勝ち目があるのなら
「で、電撃ぶっ放したら、動きが鈍くなったぞ?」
『おそらくは一時的なものです。多少の足止めが関の山かと」
「……」
蠢くスライムにはダメージらしいダメージはなく、死んでいるわけでもない。
このまま突っ立っていれば、動き出したスライムに飲み込まれて死亡もありえる。
俺と同じく万策尽きたはずのイーグルはため息を吐いて気楽に言った。
「こりゃもうだめだね。オレは宝はあきらめようかなって思うんだけど?」
「な、なんか余裕過ぎませんかね?」
『やはり異世界人はクレイジーです』
あまりの緊張感のなさにあきれる俺達をイーグルは軽く睨む。
「それは心外だ。別に他にもいろんな物が落ちてきてるんだ、現実的にここにこだわる意味がない」
「それは確かにそうだけど……」
そもそも逃げ切れるかというと少々疑問があるが、それは置いておいてもこのままこのスライムを放置しておく気にはなれなかった。
あれ、自由にしたの俺達だし。
俺はヘルメットの下で短く息を吐いた。
このまま刺激するだけ刺激して、森に散っていった誰かにすべて丸投げはかっこ悪すぎる。
まだパンチを一発撃っただけだ。できる手をすべてやったなんてとても言えない。
「……上等だよ。テラさん。あいつに勝ち目はゼロか?」
俺はだめもとでテラさんに聞いてみると、テラさんは回答する。
『限りなく低いですがゼロではありません。あの生命体は液体の中心に核となる臓器を持っているようです。視認することは難しいですが』
「そいつを壊せればあいつは倒せるのか?」
『いいえ。それだけではありません。あれは無数のスライムが一つとなった群体でもあります。すべての核を一気に破壊する必要があります』
「一気に?」
『肯定します。先ほどの銃撃と同じように核をいくらか減らしても、他の核が命令を出し、反撃があるでしょう』
「さっきの無差別銃撃は全く意味がなかったわけじゃなかったのか」
『はい。そうでなければ襲い掛かってくる事もなかったはずです』
イーグルに襲い掛かったということは確実にダメージがあったということか。
「てことは核の位置さえわかれば、イーグルなら仕留められるってことか」
自然とイーグルに視線が向く。
イーグルは俺の視線に気が付くと、やれやれと肩をすくめた。
「何かいい案でも思いついたかな?」
「ああ。あれをどうにかしたいんだ。核を射抜けるか?」
そう言うとイーグルはスライムを見て答えた。
「……核とやらの位置がわかれば問題ない。だがあのスライム、核が透明でオレには見分ける方法がない。君にはあるか?」
その質問に、外部スピーカーでテラさんが答えた。
『……先ほど電撃を吸収する際、核が発光していました。マスターが最大出力で電撃を放てば、目視することが可能です』
テラさんの提案はとても単純なものだった。
そうなると、俺はかなり危険な橋を渡らねばならないらしい。
「じゃあ俺は、あの中に突っ込むわけだな……」
『すべて見分けるのなら、相当な出力を近距離で放つ必要があります。全エネルギーを吸収される前に決着をつけたいところです』
「なるほど……」
イーグルは眉をひそめていた。
だが俺は、見えた勝ち目に飛びついた。
「よし。やろう」
「おいおい本気かい? オレを信用して命を預けるって? さっき会ったばかりだろう?」
確かにイーグルの言うことはもっともだったが、彼女が普通でないことは先ほどの攻撃からもわかっている。
「勝ち目が見えただろう? あとは俺が突っ込めば万事解決。あの化け物は一巻の終わりでハッピーエンドだ」
これがスライムなら放っておけば成長する。
多少のリスクを冒しても、止められるなら止めるべきだ。
全部綺麗に解決タイミングがあるなら逃しちゃいけない。
真面目にそう答えた俺をイーグルはじっと見ている。
そしてニヤリと笑みを浮かべたが決して馬鹿にするようなものではなかった。
「……確かにそうだ。ハッピーエンドはオレも好きだよ。君は見ず知らずのオレに命を預ける。そしてオレは特に痛くもかゆくもない」
「それでいい。しいて言うなら……せいぜい速やかに終わらせてほしいもんだね。よし! 行くぞ!」
「おーけぃ……君は格好同様おかしなやつだな」
「格好はおかしくない! 最高にかっこいいだろうが!」
俺は巨大な盾を前に構えた。
我ながら馬鹿なことをしようとしているものだった。
今から天敵のスライムの中に飛び込んで、電撃をもっと浴びせるわけだ。
勝ち目は他人だより。
失敗すれば必要以上に放った電撃がすべて俺を襲う。
俺はこの最高の場面に、一層気合を入れてスライムめがけて飛び込んだ。
「うおおおおお!!!」
盾に水面を叩くような重い手ごたえがかかった瞬間、全力でスライムに電撃を浴びせ続ける。
やはり激しい放電が起き、スライム全体に光が走った。
イーグルが判断するだけの時間が必要だ。
なるべくこの状態を長引かせる必要がある。
俺はちらりとイーグルを確認すると無数の銃が現れて狙いを定めていた。
「……!」
このままさっきと同じ結果になれば、俺はスライムに飲み込まれ、自分の電力で黒焦げにされ、ゆっくり消化される死に方をする羽目になる。
一秒ごとに最悪の展開が頭をよぎり、それを20回ほど繰り返したころでイーグルのささやき声は聞こえた。
「……よし。よくやった」
ほとんど一回にしか聞こえない銃声が耳に届き、後ろに飛ぶと、スライムは一度蠢いて、ドロリと溶け落ちて水になってゆく。
「おお! やったか!」
ただ喜んで拳を握ったが、そうしていられたのは一瞬だった。
『緊急回避を!』
「えぇーまたー……」
今度はいったい何が起こるのか?
また雷でも落ちるのかと思えばそうではないらしい。
水になったように見えたスライムの体の中にバチバチ火花を散らしているたくさんの石が見える。
それは明らかに何かがおかしく、俺は表情をひきつらせた。
「まさか……!」
ちょっと安心するとすぐこれだ。
ため息を吐く暇すらなく、俺の視界は真っ白に染まった。




