謎の先客
巨大な盾を携えて、いつもより少しだけ重く感じるパワードスーツで森を進む。
森ははっきり言ってとんでもない事になっていた。
立ち込める砂嵐で視界が悪く、空はガソリンでも撒いたみたいに不気味な色で、ゆがんで見える。
いろんなものが浮き上がり、時には突然重力を思い出したみたいに降ってきて、潰されでもしたら命はなかった。
おかげで森の中はいたるところで砂や岩石が降り積もり、まともに歩くのさえ難しいありさまだった。
「こりゃあ一般人は入れられないはずだわ」
『危険極まりないです。磁場も乱れているようです』
「マジか。迷子になったら死ねるな」
それでも何とか道なき道を突き進み、新選組の狩場からそれた位置に落下していた岩塊は、小山ほどはあった。
近づいてみると鉱山でも見たことのある光沢の石がそこら中にこびりつくように生えていた。
「おお……魔石ってこんな生え方するのか。昔やった塩の結晶化の実験を思い出す」
『地殻変動や、天災など大きくエネルギーが動く時、生成されているようです』
「へー……テラさんはいろんなことを知ってるなぁ」
『はい。基地も転移した直後、数名の職員が生存してしました。彼らはこの世界の情報収集に努め、その成果がデータとして残っています』
だがテラさんの思わぬ情報に素で驚かされてしまった。
なるほど道理で、この世界の情報をテラさんが持っているはずだ。
「そりゃあ色々感謝しておかないと」
情報もだが特にパワードスーツを残しておいてくれた辺りはものすごく感謝しておこう。
そして今手元にある以上、力は存分に使わせてもらうとしよう。
「それではやることはやっておこうか」
『純度の高い魔石をナビゲートします』
俺はパワードスーツ対応リッキー特製超高硬度ツルハシを取り出し、目につく魔石を片っ端から発掘していった。
採掘はモリモリ進む。
魔石は高く積み上げられ、これならリッキーもニッコリだろう。
だがそこでガツンと妙な手ごたえに行き当たった。
「お? こいつは……なんかあるな」
土を崩してみれば、人工物の廊下に突き当たった。
金属というよりもタイルのような材質の床の通路はそれなりの広さがありそうだ。
「お? これはひょっとして当たりか?」
『ハズレかもしれませんが。何か厄介なものの可能性もあります』
「怖いこと言うなよテラさん……」
俺は慎重に廊下を進む。
ヘルメットに内蔵された目のライトで周囲を照らすと、ケミカルライトのようにぼんやり光る謎の液体が流れる管がいくつも壁に張り巡らされていた。
「……なんか嫌な予感がしてきたなぁ。不気味だなぁ」
この施設の出所は、俺の世界でもなければテラさんの世界でもない。
これは本格的に、まだ知らない世界からやって来た建築物の様である。
もし電力で動いていて、電源が生きているのなら後々回収も視野に入れていきたいところだが、俺の嫌な予感は割と当たる。
管を追ってたどり着いた行き止まりは自動ドアで、まだ電源が生きていることを知った俺の不安はさらに大きくなった。
俺を感知したのか仕掛けが働いてガッシャっと重い音を立てて扉が開く。
中は思っていたよりも大きな空間でぼんやり輝く巨大な水槽のようなものがあったが、それ以上に俺以外の人間がそこにいたことに驚かされた。
「おや……客かな? 悪いけど先着順だよ」
「!」
コート姿の女性が振り返る。
俺は一瞬戦闘体勢に入って構えるが、目の前の人間はどういうわけか俺の目の前で掻き消えていた。
「は?」
「おっと。動くな」
そして声が聞こえたのは俺の真後ろからだ。
同時にガツンと妙に重い感触が背中に押し付けられて、この脅し方に恐怖した。




