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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
異世界の来訪者編
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出発の朝

「よぅし! 今日は稼ぎ時だぞ! 頑張ろうダイキチ!」


「いえー」


「声が小さい!」


「【いえー】」


 リッキーの気合の入った声にニーニャも声をそろえる。


 俺達は北門の前で気合を入れている真っ最中である。


 今回は新撰組による、とある地区に起きた揺らぎと呼ばれる現象の規模の確認と、現地への影響の調査だ。


 該当地域は新撰組の訓練に使用される土地のため、訓練と並行して調査が行われることになっている。


 俺達はその手伝いをしつつ、その場で手に入れた魔石などを報酬としてもらえることになっていた。


 運良くいけば、かなり稼げる。


 もちろん俺達も臨時報酬のチャンスに気合が入っていたが、中でもリッキーがめちゃくちゃテンションを上げてきていた。


 どうやら降って湧いた儲け話にかなり乗り気のようで、俺も誘ったかいがあった。


「今回はニーニャも参加してるから、リッキーもよろしく頼む」


 だが俺が改めて今回参加するニーニャを紹介すると、リッキーはニーニャを見つめた後、彼女の肩を心配そうに叩いた。


「あれはドッキリの仕込みじゃなかったのか。……君もどういう経緯でこんな変人に身元を引受られたのかわからないけど、人生色々ある。僕特製のオリハルコン端材ナイフをあげよう。変なことされたらためらわずぶっすりやるんだよ? 大抵の防具なら豆腐みたいにさっくりいくから取り扱いに注意してね?」


「おいおいおいリッキー。割とシャレにならない」


「シャレになってないのはそっちだよ。こんなかわいい娘さんに身の守りがナイフだけなんて少なすぎるくらいだよ。本当に後ろめたい事なんてないんだよね? 年下の女の子が異様に好きとかそういうこともない?」


「ない。安心したまえ」


 リッキーは、彼女はナイフなんか持たなくっても、最強の一角であることをまだ知らない。


 一体何が起こってそんなことになるんだと、リッキーの血走った視線が訴えていた。


 なんか知り合いみんなからこうも警戒されているとマジで不信感を抱かれそうなのでやめてほしいのだが。


 そして微妙な雰囲気になったこの面倒くさいタイミングで今回話を持ってきた張本人が先駆けてやって来た。


「お! ダイキチの友達だな! よろしくな!」


 パッとみ美少女にしか見えないそいつの名はツクシである。


 彼女が元気に挨拶するのを見て、リッキーはにっこりと表情を取り繕って握手する。


「……よろしくね。えっと君はダイキチの……妹さん?」


「違うぞ! 僕はだいきちの友達だ! 勇者でえらいんだぞ?」


「……へー勇者様。ダイキチは面白い友達がいるね?」


「まぁそうだ」


 あ、やばい。リッキーがにっこり笑っているのに俺を見る目が生ゴミでも見るようだ。


 あらぬ誤解が生まれていないことを願いたい。


 ツクシは変には思わなかったようだが、リッキーを全体的に眺めて若干心配そうに眉をひそめた。


「まぁ……今回はがんばってな! きついと思うけど!」


「え? あ、はい。どうも」


 リッキーはツクシから肩を叩かれ、曖昧な笑みを浮かべる。


 客観的に見ると子供にしか見えないツクシから頑張れと言われても、いまいちピンとこないものかもしれない。


 だが俺は―――ツクシが正しいことを知っていた。


 声を潜めたリッキーは俺に尋ねる。


「……どいうこと?」


「……すぐにわかるよ」


「なんか隠してるのかい?」


「最初から楽して儲けられるとも思ってないだろう?」


「それは……まぁ」


「あとは想像力の問題だな」


「……うぇー」


 たぶんその想像の遥か上の壮絶さだと思うけれど、言わぬが花である。


 そしてざっざっざっと綺麗にそろった足音がこちらに向かってきていることを察して、俺は大量の荷物を担ぎあげた。


「へ?」


 間抜けな声を上げているリッキーとゴクリと喉を鳴らすニーニャの視線の先には、すでに屈強な兵士達が整然と並んでいる。


 俺は青い羽織を着た集団の先頭に向かって歩いて行くツクシの後を目で追った。


 ツクシはバサリと青い羽織を翻し、全員に聞こえるような大声を張り上げて宣言する。


「よし! お前達! 今日は月に一度の強化訓練だぞ! ついでにちょっとのお仕事だ! でっかい転移が起こっているらしいから頭上に注意して死なないように気をつけろ!」


「「「はっ!!!」」」


 青い羽織の集団が、胸を強くたたきゴムのような音を立てて敬礼している。


 野太い迫力のある声に、リッキーとニーニャはビクリと身をすくませた。


「じゃあ、二人は荷物持って馬車な」


 俺はリッキーとニーニャの二人にそう言って、荷物を担いだまま筋肉集団の最後尾に向かう。


 用意されていた数台の馬車の一つに乗り込むのは二人だけだ。


「え? ダイキチは乗らないのかい?」


【なぜ?】


 疑問符を浮かべた二人に、俺はパンパンと大きな自分のリュックを叩いてみせた。


「なんでって……それじゃあ訓練にならないだろ? この馬車は荷物用だけど、二人は乗ってて大丈夫だから。許可取ってある」


「えぇ!」


 リッキーの悲鳴は副長のヒルデさんの号令にかき消される。


「では出発!」


「うおおおお!」


 それと同時に兵士達が雄叫びを上げ、ダッシュが始まった。


 全力疾走ならとてもついていけないが、隊列を組んだ行軍なら何とかついていける。


 俺は今回部外者なので、馬車の近くを一歩引いて並走するが、兵士達の一団は恐ろしい勢いで走っていくので、馬車の速度も驚くほどに速い。


「な、な、な、なにこれ!」


 リッキーが泡を食って悲鳴を上げる。


 俺はまだ余裕があるうちに答えておいた。


「だから訓練だよ! 森まで走って移動するんだ!」


「ど、どのくらいあるの!」


「50キロくらいかな? 昼までには着けるんじゃない?」


【「えぇぇ!」】


 リッキーとニーニャは驚いていたが、この戦士団、もとい新撰組では普通のことだ。


 走ることは基本である。


 持久力をつけておかないと、いざという時にスタミナは何倍も早く削れてゆく。


 そしてそれは地獄の始まりに過ぎない。


 この訓練は、森についてからが本番なのだ。

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