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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
怪盗フォックス編
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エスプレッソとバッテリー

 俺、大門 大吉は割と上機嫌で秘密基地で作業中である。


『マスターは何をしているのでしょうか?』


 そんなことを尋ねるテラさんへの答えをいったん保留にし、ピカピカに磨き上げたエスプレッソマシンを組み上げてしまってから俺は答えた。


「コーヒー豆の抽出をする予定だから綺麗に分解清掃をね……」


『ご経験があるのですか?』


「いや……近々これが売れる気がするからしっかり整備しておかないと」


 俺は先日出会った異世界人の顔を思い出す。


 イーグルと名乗った異世界人は、あてもなくこの世界でコーヒーを探し回っていたらしい。


 あの調子ならたぶんすぐにでも買いに来るだろう。


 そんな予測はテラさんも同じようだった。


『そうなってもおかしくありません』


「だろ? あと俺もちょっと質問したいんだけど……それ、俺よりもやばいものを抽出しようとしてないか? 大丈夫それ?」


 ちらちらと横目で見ていた俺は、そのなんとも言えない光景につい口を出してしまった。そこには大きな水槽の中に入った―――俺の天敵の姿があった。


『問題ありません。このスライムが手に入ったことは幸運でした。この生物には実に優秀な蓄電能力があります』


 ボコボコとポンプで体が吸い取られてゆく蓄電スライムはどんどん箱に詰められてゆく。


 ついこの間、すごく苦しめられたのに、今の状況を見ると視線を逸らさずにはいられない。


「おお……なんてことだ我が天敵よ」


 天を仰ぐ俺だったがテラさんはいつも通りだった。


『例の施設ですが、おそらくはどこかの世界の発電施設だったのではないでしょうか? この生物を利用すれば、高性能なバッテリーを安価に製作できます。餌のやりすぎにはご注意ください増えすぎてしまいますので』


「うーむ」


 そして俺の手元には試作品一号のスライムバッテリーがすでにある。


 これが謎の生物の体液からできていると思うと微妙な気分になった。


「……いやまぁ。許可を出したのは俺なんだけどさ。実際見ると、なんとも複雑な心境でね。でもこいつ爆発したりしてただろ?」


 前の時は危うく死にかけるほど爆発した気がしたが、テラさん曰くその辺は大丈夫と自信を見せていた。


『あれは、蓄えたエネルギーが限界を超えた結果です。パワードスーツに搭載されているエレクトロコアの出力の大きさがご理解いただけると思います』


「……どこか誇らしげだ」


『そのようなことはありません。状況から見た当然の結論です』


 ちょっぴり心配だが、俺は自信満々のテラさんを信じることにした。


 他に代案なんてないとも言う。


 電化製品にはバッテリーは必要なので、出来る限り速やかに用意できるに越したことはない。


 最悪、大量の重火器を持った人間が怒り狂いそうなので、こちらも手を抜けない案件である。


「……では早速、俺も抽出してみようかね! エスプレッソというやつを!」


 気合を入れてそう口に出し、俺は元居た世界に思いをはせた。


 実はちょっと憧れはあったけど、大人の飲み物のような気がして手が出なかったあの一杯。


 小さい容器がおしゃれ度高いななんて思ったものだ。


「だがしかし、立ち止まっている時はもう終わりだ」


 俺は慎重にピッカピカに磨き上げたエスプレッソマシンをテラさん特製スライムバッテリーに接続。


 バッチリ電源のランプが輝いた。


「お、電源来たね!」


『完成おめでとうございます』


「こちらこそだとも。テラさんの助けなしじゃここまでたどりつけなかった」


『ありがとうございます。基地管理者のサポートをすることが私の存在意義です』


「ああ期待しているとも」


 では早速、豆を挽いて、エスプレッソを入れてみた。


 ブイーンと機械特有の音がして、とろみのある黒い液体がカップに注がれてゆく。


 数秒もすれば、基地内にコーヒー豆の香ばしい匂いが立ち込めていた。


「うん。いい香り。バッテリーも問題なさそうだ。じゃあこのまま量産体制とか整えてもらっても?」


『条件付きで可能です。現状可能な限りで準備は進めますが、スライム以外に必要な資材は用意していただく必要があります。そして何分基地内の施設は工場とは違います。過度な生産力は期待しないようお願いします』


「そ、そうね」


 だがテラさんにはもっともなことを言われてしまった。


 テラさんの言うように、いくら便利な施設がそろってきたとしても、ない袖は振れない。


 今後もやることは多いだろう。


 ただ一つどうしても無視できなかった疑問が俺にはある。


 最初だからこそ、この機会に俺は口に出しておいた。


「だけどその前に……スライム詰めたバッテリーを買ってもらえるかなぁ」


 手の中にあるスライムバッテリーを見る。


 中身がこうなる経緯を知っているからか、不気味なオーラすら見えた気がした。


『正確にはスライムに類似した生命体の体液ですが。しかし性能は素晴らしいものです』


 テラさんはこのスライムバッテリーにかなりの手ごたえを感じているのか絶賛した。


 イメージ以外は申し分ないとそういうことらしい。


 そういうことならもう何も言うまい。


「……とりあえずこいつを売ってみなきゃならないな」


 スライムバッテリーは今後の要だ。ひとまずお嬢様用の美容製品を地道に作りつつ、こちらも少しずつ準備を進めてみるとしよう。


 そんな時、転移装置からニーニャが飛び込んできて、ひどく慌てた焦りの思念が頭に響く。


【……てんちょ!】


「……ふむ、嵐は思ったよりずっと早くやって来たか?」


『ああ、そうではないでしょうか?』


「うん。よし。このエスプレッソはちょうどいいかもしれない」


 俺は小さなカップに注がれた黄金の泡を景気づけにグビッと一飲み。


「……にがぁい」


 何これとてつもなく苦い。


 飲みなれればどうにかなるのだろうか? どうにも景気づけというよりも先行きが不安になった。


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