銃で脅される
「……!!」
一体こいつ今何をした!?
俺は心の中で叫ぶ。
女は完ぺきに場違いだった。
男性用のスーツとファーの襟付きコート、そこにボルサリーノ風の帽子なんて被っていれば完全に見た目はマフィアである。
そんな女がいきなり背後をとっているのだから、意味が分からないにもほどがある。
「……これはいったいどういう状況だテラさん」
『不明です』
「何かいるなら教えてくれてもよかったんじゃないか?」
『不可能です。武装をマスターに突きつける直前まで確かに彼女は丸腰でした』
「……どういうことだそれ?」
『不明です』
説明になっていない。
ただ確かなのは今背中に物騒なものを突き付けられていて、非常に危険だということだ。
完全に優位になった女はおっと声を上げて、話しかけてきた。
「手を上げているってことはロボットじゃないね? ああでも……こんなところにいるんだ。中身は穴を開けて確認してもいいのかな?」
「いいわけあるかい!」
あ、やばい。つい全力でツッコんでしまった。
しかしそれを聞いた、謎の女はとても愉快そうだ。
「はっは! 冗談だよ、冗談。やっぱり君は人間か」
笑い飛ばした女は俺を突き出し開放する。
「……?」
俺はすぐさま距離をとる。
これはまた近くで見るとずいぶんカッコイイ男装の麗人だった。
すらりとした長身の彼女はマフィアっぽい装いを見事に着こなしているが、そんな格好でもしっかりと女性だとわかる外見はまるでモデルの様だ。
だが一般人ではない。
服に負けない妙な迫力で俺を威圧してくる彼女はそう思わせる何かがある。
表情こそ笑っていたが、視線はとても鋭く、持っている機関銃は細腕がどうとか関係なく人間が手で使うには凶悪すぎる代物だ。
どんな怪力だと戦く俺に謎の女は明るい口調で話しかけてきた。
「オレの名前はイーグルという。そう警戒しないでくれ。オレはここには宝探しに来た口でね。君は銃を知っている人間なんだろう? なら不毛な争いが何を招くのかわかるはずだ」
「……」
そう言った謎の女、イーグルの周囲に変化が現れた。
ジジッと空中に回路基板のような緑色の光が走る。
その光は彼女を中心に大きく広がり、空中に浮かび上がったものを見て俺は顔色を青くした。
空中に現れたそれは銃にしか見えない。それも数百はくだらない銃口の群れだ。
それがすべてピタリとこちらに向けられたのを見た瞬間、俺は戦闘を覚悟した。
イーグルは一発、ドンと銃をぶっ放す。
俺には当たらなかったが、背後で炸裂音が響く。
わざと外した銃の効果は俺の知っているものと同じらしい。
「このままやりあうのもアリだ。君が賢明な人間であることを願いたいね。まぁそのおかしな鎧の中身がモンスターの類なら、それはそれで都合がいいが」
「待った待った……別に俺はあんたと戦うつもりはない」
「へぇ。それはお宝がかかっていてもかい?」
そう言われて、俺の体はわずかに体がピクリと揺れる。
「お宝なら魔石を掘って帰ればいいだろ? その辺にいくらでも転がってる」
「ほう。魔石に価値があるって言うと、君は王都の人間かな?」
「……どうかな」
背中には汗をだらだらかいていた。
それこそ生き延びるかどうかはパワードスーツの強度しだい。正直分の悪い賭けだ。
イーグルは銃口を揺らしながら、機嫌がよさそうな表情を浮かべた。
「まぁどっちでもいいんだけどね」
銃口は常に俺の頭を狙っている。
言葉と好戦的な表情を見ればすぐにでも銃が火を噴くことがありえそうだ。
「……もう一回言うが俺は出来ることならやりあいたくない。その銃といい、あんたたぶんどっか他所の世界から来たんだろ?」
破れかぶれで質問をするとイーグルは少し考えこんで俺の様子をうかがっていた。
チリチリと張り詰める緊張感があったが、イーグルはニカッと笑い、空中の銃を引っ込めた。
「それは助かる。こっちも無駄な争いをする気はないんだ」
「じゃあイーグルさん?……」
「ただのイーグルだ」
「……じゃあ、イーグル。こんなめちゃくちゃな場所に来たってことは金になりそうなものを探してるってことでいいんだろうか?」
宝探しというのなら、そういうことだろう。
しかしイーグルは一瞬困り顔で微笑んだ。
「まぁ間違っちゃいない。あって困るような物じゃないからね。だけどオレが欲しいのは―――」
ようやく話らしい話が出来るかもしれないと思っていたわけだが、バキンと何か亀裂の入ったような音が聞こえ、会話が途切れた。




