欲しい物
ズンととんでもなく重い爆発音にツクシは動物のように顔を上げ、きょろきょろと周囲を見回す。
今仕留めたばかりのでっかいサイの上に乗り、ピタリと視線を止めたのはもうもうと煙を上げている方角だった。
「爆発したな! あっちに行けばよかった!」
地面が揺れる衝撃にビクリとリッキーが身をすくませ、ニーニャは周囲を警戒する。
「な、なんだいったい! 何が起こったんだ!?」
【……噴火?】
ニーニャも何が起こっているのか全く分かっていなかったようである。
そして空から様々なものが飛んできたのが見えて、リッキーは青ざめた。
「うわぁ! なんか飛んできたよ!」
【……まかせて】
短くリッキーの頭にニーニャの声が響く。
すると上空にいくつも光る玉が現れて、飛んできたものを粉々粉砕した。
「おお! すごい!」
興奮したリッキーは歓声を上げた。
しかし迎撃した土煙の中から、ひゅんひゅんと音を立てて飛び出てきた物体はまっすぐリッキーの方へ落ちてきて、真ん前に突き刺さった。
「ひぃ!」
リッキーは悲鳴を上げて尻もちをつく。
ニーニャは大慌てでリッキーに走り寄ってきた。
【……失敗した。大丈夫?】
「な、何とか大丈夫……でも驚いた。君ってほんとにすごい魔法使いだ!」
とんでもなく怖かったのと、感動で声が震えるリッキーだったが、目の前に突き立つ落下物を見て顔色を変えた。
「こ、これは!」
それは巨大な盾で、とても見覚えがあったからだ。
「……」
【……】
「ああああああ! たいへんだぁ!」
【……!……!】
ぐわんぐわんと頭が痛い。
それでも俺は目を開ける。
とても見晴らしの良いその場所は、高い木の上の様だった。
「……」
『大丈夫ですかマスター?』
「……ああ、不思議と体は痛くない。何が起こったんだ?」
確かあの時、視界が真っ白になったことまでは覚えていた。
するとそれを教えてくれたのはテラさんではなく、俺を覗き込むボルサリーノを斜めに被った美女だった。
「あのスライムが爆発したんだよ。そしてオレが君を助けた。大サービスなんだぜ?」
「……どうやって?」
仮に助けたとしても方法がまるで思いつかなかったが、イーグルは企業秘密だがと前置きしたのに得意げだった。。
「瞬間移動だよ。オレの奥の手さ。しかし残念だったね、結局苦労したかいはなかった」
イーグルに言われ、俺ははっとして身を起こす。
そしてまだもうもうと煙が上がっている元居た場所を見つけた。
残念だがさっきまで取りためた魔石は回収不能みたいだ。
俺はガクリと肩を落とした。せっかく集めたが仕方がない。もう一仕事する必要があるらしい。
「……まぁ仕方ない。魔石はまた掘るさ。まだそこら中にある」
「そいつは大変だ。頑張り給え。オレはもう少し転移したものを見て回って、気が済んだら帰るとしよう」
イーグルはそう言ってお疲れさまと俺の肩を叩く。
しかし命まで助けられるとは、ずいぶん大きな借りを作ってしまったものだ。
俺はそう言えば結局イーグルの目的をちゃんと聞いていないことを思い出した。
「それで……結局あんたはここに何しに来たんだ?」
するときょとんとしたイーグルは少しだけ恥ずかしそうに俺の質問に答えた。
「ああ、そういえばまだ言ってなかった。もちろん宝探しもそうなんが…オレはね、エスプレッソマシンがないか探しに来たのさ」
「…………はい?」
聞き違いかなと思ったんだが、しかしイーグルは今度はまじめな顔でリピートした。
「だからエスプレッソマシーンだ。しかも壊れてない奴。転移直後でもないと難しいだろ? そういうの」
どうも聞き間違いではないらしい。
俺はヘルメットの下で思わず笑みをひきつらせる。
「い、いやいやなんでそんなものを?」
とっさに聞き返してしまうくらい混乱したのだが、これはよくなかった。
イーグルは未だかつてないほど顔色を変えて力説した。
「そんなもの!? オレにとっては重要なんだ! 一日の朝は一杯のエスプレッソで始まるものだろう?! なのにこっちにはまともなコーヒーすらない! これじゃあ一日の活力が生まれないじゃないか!」
本気でイーグルは嘆きながら主張する。
「……そうか。そうだね」
それはこだわりなのか、憧れなのか、難しいところだが本人には引き下がれない一線の様だった。
俺にも共感できるところがないわけではない。
そんなに欲しいなら命の恩人に対する礼としては破格だろう。
「……そんなに欲しいなら。王都って人間の町にある電気屋を訪ねるといい」
「電気屋があるのか!」
たいそう驚くイーグルに俺は大きく頷いて見せた。




