化する武器ってことだったのかなぁ?」
『……不確定です。今晩使用するなら調整の時間はありません。幸運を祈りましょう』
「まぁ。何とかするんだろうしね?」
なんと言おうと、使ってみなければわからないこともある。
俺はとりあえずやってみる派だった。




